福井ーエッセイ



福井に行ったことが何度もある。


じいさんが死んで、それで墓があるから、時々行く。

じいさんは、ガンになって、モルヒネの中で死んでいった。

自分の自転車を持ち上げて、腰をやった。それでレントゲンを撮ったら、ガンだった。

沢山の葬式に出たことがあるが、スピーチは面倒だった。

この葬式場をミスで燃やしかけたが、まぁどうでもいい話だ。


我が家は、ほとんどの場合墓参りでしか遠出しない。今では車も無くなってしまった。

誰々が死んだ、誰かが死んだ。

昔死んだ誰々の墓へ。

そうして、遠くへ行く。自分の記憶の多くで、旅行と死は結びついていた。

他人の死は、遠出の口実だった。

墓になにかあると信じて、墓へ行こうとする。

なにもありはしない。そんなになにかあると思うのであったら、とっとと墓を燃やしてしまえばいい。

そうすれば、きっと死体が歩いてくるだろう。

「やあ、よく眠れたかい?」、そう言ってやろう。

そうすれば、「久しぶりです」と挨拶を返してくれるだろう。





福井駅を出ると、恐竜の像がある。

なんでも、福井の恐竜博物館は日本で最も大きいらしい。

その通り。

誇る物が少ない場所は、なにかで日本一を見つける。

ここが一番栄えているのかい?そう聞きたくなる小さな駅前だ。

夏では日差しが降り注ぎ、冬には雪が降り積もる。

北陸のくせに、やけに暑い。

そうしてすぐにやることがなくなって、山へ行ったり、海岸線沿いに行ったりする。

山には霧がかかっている。暑かったとして、そこは北陸だ。

少しでも冷えはじめてしまえば、とたんに寒くなる。

山の中腹を切り開いて作った町には、手が届きそうなほど低いその場所に、朝霧がかかる。

白く煙った霧に手を伸ばして、捕まえてしまいたかった。


そこに、親戚の親戚だかなにか知らないが、画家が住んでいる。その画家の家に行ったことがある。大きな家に、大きな画が飾ってあった。画について興味はそこまで持たなかった。

親の親戚や、知り合いに芸術家、小説家などは何人もいる。たいてい親が金持ちか、芸術家か、それとも結婚相手に金を払わせるか、それとも定時に上がれる職か、無職であった。

そういう連中に、芸術家の適正がある。

才能は、環境だ。自分で必要なことを行えることは当たり前だ。所詮趣味である。高尚な物でもなんでもない。最後のあと一押しは、環境だ。


結局の所、田舎の家は広い。

都会の人間が働き蟻のように詰め込まれ、使い潰されている頃、そういう奴らは羽を伸ばす。

もちろん、田舎にも田舎の苦しみがある。

すぐにそれを理解出来る。

なにも無いから、家が広いのだ。

田園が広がっている、広がっている、広がっている。

山脈、田園、森林、樹木...

あんな場所で遊ぼうと思ったら、銃か弓を撃って遊ぶぐらいしかない。

中世の人間の趣味が少なかったように、田舎の人間の趣味も少ない。

洋の東西を問わず、山男が中世の趣を残しているのはそういうことだろう。

城に興味はない。城は、あまりにも軍事的要素が強い。

芸術的要素がある場所は少ないのだ。


そうして、山でやることがなくなると、海へ向かう。

海でやることがあるのか?もちろんない。

海沿いのホテルに泊まったことがある。

カモメが飛んでいた。

ホテルの庭に、カモメがやってきた。

海が見える。だが、夜の海などまともに見えやしない。灯台の光が延々と回っているのは見える。

ぐるぐる、ぐるぐる、万華鏡のように廻り、幻惑させる。

そのうちに、灯台を打ち壊してやりたくなっても、まだ回り続ける。これほど回転する建造物に苛立ったのは、寝過ごしてとんでもない場所へ着いた環状線以来だ。


かといって昼の海は、あまりにもおもしろみが無い。

日本海側の海は、冷酷なほどの無だ。

昼の砂漠のようだ。そこには情緒がない。

情緒が無く、それ以外のものもない。船すら見えない。

波打つその水しぶきだけが、色だった。

ホテルの食堂が蒼くなったかと錯覚するほど、蒼い。

暗い青がどこまでも続いている。

蒼い砂漠が広がっているのだ。

灰の砂漠、緑の砂漠、とかく世には砂漠が満ちている。



だが、食い物はある。

海産物は安く、早く、美味い。日本海側だ。

鯖が名産で、江戸時代は鯖街道で発展したらしい。

ソバももちろん素晴らしい。長野と並ぶかそれ以上だと思っている。

基本的に食べ物は素晴らしい。


テレビを付けると、チャンネルすらまともに映らない。

福井市のチャンネルでその有様だ。

察する物がある。



恐竜を見に行ったことがある。

山を越えて、山を登って、山を越えて、山の途中で切り開かれた場所に、それがある。

外人達が寄り集まっている。どうやら、恐竜の学問において、重要な場所らしい。

まぁ、恐竜が好きな人間向けだ。


ここまで書いたが、本当にそういう場所だ。

田舎なんだ。

アニメイトは福井市全体にひとつかふたつしか無い。

本当にそういう場所だ。


山にかかる霧と、海と、食い物において損は無い。

たぶん、自分の地元よりは観光する場所がある。

それに、福井の都市は独特の情緒がある。

古い写真の中を歩いているような、形容しがたい情緒だ。

東京、大阪、名古屋とは違う。東京映画の中、大阪と名古屋、札幌はドラマの中。広島、神戸、下関、奈良、京都とも違う。


だがこういった福井のような地方都市は、古い写真を思わせるような趣がある。




特に話をまとめようとする気は無いので、この辺で終わっておく。

岐阜、三重、福井には何度も行った。嫌と言うほど行った。

岐阜は気が狂いそうになった。暑く、熱い。とんでもなく熱く、気が狂いそうになる。名古屋は日本の大都市の中で最も熱いが、岐阜はイカれている。

この三県に対しては、それなりに思い入れがある。


もしかすると、岐阜のことや名古屋のことも書くかもしれない。




これで福井の話は終わり。

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