ハンター

 男は殺し屋だ。

 軍を辞めたあと、殺し屋になった。陸自の空挺に入った後、中東に移った。現地のアサドやプーチン御用達のPMCに入り、かりそめのイスラム教徒となった。過激派が食い殺された後、そしてラオスで殺し屋になった。最初は薄給だったが、今ではフ

リーランスの高給取りで、一つの殺しにカネの詰まったバッグが与えられるほどだ。

 男は名をJと名乗っていた。JAPAN、JIEITAI、そういうもじりだ。

 Jは日本で殺しをする必要があった。

日本で標的をしばらく観察した後、疑問を抱いた。

こいつはただの少女だと。

女一人に、やけに高いカネを払うのは、おかしい。

だから、重武装で行くべきだった。

薬莢袋を着けたサプレッサー付きのMAC10短機関銃、それにGLOCK19、それに大中小の用途に合わせたナイフ数本を持っていくことにした。

 ナイフは右腰に大きいのを一つ、首に中ぐらいのを下げて、銃器と一緒に持つための、リングが付いた小さいのを一つベルトに仕込んだ。

 それに、自衛隊で習った暗殺用の複合毒を塗った棒手裏剣とワイヤーを持った。

 素手や近接武器で殺せるなら、小さい音で済む。上官が教えてきたときは上官の知性を疑ったが、今はそれを感謝している。

 それに、銃規制と犯罪に厳しい北東アジアで殺しをするときは、こちらのがいい。




男は機会を待った。

まだ少女を観察し続けていた。不信感を解消するまでは、殺すのは控えようと思っていた。雇い主から催促の電話が来るまで。

しかし、何一つ不審な点が見つからなかった。

金持ちのお気に入りなら、ミッションは拉致のはずだ。

背後関係、例えばマフィアのボスの娘だったり、軍警、政経の要人の娘と言ったわけでもなさそうだ。

だが、クライアントが催促の電話をかけた。

仕方ない。殺すことにした。ワイヤーで絞め殺そう。

夜道を尾けた。

曲がり角で、急に消えた。

左右を見回した。

いない。

前後を見た、上下を見た。

どこに行った。

上だ。

それも、遙か上。

少女は空に、浮いていた。

Jはワイヤーを捨て、MACを握った。

Jの指で制御された5発ずつの連射が、空に向かって飛んでいった。

静かな夜の住宅街に、小さくなったとは言え騒音公害とも言えるレベルの発砲音と作動音が響き、薬莢が袋の中を転げ回る音がした。

女はどこかへ消えた。

男も通報される前にどこかへ消えた。

あの女は今までで最悪の敵であると考えながら。



男は空に気をつけながら、隠れ家へ帰った。

MACの薬莢袋を片付け、うなった。

今回のハンティングは厳しい物になるだろう。もしかしたら、死ぬのは俺だ。そう考えていた。奴が高いカネをつけたのもわかる。

電話をしたら、後でそう伝えてきた。

女は空を飛べて、どこにでも現れるらしい。

殺しを見られたから、消そうと思ったときに逃げられたと。

顔と住所とその二つの能力しかわからなかった。お前は降りると思った。

そう男は言った。降りたらお前を殺すとも、男は言った。

Jは先に言えと叫んで、電話を切った。


Jは女をWと名付けた。魔女のWitch。

JはWの事を仮定した。

Wは、空を飛べて、浮くことも出来る。そして、瞬間移動が出来る。それは確定だ。

気配を感知する能力があるのかはわからない。

狙撃が一番だろう。毒を着けたクロスボウで死んでくれるタマならいいが、銃のが安全だ。

敵は何もかも不明だ。

もし住居が割れていたら、女は即座に自分を殺害しているだろう。もしかすると、逃げるような奴だったから、人を殺そうと考えるタイプではないのかもしれない。女の能力なら、対象を音もなく殺し、死体を消すことだって楽なはずだ。

キッチンで、ステーキを焼いて食った。

拳銃とナイフを手放さないようにしながら。




キッチンから出ると、あの女がいた。

GLOCKを即座に抜いて、撃とうとした。弾詰まり。

マガジンの底を叩き、即座にスライドを引いて、引き金を引いた。女はにやついている。

がちり、だめだ。

Wが手を開いた。

弾がWの手からこぼれ落ちた。

テレポート。男は舌打ちをした。

Jは両手を挙げて、降伏したふりをする。

「マジックか?」、Jは笑ってみた。

「そうだね」、Wは言った。

「何しにきた?」

「あんたを警察に突き出すため」

「そりゃ困った」

Jは言い終わると、即座に拳銃をWの顔に向かって投げつけた。

拳銃が消えた。

だがもうJは走り出している。ナイフを抜いた。

ナイフが消える。

だが、もうJは机を蹴り飛ばしている。

Wが顔面に机を食らって、吹っ飛んだ。

Wが壁に叩きつけられると同時に、Jは飛んで、掌をWの顔に向かって叩きつけた。

だがもういない。Jは壁にぶつかった瞬間、後ろを蹴った。

Wに当たって、Wを崩れ落ちさせた。

Wはうめいていたが、Jは飛びかかって、頭を踏みつけようとする。またWが消えた。

今度はJが天井に叩きつけられた。

そして、床に、天井に。

そして、天井で固定された。

「今、警察を、呼んだから。あんたは、そこで、逮捕されるのを、待ってなさい」

Wが振り返って後ろを向いた瞬間、Jは毒を塗っていない棒手裏剣を投げた。

Wの肩に突き刺さって、Jは地面に叩きつけられた。

Jは着地し、また棒手裏剣を持った。今度はそれで刺そうとしたが、椅子が横から飛んできた。

顔にぶち当たって、ぐらりとしたが、それでも突っ込んだ。

Jは今度は頭から壁にぶつかった。

手裏剣が消える。

後はナイフが二本だけだ。

「くそ」、Jが呟いた。

Wが叫ぶと、机が顔に飛んできて、意識を失った。



Jの目が覚めると、警官が俺を逮捕して、どこかへ連れていった。

しかし、不思議な場所へ警官はJを連れていった。

「おい、ここはどこだ」

いかれた地下施設だ。地下施設の机に座らされた。

「ここはCIAの対超常現象部門だ。君にはCIAのアセット(資産)として、あのような奴らをハンティングしてもらう必要がある」、サングラスの男が言った。

「お望み通りに復讐してやるさ」、Jはどう猛な笑みを浮かべ


た。

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