大剣魔法使いVS飛行型パワードスーツ(1)ラノベ調
「あああああああああああああああ!」
竜の首すらはねおとしそうな大剣を振り回す。
ツヴァイヘンダーを極限まで大型化したそれは、とうてい常人には扱えない。昔、少女ルキアは竜の首を落とした。だがそれは遠い昔の話だ。
目の前の敵は、龍ごときよりはるかに強い。
剣を剣で弾かれる。
圧倒的な力で斬り込んでいるはずなのに、なにもかも弾かれる。力は上だ。スピードもこちらが上。
なのに。
かすりもしない。
相手はこの距離でははるかに上だ。
「その程度?」
一気に、敵が迫ってくる。肩で遠くへ弾かれた。少女は飛んでいき、敵は60mmマイクロミサイルを背中のランチャーから一気に射出する。ドローンが少女を常にロックオンし続け、敵は撃つだけでいい。データリンクシステムの恩恵だ。
敵もまた少女だ。名を桜といい、日本で最強の女だ。
日本警察対異能ユニット。
異世界の技術を使って作られたそれは、適合率が25才を境に一気に落ちる。飛行型パワードスーツのようなものだ。だが神は25才以上の女性が嫌いらしい。男は乗ることすら出来ない。
戦争では、高価なぼろ切れだ。2050年では、防空システムが発達し、レーザーや大口径の対空機関砲で即座に撃ち落とされる。攻撃ヘリを空戦に寄せたような性能だ。その程度でしかない。だが、異能体を倒す時は、これが周辺被害を抑えられる。
敵が離れると、一気に338ラプアマグナムを装填した機関銃、LWMMGを撃ちまくる。一つ一つが、生身なら手足とお別れする。北極熊すらも一撃だ。
そしてそれよりはるかに強い、背中の連装50口径機関銃が火を噴く。
剣を持った少女は、重力制御でずれながら、昔なじみのバリア魔法を強く展開、風魔法をはるか遠くにかけ、銃弾を空気抵抗でずらした。マイクロミサイルと50口径、338の連射を防ぐ。マイクロミサイルの弾頭は、HEATMPと言って、正面に鉛筆程度の太さのメタルジェットを貫徹させ貫通穴から爆風を吹き込み、周囲に鉄球をばらまく。だから、メタルジェットさえ外してしまえば、ただの散弾と爆薬だ。貫通威力はぐっと下がる。
ルキアはネットで兵器について調べていて、それを知っていた。だから、バリアの先にさらにバリアを張っていた。五百メートル以上からかける強風で銃弾をずらし、メタルジェットが一枚目のバリアを貫通したが、二枚目で爆風と散弾が弾かれた。
足下の街では、もう異能ユニットの敵が全員落ちている。
ルキアが射撃魔法を放つ。追尾型と、直射型。
足の遅い追尾型で、相手を直射のキルゾーンに追い込む。
桜は、スラスターで追尾型を避ける。
(ーーーかかった!)
桜がスラスターで弧を描くように回避した。そして、青空を飛び回る。
ルキアが一撃必殺/光速の直射型を放とうとすると、視界が真っ白になった。桜はもういない。
桜は、太陽を背にするまで駆け上がっていた。
科学世界では、150年前の化石のようなテクニックだ。科学世界は、戦争の達人ばかりだ。
ルキアは恐れおののいた。都市の規模だけでなく、殺し合いの歴史が全く違う。ルキアは魔法世界最強の素人だ。だが、桜は日本最強のプロだ。
この世界の連中は一体ここまで来るのに、世界中の人間を何人を殺してきたのか。
もっとネットで敵の戦術を調べておけばよかったが、そんな時間はなかった。
ルキアは魔法を撃てず、即座に場所を離れた。
「あんた、凄いわね」
「それはあなたもだと思うけど」
空が世界の終わりのように光る。宝石のように光る。地上の星とはまさにこのことだ。
魔法/銃弾がはじけ飛ぶ、火球/ミサイルが飛び交う、剣で切り結ぶ。踊るように、舞うように、光がくるくると回る。
光が螺旋を描くように、登っていく。
急にルキアが、下へ向かった。天使が墜ちるように。
桜は、下へ向かうとき、ミサイルと銃を撃たない。
下には守るべき市民がいるからだ。ルキアは笑った。
これからは剣の勝負だ。だがこちらは魔法も使える。
「マイン!浮遊!」、ルキアは触れれば爆発する光の球を機雷のように周りに現出させ、桜の行動を制限する。
「ーーーバインド、射出っ!」
ルキアが拘束する光の輪を飛ばす。
「遅いっ!」
桜は輪を避け、ルキアの左斜め前に繰り出す。
桜が剣を振り下ろす。
ルキアは剣の先を左手で持って、剣の真ん中で受け止めた。
ルキアは笑った。桜の剣がルキアの剣先から流れていって、からぶった。勢い余ってすれ違うときに、ルキアは剣先を桜の腹に当てた。桜の剣の技は、同じ武器を使い、縛られたルールで戦う試合形式で磨かれた物だ。もちろん、素晴らしい距離感と技の切れ味だ。だが実戦では、より強く大きな武器を使い、様々な使用方法を知っているルキアの方が強い。
いくら速度が速くなっても、宙を飛んでも、大きな武器の方が強い。
バリアが削れる音がした後、桜の皮膚を一枚だけ薄く切った。
「きゃあっ!」
かわいらしい悲鳴を上げた桜は、地面に堕ちていく。
「バインド、高速」、桜が手足を拘束され、頭から落ちていく。
「スラスト」桜が速度を増して加速する。運動エネルギーだけで、恐ろしい威力になる。
ルキアは指を鳴らす。
「ーーーマイン、落下」
光球が下に落ちる。最初からこれを狙っていた。
「ホーミング」、追尾型の火球が放たれる。
ルキアは剣の切っ先を、桜の落下地点に向けた。
「天にまします我らが神よ。太陽神ソール、雷神トール。太陽と雷の力を貸したまえ。代償は我らが血、敵の血、市民の血」
剣に稲妻がほとばしり、光があふれ出す。地が割れるように震え出す。
桜は墜ちていく/墜ちていく/墜ちていく。
「許したまえ、我らが神よ。全ての生命を地獄でなく天国へ送る我を許したまえ」
剣先の光球が膨らみ始めて、直径約50mほどになった。
「穿て!ラグナロク!」
光球の殻が破けた瞬間、光線が放たれた。
地面に光線が降り注いだ瞬間、大地が爆裂した。
半径100mが一瞬にして吹き飛んでしまった。
ビルも、電柱も、車も何もない。ただ、クレーターがあるだけだ。
もちろん爆心地にいる桜は無事なはずがない。それに、市民も。
ルキアは力尽き、膝を折った。
口から血を吐き、目から血が流れ続けた。
そして、地面にゆっくりと下りていった。
「はは、ざまあみろってんだ」
ルキアは剣を地面に突き刺し、ゆっくりと歩いた。大剣は重すぎる。腰に帯びたレイピアだけを持って、あたりを歩いた。
敵の連中は全員落とした。
あとは軍隊が来る前に、ワープする。
「やったぞ!あたしは、日本の誰よりも強い!私が最強だ!」
「それはどうかな?」
銃撃が飛んでくる。もちろん、バリアを張っている。
ルキアは伏せた。クレーターの大小の穴が、塹壕の代わりになる。そして、レイピアを抜いた。
「くそ、どうしてだ」
「もう一人が私を助けた。あなたは死刑を食らうでしょう。私がその前に殺す!」
「スモーク!」、ルキアが叫んだ。
ルキアは煙幕を張った。そして、退散した。まだ健在な市街地へ向かう。
敵は二人だ。なんとかなる。
「透視」、ルキアは敵の武装を見た。
桜ともう一人はLWMMGだけ。あのヘンなスーツは着ていない。
機関銃だけなら、バリアで防ぎきれる。突っ込んでレイピアで刺せばいい。
だがバリアがすぐに破れ、脚も普通の早さに戻った。
「くそ」
魔力が限界値に達し始めている。休息が必要だ。
透視を続けながら逃亡していると、二人とも銃弾が切れたらしく、一人はその場で増援を待とうしていたが、桜だけは細長い鉄パイプを拾って追いかけてきた。
「へへ、なんて女だよ。好きになっちまいそうじゃん」、ルキアは鼻をこすった。たまらない。
長い間走り続け、地下鉄に入った。線路を抜ければ、しばらくは隠れられるはずだ。
だが、桜は足が速かった。
ルキアが一息ついていると、もう桜はホームまで降りてきていた。
ルキアは舌打ちをして、桜を見た。
「へえ、あんた、でかい剣も使えるの?」
「あなたのそれはレイピア?」
「こっちとあっちで名前が同じなんだな」
「この世界は多少互換性がある。あなたの魔法も、英語と日本語が混ざっている」
「まあね。じゃ、早いとこやろうか」
桜は150cmほどの細長い鉄パイプを、日本刀みたいに持った。
ルキアは130cmのレイピアを相手ののど元に向けるようにした。
ルキアのバリアはもう、鉄パイプの一撃を受け止めきれるほどではない。身体速度は普通だ。武器も、大して差はない。この状態では、桜の方が強いかもしれない。
桜は、鉄パイプで突いた。ルキアはレイピアでそらして、すぐに後ろへ飛び退いた。
桜が飛び込んで、鉄パイプを途中から左手だけで思い切り頭に振り下ろした。
(こいつ、科学世界の人間なのに死ぬのが怖くないのか!?)
ルキアはそう思った。レイピアに無計画に飛び込めば、普通は死ぬ。だが、それは試合の癖だった。試合では決められた部位しか一本を取らないので、飛び込むのは強い。それが奇跡的に功を奏した。レイピアで受けたルキアは、鉄パイプを掴んで、脇で抱え込んだ。レイピアで桜の左頸動脈を切り落とそうとしたが、もう桜は前に出てきている。
腕を止められて、組まれた。
(ーーーまずい!)
脚を引っかけられて、倒された。
桜がルキアの上を取った。桜は徒手の訓練を受けている。素手なら桜のが強い。
桜がルキアの顔を殴りつける/殴る/殴る。
ルキアがレイピアを離すと、ルキアの右腕を取って、腕十字の体制に入った。ルキアは右腕を伸ばされて、折られた。
「ああああああ!」
ルキアは左手でナイフを抜いて、桜のふくらはぎを刺した。
二人とも、ふらふらで立ち上がった。
「くそ、バカ野郎」
「許さない、あなたを許さない!市民を殺したお前を、絶対許さない!」
ルキアが左にナイフを持っている。桜はまともに歩くことすら出来ない。
ルキアがナイフを逆手に持ち替え、斜めに振り下ろした。
桜は腕で止めた。投げようとしたが、脚がおぼつかない。
「今度は、こっちが上だ」、ルキアは叫んだ。ナイフを片手で押さえつける。桜は腕を止める。そして、腕を流した。
桜の首の横で金属音が鳴る。
桜は右腕でルキアのナイフを持った腕を脇に抱え込む。
「が、ああ」
肘が伸びている。
桜が腕を巻き取り、ナイフを絡め取った。ナイフが飛んでいく
今度はルキアが桜に頭突きをし始めた。
ルキアは桜の右目に、左の親指を突き立てて、そこに頭突きをして押し込んだ。
桜の目から血が流れ出す。
「殺してやる!」、ルキアが叫んだ。ルキアは口を開けた。頸動脈をかみ切ろうとしているらしい。
ルキアの顔を押さえていると、桜は小指を噛まれた。
噛みちぎられ、小指がどこかへ飛んでいく。
とたん、銃声が響いた。
ルキアは、倒れ込んだ。
「大丈夫ですか!?桜さん!」
普通の警官が、桜に駆け寄った。
「脚を刺されて目を潰されました。早急に脚は止血が必要です」
警官がルキアを避けて、桜は持っていた止血帯を患部の心臓に近い方に巻いた。
「立てますか?肩を貸しましょう」
桜は、ゆっくりと歩き始めた。
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