渡り鳥



あの日、あいつは消えた。

ふざけた神が、あいつをどこかに連れていった。

魔王をついに殺し、この世界はもう平和になったはずだった。

だから、神はあいつを連れていった!

あいつも、なんの未練も無いような顔でどこかに行ってしまった。

あいつは、元からこの世界の人間でなかったらしい。魔王を殺すためだけの、使い捨ての駒<勇者>だった。

私は、魔王を倒したら、あいつに愛の告白をするはずだった。

剣を捨て、あいつと一生をともにしたかった。

だが、神はあいつを連れていった。


私は三日三晩泣き叫んで、声がかれた。その後、仲間に連れていかれた。

私が王都に着いたら、王はあいつなどいなかったほうがよかったなどとぬかした。

だから、王都を爆破した。島のように大きな火球をメイジに作らせた。そいつも、同じ気持ちだったらしい。

後には灰だけが残った。

これは、魔王の呪いだ。

魔王は、死ぬ前に呪いをかけた。

愛のために、なにもかもを滅ぼしたくなる呪い。甘美で、破滅的な呪詛だ。


姫は王都を見て、笑った。

なぜなら、姫も私達と同じ呪いを受けたからだ。

この呪いを受けた者は、勇者以外の手で殺すことは出来ない。

勇者を愛する者だけがかかり、そして勇者の手によって殺される。それが運命だった。

だが、あいつはどこか別の世界へ帰ってしまった。

姫は、王国の女王になった。

女王は、世界へ宣戦布告した。

我々は一方的に勝利した。メイジの戦略魔法で、全てが吹き飛んだ。地図さえあれば、王宮からはるか遠くの街を焼き滅ぼせる。

我々は、世界を支配した。

魔王軍より、多くの人間を殺した。

その後、魔王城で、文献を漁った。

殺した魔王が書いていた文献には、こう書いてあった。




勇者が魔王を殺せば、魔王は勇者を愛する者の中から生まれる。魔王が復活すれば、愛されていた勇者は一度だけこの世界に戻ってくる。

勇者は二度世界を救う。三度目は無い。

勇者が死ねば、新しい勇者が違う世界から連れてこられる。

魔王が死ねば、勇者は二度と戻らない。

勇者と魔王が同時に死んだ場合、また誰かが代わりになり、勇者は違う世界から来る。

私は勇者と魔王の子供だ。私が代わりだったということだ。

確実に魔王になるためには、呪いを受けた他の全員を殺せばいい。




私は狂喜乱舞して、メイジと姫と戦士を殺した。



今、私は魔王城の玉座の前にいる。あとは座るだけだ。

私が魔王になれば、またあいつが戻ってくるかもしれない。

ならば、私が魔王になろう。




この世界全てより、渡り鳥たった一人のが美しい。

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