無題

冬の朝のレールみたいに冷たくなった夜に、僕はビルの谷間を縫うように歩いていた。

人の波を縫って、うねって、曲がりくねって、荒れ狂って、たどり着いた。

夜の闇があんぐりと口を開けて、たたずんでいる。

「やぁ」、夜が言った。

「こんにちは。今日はいい朝だね」

「この真っ黒い翼は気に入らないかい?」

夜は大きな漆黒の翼を広げた。

「もちろん好きだけどね。だけど、本当はまだ朝じゃないか」

「それもそうか」

夜が翼を広げた衝撃で、月がどこかに飛んでいってしまった。

「ぼくに乗ってみるかい、人間」

「そのために来たんだ」

僕が夜に乗ると、夜はその翼を広げて飛び立った。

地球の裏側まで真っ黒になって、太陽は逃げてしまった。

僕が夜を操って、そこら中を飛んで回った。

そうすると、そのうち何もかも黒くなって、荒れ狂った。

人は叫びだし、車が走り出し、ビルが倒れ、街が漆黒に染まった。

そのうちに全てを黒く塗りつぶした。

「これがぼくさ」

「           」

答えようとした声すらも黒くなった。

僕は夜に乗って飛び回った、飛び回った、飛び回った・・・・・・

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