某ゲームのイベントに殺陣つけた 日本刀VSさんせつこん 

 江戸城。紅の虎、ホンフーがロシアと組んで起こした江戸城占領は、海賊団達の手によって終わりを告げようとしていた。

 紅虎は、海賊団達との最後の戦いを始めた。手下の凶手(殺し屋)どもは、海賊団にやられた。

 紅虎の相手は、灰原。日本最高の剣士だと名高い男だ。だが、紅虎は武器を抜かなかった。

 灰原の斬撃、刺突をすべて避けている。だが、3000万人の頂点であった灰原相手にそれは、少し無理がありすぎた。

 紅虎は後ろに飛び退き、その細い目をさらに細めて笑った。

「ふふ、素手だとさすがに分が悪いか。しかし、日本刀はいい武器ですね。タオ

刀)といえば、大陸では重さで切る無粋な武器なのですが、日本刀は突きを可能にする細身にしなやかさを加味した、いい武器です。しかし、最高ではない」

灰原は黙っていた。もともと寡黙な男であったし、次の言葉を待っていた。

 刀ではない。であれば、この虎が出してくるのは戦場の王だった槍か?それより個人戦に向くなぎなたか?それとも日本最高のなぎなた使いを倒したという契木、棒と鎖と重りを組み合わせたようなものか?

 その大陸最高の武器とやらを、知りたかった。

「三千年もの間、戦いばかりを研究した我々が、ついに生み出した最高の武器をお目にかけましょう」

 実際は、それが置いてある場所まで逃げるのが紅虎の目的だった。鎖でつながった、三本の棒。

 畳まれた三本のそれの一本を持って、地面に垂らした。

「これなるは、三節棍。武術(ウーシュー)の神髄。見るのが初めてだというのなら、あなたに勝ち目はありません」

 灰原は、それを初めて見た。だから、背筋がぞくりとした。

 紅虎は三節棍の両端の棒を持った。二刀流か?灰原は二刀流使いの動きを思い出した。脇差を抜き、こちらも二刀にしようかと思ったが、相手の土俵で勝負するのはまずいと思い、やめた。灰原は日本刀の切っ先を、紅虎の目に向けた。なにかわからない武器には、これが一番手堅い。

 こちらの方がまだ間合いが長い。紅虎は、走り出した。灰原は、紅虎の頭を縦に割ろうとした。紅虎は少し斜めに踏み出し、左手を離した。とたんに二つの棒が水平に振られる。

 灰原の腹を棒が打ち据えた。頭に当たっていたら昏倒していただろう。苦しいが、死ぬほどではない。

 そして、もう後ろに駆け抜けていた紅虎の手にまた棒が戻った。

 紅虎は笑った。

 灰原が踏み込んで刀を袈裟に振った。紅虎は左の棒で受ける。まだ遠い。こめかみに向かって刀を振り抜く、右の棒で受ける。左の棒で灰原の顔を突いた。しかし、首を少し振ったおかげで倒れるほどではない。

 刀の振り下ろし、中心の棒で受ける。紅虎が腹を蹴り飛ばす。

 灰原は離れた。紅虎が端と真ん中の棒を持った。くるり、振り回すと、灰原の左手を打ち抜いた。左手が離れる。

 手が痺れた。

 紅虎が一番端を持って体をくるりと回し、灰原の左膝を叩いた。灰原の膝ががくりと落ちる。

 さらに紅虎は8の字に振り回し、それから縦に振り下ろした。灰原は刀を上げて、頭を守ったが、中心の棒を受けてしまった。端の棒が回り込み、背中を打ち据えた。

 そして、紅虎の手にそれが戻る。

 紅虎はただ笑っている。嗜虐的な笑み。じわじわと殺してやろうという顔だ。棒はサディスティックな武器だった。特にこれで人を殺そうという時には、とても残忍になる。

「なんだ、これは。間合いがまるで読めん」

 痺れる左手を押さえて、刀を握りなおす。左足が笑っている。

「そういう武器なのですよ、これは。二刀流の攻防一体、棒術の速度、槍の間合いに、フレイルの防ぎにくさ、そして変幻自在の形態変化。これこそが究極の武器。武術の最高峰!」

 灰原は、破れかぶれに刀を振り下ろした。紅虎は斜めに下がって、端と真ん中を持ったまま刀の背に振り下ろした。

 刀が三つに折れる。日本刀は背と横っ腹の強度が薄いのだ。度重なる航海で、刀はもう限界だったが、新品だとしても折れていただろう。そして、紅虎は灰原の左手を打ち据えた。残った柄すら畳に落ちる。

「ね、たいしたもんでしょ。さぁ、これで決着」

 海賊団の一人、ハルカが、拳銃で紅虎に狙いを付けていた。紅虎は目を開けて、ハルカを見て、飛び退いた。

 コルト・パターソン。最初期のリボルバー。銃にかなう人間などいない。西洋最高の武器。当時ではアメリカ最高の拳銃。人類が作った最も優れた武器。その銃の引き金が引かれることはなかった。

 しかし、銃声が響いた。

 灰原はフリントロック・ピストルで、紅虎の胸を撃っていた。

「え」

 紅虎は自分の胸を押さえて、1センチの穴が空いていることに気がついた。

「まさか、銃だと」

 灰原は目を瞑った。

「これ以外に、お前に勝つ方法が思いつかなかった」

「いえいえ、なんでもありが戦いの基本。しかし、達人同士の決着がこれとは、興ざめですね」

「すまん」

「謝るのはこちらです。なにしろ、私の勝ち逃げだ」

 紅虎は笑って、畳の上にくずれ落ちた。そして、血を流し続けた。

「おい、灰原」

「戦いは俺の負けだ。ここで死んでも良かった。だがこのふところにあった銃の重みが生きて還れと。俺は、卑怯者だ」

 灰原の友人の女性、妹弟子の真琴から貰った拳銃だ。真琴は、灰原にそれを使えと言っていた。最後のお守りとして。真琴は灰原のことを愛していた。だから、生きて還って欲しかった。それを灰原は知っていた。武芸者としては失格だが、真琴のことが頭をよぎった。だから、それを使った。


 灰原は、うなだれながら部屋を出ていった。

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