未来(2)


 カリフォルニア連邦人権委員会。

 私は美しきこのカリフォルニアを守るために、今日もここで働いている。

 我々は自由でリベラルで差別のないカリフォルニア連邦の象徴として、最も美しい省庁としてその任を与えられている。

 私はこの省の中の輝く女性の一人だ。前時代の女性差別と戦争の反省から、男性が省庁で働くことは許されていない。もちろん政府も、軍や警察上層部も全て女性だ。

今日のニュースが聞こえてくる。もちろんニュースキャスターは、動物型のアンドロイドのホログラム。

”カサンドラ連邦大統領が反差別法を強化”

”差別主義者の南部連合が連邦の反差別法を批判”

”メキシコ麻薬帝国がカリフォルニア連邦に越境”

 東の白人至上主義国家の南部連合が私達の連邦に攻勢をかけている。アメリカは本来なら古く薄汚いアメリカがヒスパニックとインディアンの方々から力でもぎ取ったものなので、ヒスパニックの方々が越境してくるのは仕方が無い。本来なら国境を開放すべきだ。連邦国境警察が南部との国境を守護してくれているが、いつまで持つのかわからない。

 もし連邦が南部に占領されたら...

  恐ろしいことになる。白人と男性が政治に戻り、また女性と有色人種の権利が剥奪される。戦争も起こるだろう。

 昔、男性政治家が国家の実権を不当に握っている時代に、核が飛び交った。

 男性は攻撃的で、凶暴で、性欲がある。民衆と女性を強姦することしか考えていないけだものだ。

 大麻がその攻撃性を抑えるため、連邦の男性は大麻の服用を義務づけられている。それに、禁性欲剤もだ。

 私の仕事は自主規制だ。女性が乏しめられている創作物と差別的言論を取り締まる。

 旧時代の創作物は全て違法だ。汚らわしい欲求。女性を馬鹿にした内容。他人種への蔑視。

 規制の内容は、女性は男性より多くの割合で出さなければならないこと。女性の会話の内容は8割以上が男性に関係ない話題。多国籍であること。自国民や白人は2割以内で、有色人種や他国民を8割。男性と白人と南部と旧アメリカを賛美しないこと。服装や行動言動が性的でないこと。

 そのほかにもいろいろあるが、もしこの自主規制に反した場合、創作者の家庭と職場に連絡し、職場に自主的に解雇してもらい、自主的に反差別法に基づいて出頭することが求められる。

 私は今日も三件、男性創作者に対して自主規制を行った。

 そして、電子吸着式ガスマスクを着けて外に出た。

 上司の女性に、バーに誘われたのだ。

 大麻を今日も楽しみに、外に出た。大麻は煙草と違い、精神を落ち着けてくれる上、健康被害も少ないし、アルコールと違って暴力衝動を引き起こさない。

 黄色の煙が空を包む。西部の旧LAから吹いてくる、死の砂だ。

 戦争中に沈んだ西海岸の原潜が、メキシコの原子炉復旧作業によりメルトダウンし、更に酷くなった。

 原発は最低だ。連邦では自然エネルギーと火力だけで電気がまかなわれている。

 歩いているうちに、バーに入った。

 男性は旧アメリカ時代、酷くバーで暴れた。旧時代の創作物がそれを物語っている。だから、多くのバーでは男性立ち入り禁止だ。

 私の上司を見つけた。

「XX。今日も知的で、リベラルな仕事ぶりだったわ」、落ち着いた、低い声だ。

「ありがとうございます。あなたもそうでした」

 連邦では、内面を褒めるのがリベラルな挨拶だ。外面を褒めるのは、人権に反する。

「XX。大麻を吸わない?」

「いいですよ」

 カップルパイプで、大麻を吸うことになった。彼女は元男性で、性転換手術を受けた。そして性対象は女性の、同性愛者だ。

 彼女はこの美しき連邦を象徴する属性を持つ、すばらしい人物だ。リベラルな彼女は、省内のミスコンでそのリベラルさを讃えられ、優勝した。もちろん全員が優勝した。順位をつけることは人間への差別だ。

 大麻がしっかりと効いてきた。

「XX」、彼女は言った。


XX、XX、XX、XX、XX、XX、XX、XX、XX、XX、XX、XX、XX、XX、XX、XX


私は名前を捨てている。

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