未来
古い配管を直して、外に出た。ガイガーカウンターが目覚ましみたいに鳴っている。傘を差した。
あたりは地獄みたいに黒く、暗い。
腰の前に隠した、Gunslinger 9のグリップを触る。
旧式。電気着火式の火薬銃。その気になれば、二発同時に撃てる。拳銃にしちゃ、もう旧式だ。
腰のナイフはお気に入りだ。この拳銃のキャリー方じゃ、組み付かれるとおじゃんだ。そういう時にナイフを使う。
放射能と重金属が含まれた雨が傘を滅多打ちにする。水たまりすら体を痛めつける。西の旧LAが中国に吹き飛ばされたから、東に風が吹くとき、こっちも核の雨が降る。
晴れの日はガスマスクを被り、雨の日は傘とレインコートが必要だ。
汚らしい地面を蹴って歩く。今日は警察もいない。雨の日は仕事をしたがらない。
機械を模したニュース用ホログラムが街角でなにか言っている。カリフォルニアでは、反差別法によりホログラムの女が違法になっている。
”人類に未来はない”
”中東の資源採掘施設が壊滅した”
”カリフォルニア連邦と南部連合の国境紛争で今日は20人が死亡”
”メキシコ麻薬帝国がカリフォルニアと南部に国境割譲を迫る”
”日本で大飢饉”
”旧中国での反占領軍デモでインド軍が戦闘ドローンで民衆を虐殺”
そんなことはどうでもいい。
もう世界は滅んだ。人類はもはやゆるやかな敗戦処理をするだけだ。
音が鳴った。腕時計を叩く。ホログラムが浮かび上がり、Xと会話を始める。そいつはX。顔もわからない。
「今日は飲み屋からアガリを取ってこい」、Xが言う。
「人権委員会の方はやらなくていいのか」
「あいつらは金をろくに払わずに人権から当然だとしか言わん。だから今度からは金払いのいいポルノ主義者の方の仕事をしろ」
「キリスト教徒らしく、清貧が好きなんだろう」
「ポルニストのが金を払う。人権委員のスイーパーが来たら撃ち殺してやれ」
「ポルノは重罪だぞ。ポルノ罪に差別罪まで加わったら終身刑だ。金は上がるんだろうな」
「もちろんだ。それと、飲み屋にポルノと酒を勧めておけ」
そのうちに、飲み屋についた。
ガラスの扉をノックする。
店主が出てきた。カリフォルニアでは珍しい、ブロンドの女。店内はジュースとコーヒーと大麻ばかりだ。カリフォルニアでは煙草と酒は違法だ。プリンターで印刷された安物の家具ばかりが置いてある。法律ぐらい、つまらない飲み屋だ。
「集金だ」
「ちょっと、今月は人権委員会からも重い税を取られているんです」
「今度からはポルノと酒を売れよ。人権委員会のスイーパーは撃ち殺しておいてやる」
「そんな、それは違法です。人権委員会が来たら・・・・・・」
「金を出せよ」
「だから、今月は」
女を蹴った。
「白人のくせに、言うじゃないか。イスラム教徒のアジア人でゲイでトランスジェンダーの俺が差別されたと言えば、お前は刑務所だぞ」
女を一通り殴りつけた後、金を貰った。
コーランを読めれば、警官は手を出してこない。後は、化粧品でも持ち歩いて家に女物の服でもあれば完璧だ。
ホログラムが浮かんだ。
「金を回収した。紙幣だったが」
「紙幣だと?データじゃないのか、仕方ない。お前がその分の電子マネーを送ってこい」
「断る。契約にはない。紙幣は面倒だ」
「クソ。じゃあ、いつもの場所に紙幣を持ってこい。直接受け取る」
店の中から取り上げた、大麻入りチョコレートを食べた。
昔、東南アジアでやったウォッカより効かない、酷いチョコだ。つまらん味だ。
女をいただいた方がよかったかもしれない。そう考えていると、パトカーが近くで急に止まった。
黄色いパトカーは、人権委員会の物だ。
路地裏に入る。足音。
二人分だ。
拳銃を抜いた。そして、アクティブ型逆位相式完全電子消音器を拳銃に着けた。
人権委員会の連中が、パラライザー拳銃を構えて、入ってきた。俺を狙ってるらしい。飛び出して、二発発射モードで二人を即座に撃ち殺した。音はほとんどしない。
路地裏を出る。
つまらない殺しだ。昔は監視カメラだらけだったが、今は人権委員会によって全て撤去された。だから、殺しやすい。
まるでちんぴらだ。
だが、人権委員会に反したものは皆こうなる。
だから、こんなことをやっている。
金を届けに行った。
つまらない、人生だ。
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