西部開拓時代を描いた初期ダイムノベルもどき和訳風誇張

 ここは西部。馬に乗った男の名前は、マック”ザ・スピード”。お尋ね者25人、それに加えてちんぴらとインディアンとメキシコ人の多数を殺してきた、賞金稼ぎだ。

 男は噛み煙草(注:当時の煙草の主流だった。最も発がん性が高く、黒い唾をたびたび吐き出す必要があった)で濁った唾を吐き捨てて、酒場に着くとすぐさま言い放った。

「バーボン(注:バーボン・ウィスキー。当時のアメリカではウィスキーが流行だったが、メキシコ系はテキーラを飲むことも多かった。酒を水代わりとして飲んでいる人もいた)の、とびっきり強い奴を」

 マスターは言った。

「よそ者にやる酒はねえ」

 周囲がどっ、と笑う。

 マックは言った。

「じゃあ、ミルク(注:当時の牛乳は保存性が悪く、西部劇で登場人物が怒るのはよく腐っているため)でもいいぜ」

半分腐ったような臭いのする、すえた牛乳がカウンターの上に叩きつけられた。

カチリ。コルト・シングルアクションアーミー(注:コルト社のリボルバー。当時の主流の拳銃の一つ)の撃鉄が起きた音だ。マックは後ろを振り返った。

「お前のママのミルクみたいだな」

 この町で最も悪い男、オブライエン”ザ・クレイジー”は六人を撃ち殺した男だ。追っ手の保安官と賞金稼ぎを全て撃ち殺し、この町を牛耳っている。

 マックはこの男が今回の首だとわかっているし、オブライエンもわかっていた。

「俺のコルトをしゃぶりやがれ、マザー・ファッカー(注:最大級の侮辱スラング)」

 オブライエンのコルトが六度、火を噴く。甲高い金属音。

 心臓を撃ち抜かれたはずのマックはまだ生きていた。

「どうした?もっと撃ってみろよ」

 オブライエンは左のコルトを抜こうとしたが、マックの早撃ちのがはるかに早い。オブライエンのコルトが飛んでいき、オブライエンはきりきり舞いをして、両手を大きく広げて壁によろめき、もたれかかって、崩れ落ちた。

「おれは金属を着けてる」

 マックは笑った。だが、かすかな兆候を見逃さない。

 オブライエンの仲間を瞬時に撃ち殺した。

「バーボンを」

 今度は、マスターもバーボンを出した。

 マックはオブライエンを外に引きずり出して、死体を馬に乗せた。

 そして、また別の町へ旅立っていった。

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