気晴らし

もず

SF掌編


 どこまでも続く水平線、潮の匂い。透き通るほど蒼い海。どこまで見ても、雲一つ無い晴れの空。それに、どこまでも続く砂浜。

 そんな日に、彼女は空から降りてきた。

 米軍の戦闘機の音が、今日は一段、蝉と同じぐらいうるさい日だった。

ぼくは、今日も海を見に出かけた。夏休みは、日本列島と同じぐらい長くて、蟻ぐらい短い。休みについて考えていると、そんな気分になる。

 今日も同じ道で、同じ速度で、自転車を海まで走らせた。

 この海の先は、どこまで続いているんだろう。アメリカか、中国か、それともオーストラリアか。そんなことはわからなかったけど、まるで宇宙まで続いているような、そんな広さだった。

 それが宇宙まで続いていることを、すぐにぼくは知ってしまった。

 やどかりと鬼ごっこをしていると、大きなエンジン音。戦闘機が青空に一文字、長い長い飛行機雲を描いた。

 そんな戦闘機から、何かが落ちた。それで、すぐになにかが空の遠くまで飛んでいった。ミサイルだ。

 戦争が始まったのかもしれない。

 ぼくは、怖くなった。慌てて家に帰ろうとすると、空に巨大な、とても巨大な黒いなにかが浮かんでいるのが見えた。

 それは猛スピードでこちらに近づいてくる。

 逃げようとしたが、なぜだか体が動かなかった。

 ぼくの命もここまでか。砂浜に座り込むと、その物体は急に空に止まった。

 その物体から、なにかがぼくに向かって急接近してくる。

 砂浜が吹き飛ぶみたいな衝撃。砂煙が晴れると、人型のなにかが立っていた。

 人型のなにかをよく見ると、体のラインにぴっちりと添った、紅いスーツのようなものを着ている。そんな衝撃でも傷一つ無い。

 誰もが目を奪われるような、人類史上始めて見るような絶世の、可憐な美少女。


 彼女は、尻餅をついているぼくに手をさしのべて、とんでもないことを口走った。




「やあーーー”ぼく”。ずっと、ずっと会いたかったよ」




人生で一番長い夏が始まることを、この時のぼくはまだ知らなかった。





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