突然の雨の日はあなたと一緒に

(*'ω'*)第五章辺り。キッド(17)×テリー(14)

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 大雨が降る。突然の天気の変化に、ビリーが窓を見た。窓は既にずぶ濡れだ。アルバイトに行ったテリーは、傘を持たずに出て行ったはずだ。


(……タオルの準備をしておくか)


 ビリーが腰を上げた頃、当の本人は叫んでいた。


「最悪よ!!」

「テリー! とにかく走れ!」


(ああ!! もう、最悪!!)


 キッドに引っ張られ、公園のガゼボに入る。二人ともずぶ濡れだ。


(畜生!)


 まさか帰り道に変装したキッドと出くわすなんて! 


(レオと待ち合わせしてたのに……)


 ガゼボから外を眺める。


(……今日は無理ね)


「はーあ。驚いたな……。こりゃ……」


 振り向けば、水で滴る前髪を上げて、袖で顔を拭うキッド。テリーが舌打ちしてハンカチを差し出す。


「なんで王子様がハンカチの一枚も持ってないのよ」

「今日はオフだったものでね」


 キッドがハンカチを受け取り、テリーの額に当てた。


「わっ」

「動かない」

「あたし、大丈夫!」

「大丈夫じゃないだろ。どっちも同じくらい濡れてる」


 テリーの濡れた前髪を退ける。


(……前髪分けると、少し雰囲気変わるな……)


 髪の毛から水が落ち、テリーの顔を濡らす。キッドがまたハンカチで拭い始める。外では激しい雨。おそらく、通り雨だろう。


(しばらくしたらテリーを連れて帰ったほうが良さそうだな)


 キッドとテリーがガゼボの椅子に座り、雨が止むのを待つ。


(それにしても、偶然だったな)


 歩いてたら偶然、テリーが曲がり道から現れた。目があった途端、テリーが固まって、即逃げ出したからにっこり笑って追いかけてみたら、


(急な雨)


 キッドが息を吐いて、隣に座るテリーを見る。


(……ん)


 ハンカチを首元に押し当てるテリーがいる。

 濡れた髪の毛から水が滴る。水が肌を伝い、胸の中へと入っていく。キッドが喉を鳴らした。


(……いけないことを考えてしまいそう)


 震える体や寒くて赤く染まる顔は、どこか艶っぽく見えてしまう。


(……ん、震えてる?)


 キッドがはっとしてよく見てみれば、案の定、テリーがガタガタ震えていた。


(寒い!!)


 テリーが震える。


(上着着てこなかったあたしの馬鹿!!)


 だって! だって昼間は、暑かったんだもん!


(ああ……。最悪。雨が降るなんてわかってたら、上着くらい着てきたわよ……。ああ、最悪……)


 キッドの視線が下に下がる。ずぶ濡れのテリーのシャツが濡れて、透けている。


 下着が、見える。


「えい」

「ぶふっ!」


 キッドがコートを上から被せた。


「何するのよ!」

「とりあえず、それ着て」

「ずぶぬれのコートなんていや!」

「とりあえず着てろ」


 テリーがじろりとキッドを見る。キッドは微笑む。


「何? 惚れた?」

「……雨が止んだら返す」

「うん。そうして」


 激しい雨はしばらく止まない。驚いた人々が慌てて雨宿り出来そうな所に向かって走る姿が見える。


(……寒くなってきた)


 キッドがぴたりとテリーにくっついた。


「……」


 テリーが黙り、ちらっと、キッドを横目で見る。


「……寒いんでしょ」

「うん」

「だから言ったのに」


 テリーがコートを脱いだ。


「返す」

「ひらめいた」


 キッドがテリーの腰を掴んで引き寄せ、ぴったりくっついて二人でコートに入った。


「ちょっと」

「はーあ。あったかい」

「あたしは寒い」

「さっきよりはましだろ」


 雨はまだ激しく降っている。


「まるで恋人同士だね。テリー」

「兄妹の間違いでしょ?」

「兄妹なら平気だな。ほら、もっとくっつけ」

「……くそが」


 言いながらも、テリーもぴったりとキッドにくっつく。寒いのだろう。体がまだ震えている。雨が降る。


(……馬車を呼ぶことも出来るんだよな)


 オフとは言え、腰には剣と銃。無線機が装備されている。


(だけど)


 無防備なテリーが目の前で自分にくっついてくる。


(……)


 抱きしめれば濡れたテリーの匂い。いつもとは少し違う雨の匂い。今日もアルバイトをがんばったのかな。お疲れ様。


(テリーがくっついてる)


 きゅん。


(……)


 雨の音が響く。テリーの吐息が近くで聞こえる。白い息になっている。本気で寒そうだ。


(……呼ぶか)


 キッドが無線機を取り出した。


「あー、誰か、応答。馬車ちょうだい。西区域。湖のある公園」


 キッドが無線機をしまった。


「テリー、もう少しで迎えが来るよ」

「……」

「大丈夫?」

「……なわけないでしょう……」


 がたがた震えている。


「寒い……」

「もうちょっとで迎えが来るから待ってろ」

「あんたのせいよ。あんたが追っかけてくるから……」

「ああ、そうだなー」


 濡れた頭をぽんぽんとなでる。


「もう少しの辛抱。馬車の中はあったかいから」

「じいじのシチューが食べたい……」

「言っておくよ」


 濡れた背中をとんとんとなでる。


(口を開けば愚痴だらけ)


 愛の言葉の一つでもほしいな。


(でも、なんでだろうな)


 どうしてテリーといると、胸が温かくなってくるんだろうな。


(寒いのにどきどきしてる)

(寒いのに温かくなってきてる)

(いや、寒いんだよ)

(寒いんだけど)


 テリーに触れてると、どんどん温かくなってくる気がして。


(あと二分も立たずに馬車が来るんだろうな)


 たぶん、向かい合わせで座ることになるんだろうけど。


(今は、まだこのままで)


 テリーと、もう少しだけ、こうしていたい。


「ねえ、この雨なんなの? なんでこんなに降ってるの? あたし知ってるわ。こういうの、ゲリラ豪雨っていうのよ。ああ、突然嫌になる。しかも秋の、こんな日に限って! 朝は天気よかったのに! むしろ暑いくらいだったのに! 何よ! 何なのよ! くそが! 天気なんてくたばってしまえ!」


(……この声も心地いいなんて、本気で風邪引いたかもな)


 彼女が風邪を引かないために呼んだ馬車を待ちつつ、キッドはまぶたを閉じて、テリーの声を一つ一つ、まるで子守唄を聴くように、黙って聞いていた。







 突然の雨の日はあなたと一緒に END

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