キスしないと出られない部屋
(*'ω'*)テリー誕生日企画。年齢設定はお好きにどうぞ。
キッド×テリー
(『リオン』を知らない方は本編第五章をご覧ください)
――――――――――――――――――――
キスしないと出られない部屋に閉じ込められた。
「ニコラぁぁあああああああ!!!」
外から、リオンが悲痛な叫び声をあげて、扉を叩いてくる。
「無事か! 命はあるか! そいつに何もされてないか!」
「無事じゃないわ! 助けて! 早く!! ここから出して! 一刻も早く! お願い! お兄ちゃん!!」
テリーが必死に扉を叩く。その後ろで、キッドがにこにこ笑っている。リオンとテリーが青い顔で扉を必死に叩き合う。
「ニコラ! お兄ちゃんが必ず君を守ってみせる! そんな奴とキスなんか絶対しちゃ駄目だぞ!!」
「うえええええん……! 早く助けてぇえええ!! びええええええん!! 一章目の編集が終わったと思ったら、こんな奴と一緒の部屋に二人きりで閉じ込められるなんて! もういやぁあああああ!!」
「ああ! 怖がって可哀想に! まさか! キッドと一緒に、こんな胡散臭い部屋に閉じ込められるなんて!!」
リオンがぐっと拳を握り、歯を食いしばる。
「待ってろ! 君のお兄ちゃんが必ず扉の鍵を探してくるからな!」
「あ、待って! 馬鹿! 行かないで!」
「大丈夫! 絶対に戻ってくる! 君はそれまで自分の貞操を守り抜くんだ!!」
リオンが走り出す。鍵を求めて三千里。まずはロバ探しだ。
「さーあ、出発だー! いーま、日がのぼるー!」
楽しそうに歌い叫びながらリオンが走っていく。足音がどんどん遠くなっていく。どんどん消えていく。やがて消えていく。何も聞こえなくなった。扉に耳を押し付けても、何も聞こえない。テリーが扉から離れない。ぴたっと接着剤のようにくっつく。しかし、どんなに耳を押し付けても、リオンは走って行ってしまった。
そして、誰もいなくなった。
テリーが青ざめる。後ろでキッドはにこにこ笑っている。テリーが振り向く。キッドはにこにこ笑っている。テリーの血の気が下がる。キッドはにこにこ笑って、一歩踏み出した。
「ひい!」
「何怯えてるんだよ」
キッドが呆れた顔で呟き、うずくまって縮こまるテリーに腕を伸ばす。そのまま腕に抱えて、立ち上がる。
「よいしょー」
「ひゃっ、ちょ、何するの!」
「たかいたかーい」
「やめろ! 子ども扱いするな! やめろぉ!」
ぽかぽかキッドの胸を叩くと、キッドが涼しい顔で微笑む。
「子供扱いは駄目か。じゃあ、大人なキスはいかがかな?」
「ふざけるな!」
テリーが両手で口を押さえた。
「誰がキスするか! このたわけ! お前となんてごめんよ!」
「全く、傷つくな。相手は婚約者様だぞ?」
キッドがテリーを抱き抱えながら、ゆさゆさとテリーの体を揺らしてあやす。
「よしよし、よーしよし」
「このっ! やめろ! 赤ちゃんか! あたしは赤ちゃんか!」
「テリーが赤ちゃんか。何それ。すっごく可愛い。赤ちゃんプレイもいいかもね。俺は賛成。よし、しよっか」
「なんでそうなる!? お前の耳と頭はどうなってるの!? やめろ! あたしは健全にこの部屋から出たいだけなのよ!」
「よーしよし」
ゆさゆさ揺らされる。あやされる。
「やめろって言ってるだろ! お前ぇえええええ!!」
「あははははは!」
キッドが笑いながらテリーの背中をぽんぽんと撫でる。
「どちらにしろリオンが鍵を見つけてくるだろうし、その間、俺とこうして親子ごっこでもしてようか」
「なんでお前とそんなことしなくちゃいけないのよ。結構よ。大人しくこの何も無い部屋で待つわ」
「駄々っ子め」
いけない子。
「そんな駄々っ子は」
キッドがテリーの体に手を伸ばす。
「こうしてやるー!」
「きゃはははははは!!」
キッドのくすぐり攻撃に、テリーが笑い出す。
「やめろ! お前! それ! やめっ……!」
「お前、ここも弱いよなぁ」
「あははははは!! やめ! やめ!」
「ここは?」
「ぎゃはははははははは!!」
「それもういっちょ」
「やめぇええええ!」
こちょこちょこちょ。
「だはははは! やめろ! やめっ! おまっ! ひゃははははは!! やめてぇ! あははははははははは!!」
キッドの手が止まった。同時にテリーの笑い声が止まった。ぜぇぜぇと息を切らして、キッドの腕の中でぐったりする。
「おま……、ほんとに……、いい加減に……」
「ふふっ、可愛いなぁ……。テリー……」
(幸せ……)
テリーを抱き抱えて、持ち上げて、テリーを抱っこしてる。テリーの体の体重は全てキッドに向けられている。
(幸せ……)
キッドの胸がきゅぅんと締め付けられる。
(今、テリーは完全に俺のもの)
ぬいぐるみのように、人形のように、テリーを腕に抱え、閉じ込める。
(誰にも渡さない)
この子は俺のものだ。
「よーしよし」
キッドがテリーの背中をぽんぽん叩く。撫でる。また叩く。体を揺らして、あやしていく。
「ふふっ、テリー、可愛い……」
(ああああ……)
ぐったりしたテリーが顔を歪ませる。
(完全に玩具にされてる……)
こいつはあたしを人形か何かと勘違いしてるんじゃないでしょうね。
(変に支配欲のある奴だから、支配した感がないと執着するんでしょうね)
ああ、そうだ。
(いいわ。今だけお前の言う通りにしてやる)
テリーの腕がキッドの肩を抱きしめる。キッドの肩がぴくりと揺れた。
「んっ?」
(こうして抱きしめていれば、顔と唇が向けられない)
よって、どんなことがあってもキスが出来ない。
(これで待つわよ)
キッドの腕が疲れるまで、リオンが来るまで、
(とりあえず、これで待とう)
「くくっ。どうしたの? テリー」
突然抱きしめてきたテリーに、くすくす笑いながらキッドがテリーを抱っこする。
「今日のお前は甘えん坊だな。一歳大人になったっていうのに」
(うるさい。今さら年を取ったって何ともないわよ。人間はね、若くはなれないのよ。年老いていくしかないのよ。畜生。ああ、若い頃の純粋なあたしに戻りたい……!)
「いいよ。赤ちゃんみたいに甘やかせてあげる」
キッドがそっと囁いて、テリーの耳に唇を押し付けた。
「ちゅ」
「ひゃっ!!」
ぎゅう! と締め付けると、またキッドがくすくす笑い出す。
「くくくっ! 苦しいよ、テリー……」
「お前! 今、何を……!」
「テリーは耳敏感だからなぁ」
キッドがにやつく。
「じゃあ、こんなキスはどう?」
キッドがテリーの耳にキスをする。
「ちゅっ」
「んっ」
テリーが思わず、肩を揺らす。
「やめ……」
「ちゅ」
キッドの唇がわざと音を鳴らすように、キスをしてくる。
「音を鳴らすな……!」
「我儘だな」
キッドが唇を押し付ける。
「ちゅ」
ちゅ。
「ちゅ」
これは?
「ちゅ」
こっちがいい?
「ちゅ」
耳を咥えて。
「かぷ」
「んんっ!」
テリーがキッドの腕の中で暴れ出す。
「そ、そんなとこ噛むな!」
「暴れないで。落としちゃうから」
「いい! お前に抱っこされるくらいなら腰を打って痛い思いする方がいい!」
「俺が嫌だ」
突然、キッドがその場に座った。
「ひゃっ!」
テリーの体は横向きでキッドの膝の上。
「テリー」
「あ、ちょっ」
肩から離れないテリーの耳を再びキスされる。
「ぁ」
(可愛い声)
赤く染まった耳。
(じゃあ、これは?)
舌を伸ばして、テリーの耳につける。
「ひぎゃっ!」
テリーが再び腕の中で暴れ出す。
「お前! そんなところ舐めるな! 汚い! 汚らわしい! 気持ち悪い!」
(あーあ、傷つくなあ)
でも、悪いね。テリー。俺、ここを舐めて快楽に悶えてしまうお前が好きなんだよ。
キッドがにやりと笑い、舌をくっつける。
「ちょ」
テリーがキッドにしがみつく。
「やめっ」
つー。
「やめっっ!」
ぺろ。
「~~~~~~っ!!」
ちゅぷ。
「あ、だ、だめ!」
じゅぷ、ちゅ、じゅぷん。
「……っ、やめ……、……ふぇっ……」
じゅくり、ちゅぷ、ちゅく。
「き、きっど、だめ……!」
首が苦しい。テリーの腕がキッドの首を絞める。
(いい)
テリーの腕が絞め付けてくる。
(ああ、いい……)
ぞくぞくしてくる。
(テリーが俺の舌で悶えてる)
(もっと暴れなよ)
(押さえつけてあげるから)
キッドの舌が動く。
つーーーーーーー。
「い、」
テリーのこめかみに、ぶちっと青筋が立った。
「いい加減にしなさいよ、お前!!!!」
テリーがようやくキッドの肩から顎を離す。顔を離す。体を離す。赤面した顔に、キッドが魅入られる。
「っ」
取り乱した呼吸。真っ赤に染まった顔。自分を睨む潤んだ瞳。汗。少しずれたドレスの襟。赤く染まった耳。震える唇。
(あ)
唇。
(キス)
ここはキスをしないと出られない部屋。
(幸せすぎて、目的を忘れるところだった)
確かにリオンを待っていれば、この部屋から出られるかもしれないけど、
(だったら)
あいつが戻ってくるまで、
「せっかくだ。お姫様を可愛がることにしよう」
「なっ」
テリーが押し倒される。
「ひぎゃ!?」
そっと、キッドの手がテリーの頭を優しく地面に下ろす。
「ふぇっ……」
「テリー……」
キッドがテリーの上に乗り、頬にキスをする。
「ちゅ」
「んっ……!」
テリーが自分の口を押さえて、ぷい、と横に顔を向けた。しかし、その抵抗はただの煽りとなってしまう。キッドの嗜虐心がテリーの抵抗に、煽りに煽られていく。
(ああ、いけない子……)
キッドの青い目が、テリーから離れない。
(俺から顔を逸らすなんて、駄目な子)
ちゃんと見てくれないと。
(俺はお前の婚約者なのに)
将来、結婚するんだよ。
将来、隣にいるんだよ。
将来、ずっとずっとずっと傍に居るんだよ。
(余所見なんて許さない)
優しく、罠を張る。
優しく、テリーの顎にキスをする。
「ちゅ」
「っ」
優しく、頬にキスをする。
「ちゅ」
「っっ」
優しく、瞼にキスをする。
「ちゅ」
「っ、っ、」
優しく、耳に、耳の裏に、頭に、髪の毛に、額に、顔に、キスをする。キスをする。たくさん、愛のこもった、優しいキスをする。
「あれぇ? おかしいなぁ?」
キッドがくすりと笑った。
「俺、たくさんキスしてるのに、扉が開かないや」
テリーは口を押さえ、体を震わせる。目線を泳がせると、顎を掴まれる。
「ちょっと、どこ見てるの」
「っ」
テリーの顎を掴んで、無理矢理その目を自分に向ける。潤んだ瞳で睨まれる。それが、また、興奮から背中がぞくぞくしてくる。
(ああ……、……いい……)
キッドが眉をへこませる。
(好き…)
「テリー」
内心のいやらしい笑みは見せず、キッドがいつものように、涼しい笑みを浮かべる。
「お前からもキスして」
いつまで口を押さえてる気?
「ここ、キスをしないと出られない部屋なんだろ? だったら口じゃなくても、どこかかしらにキスをしたら出られるかもよ?」
テリーがキッドを睨む。
「誰が口にキスをしろなんて言ったの? お前、考えすぎ」
キッドの手が優しくテリーの頭を撫でる。ぴくりと、テリーの眉が動いた。
「ほら、キスして」
どこでもいいよ。手でも頬でも首でも。
「どこでもいいから、試してみようよ」
(テリーの唇)
「テリー?」
(テリーからのキス、欲しい)
「ほら、指でもいいよ」
(俺の指、咥えてごらん)
「試しにキスしてみてよ」
(罠にハマれ)
キッドは微笑む。睨んでくるテリーを見つめて、優しく微笑む。人差し指をテリーに向ける。
「ねえ、指でいいから、キスしてみて」
(しろ)
「テリー」
(キス)
「ね?」
(キス、しろ)
テリーが、ちゅ、と、唇をキッドの親指に押し付けた。
「……」
キッドが黙る。テリーの唇がすぐに人差し指から離れた。
「どう?」
ちらっと扉を見る。
「ねえ、退いて。開いてるかも」
「鍵が開いた音が鳴ってない」
キッドは退かない。そのまま、にこにこ微笑んで、今度は親指を出してきた。
「今度はこっちにキスしてみて」
「……また?」
「部屋から出られるかも」
(……まあ、物は試しよね)
キッドに言われて、テリーもそう思ってた。
(確かに口にキスしろなんて、誰も言ってないわ)
与えられてる情報は、この部屋はキスをしないと出られないという事だけ。
(キッドがあたしをキスしても扉が開いた音がしなかった)
(あたしがキッドにキスをすることによって成立する)
(その可能性は、確かにある)
物は試し。
「いいわ」
差し出された親指に、テリーが唇を押し付ける。
「ん!」
きゅん。
(あ……)
キッドが見つめる。テリーの唇を見つめる。
(テリーが俺の親指に、キスした……)
小さな唇を、ちゅ、と押し付けた。
きゅん。
「……まだ開かないみたい」
今度は中指。
「ねえ、今度は咥えてみて」
「はあ?」
「指に、大人なキス」
ほら、物は試しだろ?
「俺がテリーの指でやろうか?」
「やめろ」
テリーがむっとして、舌打ちする。
「くそ、これで開いたら、あんたあたしに感謝して何か奢りなさいよ」
「いいよ。好きなだけバースデープレゼントをあげる。ダイヤモンドでもクリスタルでも」
「……クリスタルがいい」
(ん?)
「透明なやつ」
テリーが目を逸らす。
「ちょっと、青がかかってるような、かかってないような、そんなやつ」
(ああ)
――テリーの憧れの『あいつ』の色か。
「……」
キッドが微笑む。
(言わなきゃ良かった)
テリーが俺以外の『誰か』を思い出したようだ。
(言わなきゃ良かった)
今、お前が考えていいのは、俺のことだけ。
「分かったよ。ほら、じゃあ咥えて」
「ん……」
テリーが不満げに眉をひそめ、差し出されたキッドの中指に口を開け、ぱくりと咥える。
途端に、キッドの背中に力が入る。
「っ」
中指が、テリーの口の中にいる。
「……っ」
「……ほへへひい?」
キッドが頭を振る。
「大人なキスだよ。テリー。そのまま指を舐めて」
「……」
「なんだよ。部屋から出たくないのか?」
「……」
「物は試しだろ? ほら、やる」
ゆっくりと、熱い吐息が指に当たる。そして、そっと、震える舌が、キッドの中指についた。熱い、唾液が付着した熱が、指を撫でるように舐めていく。
(あぁぁぁあぁあああぁあああああ……!)
ぞぞぞぞぞぞぞぞぞ、と、背中が震える。けれど、気づかれてはいけない。
(テリーの舌、指を、テリーが、ついてる、舐めてる、俺の指、テリーが、舐めてる)
中指を。
(もっと、舐めていいよ。テリー、もっと、ぐちゃぐちゃにして)
テリーの舌がキッドの中指を舐めるたびに、キッドの胸がきゅううんと締め付けられる。
(ああ、テリーの唾液、舌、舐められてる、どうしよう)
きゅん、きゅん、きゅん、
(ああ、俺の指に、テリーの菌がついちゃう、テリーに支配されちゃう、テリーが俺の中に入ってきて、テリーが俺の体を支配して、俺、テリーのものになっちゃう)
きゅん、きゅん、きゅん、きゅん、きゅん、きゅん、きゅん、
(どうしよう、テリー、ああ、この悪魔、悪い女、俺を魅了するなんて、なんて奴だ)
テリーの舌が、ちらっと見えた。
(あっ)
きゅぅぅうううううん。
(中指)
もう、ぐちゃぐちゃ。
(これで)
テリーをぐちゃぐちゃにしたらどうなる?
(自分の涎で濡れた指を)
(テリーの大切な、あそこに挿れたら)
こいつ、どんな顔して啼くの?
(ああ)
きゅううううううん。
(ああ、テリー……)
きゅううううううううううううううううううううん。
「げほっ!」
テリーが咳をする。テリーが指から口を離した。
「も、もういいでしょ……!」
乱れる呼吸の仲、再び逃げるように、ぷいっと顔を背ける。
(息がもたない……!)
ぜえはあと肩を揺らしながら、テリーが扉に視線を向ける。
「扉は? 開いた?」
「うーん。駄目みたい」
キッドが微笑む。にっこりと笑って、テリーの手を握った。
「やっぱり口じゃないといけないのかな?」
「キスは嫌って言ってるでしょ」
テリーが口を押さえようとした。キッドの手が自分の手を握っていた。
(ん?)
テリーがもう片方の手で口を押さえようとした。さっき舐めていた指がついた手に、自分の手が押さえられていた。
(うん?)
ぽかんと見上げる。キッドが微笑んでいる。天使のように微笑んでいる。テリーの血の気が下がる。
「っ」
テリーが足をばたつかせた。
「ぎゃあああああああああああああああ!!! 離せ! 離せ離せ離せ!!」
「大丈夫。優しくするから」
「やめろおおおおおおおおお!!!」
空しく叫ぶ声の中、キッドが頭を下ろした。
(あ)
唇が押し付けられる。
(ひっ!)
びくっと体が強張る。キッドの唇が深く押し付けられ、ふわりと、動き出す。
(ひえ!)
ふわふわと、柔らかな唇が動く。
(……ん)
ふわふわと、綿のように、優しく、触れてくる。
(……)
ふにふに。
ふわふわ。
むにむに。
むにゅむにゅ。
ちゅー。むちゅ。ちゅー。むにゅ。
(……)
もちゅもちゅ。
もにゅ。もにゅ。
ちゅ。ちゅう。ちゅ。ちゅううう。
ぷゆん。ちゅ。ぷちゅ。ちゅ。
(……)
はむ。はむ。はむ。ちゅ。
あむ。あむ。あむ。ちゅ。
つん、つん、つん、ちゅ。
ぷに、ぷに、ぷに、ちゅ。
「~~~~~~~~!!!」
唇が離れた瞬間、テリーが怒鳴った。
「やめろおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
「あはははははは!!!」
キッドが笑い、テリーの額に額をくっつけさせ、愛しい瞳を覗き込む。暴れる手は、簡単に押さえ込み、口角を上げて、余裕な笑みでテリーを見下ろす。しかし、その頬は、酷く赤い。呼吸は、テリーに魅了されて、乱れている。
「ふふっ、ふう、テリー……はあ、どうだった? ……っくふ、俺は、はあ、すごく、気持ちいい、はあ、キスが、……出来たんだけど……」
「この……、はあ、……っ……、……すけべ王子……!」
「……結構……」
キッドが再び唇を近づかせると、テリーがぎょっと目を見開く。
「あ、ちょ……!」
「駄目、テリー……、俺、はあ、まだ、足りない……」
「……っ、ま、って、……息……!」
「だめ、……はあ、……待てない……」
キッドの瞼が下りてくる。テリーが体を強張らせる。
「はっ、ちょ、待って……!」
「……足りない……」
「キッド……!」
「だめ、キスさせて……」
(頭がくらくらする)
(テリーのせいで、体が言うことを利かない)
「……テリー……」
興奮から赤くなった顔を見れば、もう、止まらない。真剣な目を、テリーに向ける。
「テリー、はあ、今日で、お前、少し、大人になったんだろ」
「……ちょ……」
「じゃあ、もう少し」
大人なこと、してみようか。
キッドがテリーの足の間に、膝を割り込ませる。テリーの手をきゅっと握り、押さえつけ、唇を寄せる。
「テリー」
「……っあ……」
テリー、
「愛してる……」
テリーの顔が赤く染まる。
キッドの顔が赤く染まる。
二人の唇が、再び重ねられる。
――前に、扉が勢いよく開いた。
「ニコラぁぁああああああ!!!!」
ばたーーーーーん!!
「ニコラ! もう大丈夫! お兄ちゃんが助けに来たぞ!!」
扉を開けたリオン、この胸に愛しい妹が飛びついてくるかと思いきや、目の前の光景にはっと顔を青ざめる。
「っ」
押し倒された妹分。赤く染まった顔。抵抗した汗の跡。怯えたようにふるふる震えるその体。そして、その上を野獣のようにかぶさる天敵。見つめていた妹分から視線をずらし、ゆっくりと、自分に向けられる視線。睨み。殺気。
(おっと、こいつは全くヘビーでベイビーでペパーミントちゃんなタイミングだぜ! ミックスマックスだぜ!)
リオンが、ふっと笑った。
「どうやら、僕はとんでもないタイミングで来てしまったようだ」
リオンが剣を構えた。
「だが僕は負けない! 負けたりしない! 負けられないんだ! 兄さん! 僕の大事な妹から離れろ!!」
リオンが顔を上げた瞬間、いつの間にかキッドの手には銃。
「へ」
ばきゅーん! ばきゅーん! ばきゅーん!
「ぎゃあああああああああああああああああああああ!!!!!!」
リオンがへなへなと座り込む。
「こ、腰が……! 腰が抜けた……! 腰が……!!」
「さあ、テリー、邪魔者はもういない」
キッドが顔を苦く歪ませるテリーに微笑んだ。
「続き」
「へるぷみーーーーーーー!!!!!!」
扉が開いたが助けは来ない。なんていう日だろう。なんていう誕生日だろう。
(酷すぎる……!)
あたしはただ、幸せになりたいだけなのに!!
(こんな奴に目をつけられて!!)
あたし、なんて不幸なの!!
「ん……!!」
ぷるぷる体を震わせ、目をぎゅっと閉じている姿に、キッドがにやける。
(ああ、もう、可愛い……)
しょうがない奴だな。
(今日は我慢しておこう)
ちゅ、と額にキスをすると、テリーの肩が揺れる。
「ハッピーバースデー。テリー」
どうか、来年も、この日を祝えますように。
(そう祈って、愛しいお前にキスを)
キッドがきらきらと目を輝かせ、テリーを見つめる。
「テリー、来年こそ大人なことしようね。絶対だよ。はい、約束」
「ふええええええん!! リオンの馬鹿! お前が遅いから! ええええええええん!!」
「泣くくらい嬉しいなんて、俺も嬉しい。愛してるよ。テリー」
「びええええええええええええええええええん!!!!」
「待って、ニコラ、本当に、力が、あ、これ、あ、腰が、あ……やばいやつ……」
キッドがにこにこ笑う中、テリーは泣き叫ぶ。
一方、リオンは扉の前で座り込み、抜けた腰を何とか持ち上がらせようと頑張っているのであった。
キスしないと出られない部屋 END
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