【戦車-ALBION】 その1
直後、ペンドラゴンの下げていたシルバーペンダントが眩く光輝いた。
雪山でホワイトアウトに遭遇した時のような感覚。目の前が白く染まり、視界が完全に奪われる。
「目眩まし……!?二人とも!」
イブリスは閃光に怯みつつも、近くにいるはずの二人の少女の身を守ろうと気配を頼りに動く。
「だ、大丈夫です……!」
「こちらも、問題ありません」
光の中で少し歩を進めると、無事を知らせる声とともに同じく視界を奪われた少女二人が寄りかかってきた。
こうしている間に光は輝きを弱めている。不意討ちが来るならばそろそろだ。三人……特に防御役であるフロワが周りに警戒を厳にする。
「……そこっ」
そのフロワが最初に攻撃の気配を感じ取った。
閃光が焼き付いた視界の奥から、何かが高速で迫ってくる。
フロワはすぐに二人を守るようにして防御。盾に着弾したそれは、すぐさま爆発を起こした。
「これって!」
「最初に使ってきた攻撃か!くそ!」
イブリスとサラも共に盾を抑える。フロワ一人では弾き飛ばされてしまったが、三人ともなればどうにか耐えることができた。
「やっぱすげぇなその盾ェ!この"主砲"を防ぐとはよぉ!」
視界が徐々に回復していく中、先ほどの攻撃の元を目で追う。
「つーわけで黒の魔術師!これならバンバン魔法も使えんだろぉぉぉ!?」
目線を移した先、先ほどまでペンドラゴンがいた場所には、今までそこにあるはずのなかった存在が現出していた。
金属の塊を積み上げたようなモノ。無限軌道……所謂キャタピラがその両側に取り付けられている。
そしてひときわ目立つのは突き出た細長い筒……主砲。機関砲も取り付けられているように見える。
「な……こりゃ魔導兵器じゃないのか!?」
イブリスは自分の持っている"知識"の中から、目の前のものと一致するものを引っ張り出した。
そこに現れていたのは、戦争などに使われるという兵器。戦車であったのだ。
「う、うわわわわ!?なんですかあれ!?」
サラが軽いパニック状態に陥っている。辺境で育った彼女にとって、目の前の兵器は全く未知の物であるのだ。
「魔導兵器……その名の通り、魔力を原動力として駆動する兵器です」
慌てるサラをなだめる様にフロワが解説を入れた。
馬車が馬の力を借りて動くように、魔導兵器は魔力で動く。備え付けられた武装も同様で、魔力を推進力として弾丸を発射するなどの機構が備わっている場合がほとんどだ。
その一撃一撃の威力は抜群。
もっともその性質上、魔力のコストパフォーマンスが非常に悪いと言うデメリットも存在するため、短期決戦向きのものだと言われる。
「しかし……あれをどのようにして隠していたのでしょう。先ほどまでどこにも見当たらなかったように思えますが」
「確かに様子がおかしいな。それ透明になる機能でもついてんのか?」
馬車から飛び出したときの一発目、そして先ほどの攻撃は間違いなくあの戦車からの砲撃だ。だが今の今まで戦車そのものの姿は確認できなかった。
大きさからして簡単に隠せるものではないと言うのに、いったいどこにあったというのだろう。
「まぁまぁ、んなこたどうでもいい。確かなのはこいつ……俺の"アルビオン"は拳銃の弾なんぞ通らねぇってことだ」
「……」
戦車の上に腕を組んで立つペンドラゴンがこちらを見下ろしながら言う。
奴が言っていることは事実だ。
人相手なら実弾を打ち込んでやれば事足りるが、戦車が相手となるとそういうわけには行かない。流石に魔力もこめない弾丸では装甲には歯が立たないのだ。
逃げるのも手だが、悪手である。こうなってしまえば選択肢は無いに等しい。
「……仕方、ねぇな」
イブリスは静かに、銀の弾丸を装填した。
「そぉ来なくっちゃ!」
ペンドラゴンがそう言うなり、戦車に備え付けられた機関銃が起動した。
銃口がイブリスたちの方向を向き、火花を散らせて連射される。
「くっ……!」
攻撃そのものはフロワが防いだが、主砲を防御したあとで体力が減っているのか、浮かぶのは苦悶の表情。
機関銃の攻撃も決して軽くは無い。一発の威力もそこそこだが、それが幾つも連続で襲い掛かってくるのだ。
「フロワちゃん、大丈夫!?"Saint Defender"!」
「感謝、します……!」
すかさず盾にサポートが入る。盾にかけられた防御魔法がいくらか衝撃を吸収し、防御が大分楽になったようだ。
「サラちゃん、こっちにも頼む!」
「はい!」
サラは続いてイブリスから強化魔法の要求に答える。魔法を使うとなれば、それを強くしない手は無い。
「イブリスさん、お願いします!」
「おうよ!」
サラからのバフを受け取ったイブリスは手の甲に銃口を突きつける。
その手の指を照準代わりに盾の影から敵へと狙いを定めつつ、銀の弾丸に魔力を込めた。
「……"fanG"!」
狙いが定まるやいなや、即時に引き金が引かれた。機関銃の連射音にリボルバー銃の銃声が紛れ込む。
魔力を込められた弾丸は獣の口のような形のオーラを纏い、ペンドラゴンへまっすぐに向かっていった。
そのオーラは鋭い牙を携え、戦車の装甲を噛み砕かんと大口を開けて迫る。
「おっと!」
機関銃の狙いがそちらへ変わるが、相手は実態の無い魔法だ。銃では迎撃できない。銃弾はむなしくも黒いオーラをすり抜けていく。
「っとと、まずいまずい」
ペンドラゴンはすぐに戦車から飛びのいた。先ほども見せた跳躍力を利用して魔法の攻撃範囲から逃れる。
「逃げられたか……だが兵器のほうだけでも!」
あの戦車を戦闘不能にすればかなりの戦力ダウンを見込める。それだけでも十分な成果である。うまく行けばそのままリタイヤでもしてくれるかもしれない。
……だが。
「ふぅ……ざ~んねん。その攻撃は"失敗"だな」
「な……!?」
戦車は、先ほどまであったはずの場所から跡形もなく消え去っていた。
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