【戦車-ALBION】 その2
辺りを見渡しても、戦車は影も形もない。
幻覚だった……というわけでもない。地面にくっきりと残ったキャタピラの跡がそれを証明している。
「ははは!ビックリしただろ?」
ペンドラゴンは嬉しそうに高笑いをした。その様子からはイブリスたちをおちょくって楽しんでいることがよく分かる。
「戦車アルビオン、奇跡の大脱出ってね」
直後、再びペンドラゴンのペンダントが輝いた。
「また!」
「っ!」
今度はフロワが早かった。盾を壁にし、閃光による目潰しからイブリスとサラを守る。
「流石に何度も目潰しはできねぇか……まあいい」
光がおさまっていく中で、腕を組んで仁王立ちをしていたペンドラゴンは、再び出現した戦車を携えていた。
「……なるほどな」
それを見たイブリスがなにかを察したようである。
「召喚……いや、本来有人機の筈の戦車がひとりでに動いているのを見るに、魔力の具現化か」
「あらら、大正解」
イブリスの推測に対して即答。バレたからと言って困るわけではないらしい。
「そうだよ。このアルビオンは俺の魔力を形にしたもんだ」
「魔力をあんな兵器に……って、そんなこと!?」
「できるんだよ、白髪の嬢ちゃん」
ペンドラゴンの説明にサラが信じられないといった様子の返答をする。
「……サラちゃんも魔力をコントロールして光球を作る練習をしてるだろ?あれの延長線上だ。最もあいつは触媒を使ってその能力を高めてるようだがな」
触媒……あのペンダント。あれが具現化を手助けしているということだろうか。
だとしても、あんな強力な攻撃をしてくる兵器を作り出してしまうなんて、敵は一体どれほどの魔力を蓄えているのだろう。
「こいつは弾丸も全部俺の魔力を利用してる。弾切れなんて期待しないこったな……ま、その分威力は通常の戦車よりも落ちちまうがね……そのおかげでその盾持ちに出鼻をくじかれちまったが」
流石に全て通常の戦車と同じというわけにはいかないようだ。言われてみれば、いくらなんでも戦車の主砲をフロワが防げたのは確かに違和感がある。
「おいおい、良いのか?敵に自分の情報ぺらぺら喋っちまって」
「この任務を成功させりゃ済む話だろ?」
自ら自分の能力を明かした辺りもだが、ペンドラゴンからは余裕しか伝わってこない。自分に失敗はありえないと暗に伝えられているような気分だ。いや、実際そうであるのだろう。
「それにだ。魔力で弾丸が作られてるってことは、こういうことも出来るんだぜ?」
機関銃が駆動し、また弾丸の連射を始める。
だがその銃口がイブリスたちに向く事は無かった。辺りの草原に円を描くように射撃されていく。
「な、何!?突然地面を……!」
「サラさん……警戒を」
おびえるサラを守るようにフロワが立つ。
イブリスもその二人に被害が及ばないように近寄って次の魔法の準備をした。
「さん」
ペンドラゴンが指を立てて"3"の数字を示す。
「にぃ」
指が一本たたまれ、イブリスが銃口を自分の頭につきつける。
「いち」
指が残り一本になった。
「Burning!」
「"flooD"!」
二人の声が重なる。
それと同時に辺りの地面が突然燃え上がり、炎の壁を形成した。壁からは火の玉が三人へと向かって襲い来る。
360度全方位からの攻撃。フロワの盾では防ぎきれない。
しかしその火の玉は次々に黒い怨霊のような影にかき消された。イブリスの魔法である。
全方位からの攻撃に対する全方位への迎撃。記憶は無いが、体に染み付いた経験がこれを察知させたのだ。
「おっと、今のを防ぐたぁやるじゃねぇか」
ダメージは与えられなかったがペンドラゴンに焦っている様子はない。むしろ焦りを感じているのはイブリス一行のほうだった。
火の玉は防げたが、それを発生させた火の壁は残っているからだ。
皆を囲むように展開されたそれはとてつもない熱を発し、イブリスたちの体力を奪っていく。
「弾丸に魔法を込めてみた。円状に炎上、なんてな?」
当のペンドラゴンは涼しい顔だ。見たところ奴の属性は赤属性。炎の魔法が得意なだけあって熱のコントロールなど容易ということか。
「はぁ……はぁ……イブリスさん……」
「大丈夫かサラちゃん……!」
やはりまだまだ経験の浅いサラが最も辛そうだ。ふらふらとしてイブリスが支えていなければすぐに倒れてしまうだろう。
「なあフロワ、水魔法とか使えねぇの?」
「……残念ですが魔術の心得は御座いません」
「そうかよ……」
と、なれば。
「術者をたたくしかねぇな!」
暑さでけだるくなる身体に鞭を打ち、更に声を張り上げることで気合を入れる。
「"chasE"!」
イブリスが魔法を発動すると、黒いオーラがペンドラゴンへと向かう。
中々の速さだ。しかし見切れないほどではない。
「おっと!」
ペンドラゴンは即座に回避した。戦車も一旦具現化を解かれ、回避した先で再び出現する。
戦車はいくら攻撃しても意味がなさそうだ。やはりペンドラゴン本体に狙いを集中したほうがいい。人に向かって黒属性魔法を放つのは気が引けるが、こうなった以上背に腹は変えられない。
「危ないねぇ。でももっと殺しに来なきゃ当たらないぜ?」
「殺しにいってるよ……!」
「あ……なに?」
ペンドラゴンが気づいたときにはもう遅かった。
放たれた魔法は方向を変え、再びペンドラゴンへと向かっていたのだ。
"chasE"はその名の通り、相手を追いかける魔法。どこまでも、どこまでも。
「ちょ、嘘だろおい!?」
ペンドラゴンは慌てて避けようとするが、攻撃はもう目の前まで迫っている。
かわせない。しかし人間はそうとわかっていても目の前の危機からは逃げようとしてしまうもの。そんな状態で無理に回避しようとしたせいで、体勢はさらに悪くなってしまった。
「が……はっ!」
結果、ペンドラゴンはイブリスの魔法を思い切り喰らう。黒いオーラに飲み込まれ、苦しそうな声を上げて吹き飛んだ。
だが"chasE"はホーミングという便利な機能がある分、威力はそこまで大きくない。ペンドラゴンにもそこまで大きなダメージは見込めないだろう。炎の壁も勢いを弱める様子はない。
「こ、この……クソジジイが……」
「ジジイ言うな!まだそんなに老けてねぇだろ!……多分」
「へっ……まあ、いい……軽い失敗は成功の友だ……まだ俺は負けちゃいねぇ!」
ペンドラゴンはふらつきながらも立ち上がる。中々のダメージを与えられたらしい。油断しているところに叩き込めたことが功を奏したようだ。
「やれ!アルビオン!奴ら全員叩き潰せ!」
ペンドラゴンの指示と共に主砲が稼働する。
「っ!まずい!」
「お任せを」
それを目にした瞬間、フロワがイブリスの前に割り込んだ。主砲に耐えきれるよう、イブリスも盾を支える。
「"Saint……Defender"」
熱ですっかり体力を奪われてしまったらしいサラが、たどたどしい詠唱で盾へのサポートを施した。
「サラちゃん、無理はするな!」
「えへへ……大丈夫、ですよ……」
サラもふらふらと歩きながら盾の支えに参加した。サラが盾を支えるというよりも、盾に支えられているような光景だ。
「ふらふらじゃないか!」
「大丈夫、です……イブリスさんはクソジジイなんかじゃないですから……」
「え、あ、なに、大丈夫ってそっち!?」
「そうですね、イブリス様は世間一般的にジジイというよりオッサンでしょう」
「おいフロワてめぇこの戦いが終わったら説教だからな!多少の苦痛は覚悟しとけよおら!」
「女の子をいじめたら男が廃りますよぉイブリスさん……」
「いいからサラちゃんは休んでろ!」
この会話が平和な日常の中で行われているのならば良かったのだが、残念ながらそうもいかない。サラの支離滅裂な返答はこれ以上この熱に曝すのが危険だという事を指している。
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