新たな刺客
「危ないですね」
「"Saint Defender"!」
いつの間にか外に出ていたフロワが盾をもってイブリスの前に割り込み、続いてサラが馬車の中からサポートをする。
元々扉一枚はあろうかと言う大きさの盾が透明な壁により拡張され、強力な防壁となってそれを防いだ……と、思われたが。
「っ!?」
「な……爆弾か!?」
飛来したそれは、フロワの盾にぶつかった瞬間に爆発した。
流石にこの衝撃は厳しいのか、フロワは苦悶の表情を浮かばせ、そのまま地面に吹き飛ばされるように倒れこんでしまう。
「フロワちゃん!」
「大丈夫か!?」
「問題、ありません……」
サラもフロワの様子を見るために馬車から飛び出す。
幸いにも盾が衝撃のほとんどを吸収してくれたのか、ひざを軽くすりむいただけですんだらしい。すぐに回復魔法を施し、傷を塞いでやる。これくらいの傷ならまだ未熟なサラでも完治は可能だ。
「ブラヴォー」
ぱち、ぱち、ぱち。
爆発の砂煙が晴れない中、スローテンポの拍手とともに男の声が聞こえた。
イブリスの声でも、御者の声でもない。当然、サラたち少女が発した声であるはずもない。ここに居た誰でもない、聞き覚えのない声だ。
「まさかアレを受け止めるとはなぁ、少し驚いたよ」
ぱち、ぱち、ぱち。
スローテンポの拍手を続けながら男の声は続く。
「だがね、これではっきりした」
ぱんっ。
今までよりも大きな音で手が鳴らされ、拍手が止まった。
「この任務は必ず"成功"させられるってな」
砂煙が少しずつ晴れていく。今まで黄土色一色だった景色の中に、黒い人影が現れた。
「長々と五月蝿いっ!」
その人影を捕らえた瞬間、イブリスは銃を放っていた。
鉛の塊が舞い上がる砂を掻き分け、まっすぐにその男へと向かっていく。
「うおわっ!?」
しかし男の反応も決して悪くはなかった。銃声を合図に咄嗟にしゃがみ、銃弾を回避した。その表情は見えないが、大げさなジェスチャーから焦りと怒りが見られる。
「おまっ!あぶねぇな!いきなり撃ってくるとか卑怯じゃねぇの!?」
「御者のおっさん!あんたは逃げろ!」
先制攻撃してきた自分の行為を棚に上げてイブリスを責める男に、追撃を入れていく。自分を狙う敵に弁明の隙は与えない。
「でも、お客さん!」
「奴の狙いは俺たちだ!無関係なあんたが残る必要はない!」
「……助けを呼んできます!」
御者は馬車を駆り、すぐにその場を去っていった。それを確認したイブリスは、いったん攻撃の手を休める。
「さて……ひとまず落ち着いたところで自己紹介でもしてもらおうか」
砂煙はとうに晴れた。イブリスたち三人は自分たちの前に立ちはだかる男を見据える。
そこには金髪の若い男が居た。黒いジャケットに身を包み、シルバーアクセサリーでそれを彩っている。おおよそ冒険者とは思えない格好だ。
身長はそこまで高くないが、あごを出してこちらを見下すような体制をとっていた。
「ペンドラゴン……チャリアス・ペンドラゴン。以後よろしく?どうせあと数分だけの付き合いだけどな」
「……てめぇもステレオンの差し金か?」
「あ?」
イブリスが質問するや否や、男……ペンドラゴンは不思議そうな表情を浮かべる。
「アイツ……何が所属はバレてねぇだ。おもいっきりバレてんじゃねえか、クソ。帰ったら粛清してやるか……」
ペンドラゴンはぼそぼそとあの冒険者に対する愚痴をこぼす。
自己紹介したあとの一言目があれだ。ステレオンが自分を狙っているということは重々承知しているらしい。
そしてイブリスは"また"と言った。前回の襲撃がステレオンの仕業だとわかっていなければ出ない台詞だ。
アイツ、失敗どころか"大失敗"してやがる。
「図星……のようですね」
イブリスと共にいる二人の少女のうち、大きな盾を持った方が呟く。白髪の少女が行動を共にしていることは知っていたが、いつの間に増えたのか。
「はぁ……バレてるなんて聞いてねぇし、その盾持ったガキについても何も聞いてねぇし。ついてねぇなぁ今日は」
ペンドラゴンは頭をかきむしりながら大きなため息をつく。
「……ま、それでも失敗はしねぇけど。"Scarlet Ballet"」
そこで突然の攻撃が行われた。
ペンドラゴンが手を振り払うと同時にその手に沿って複数の火の玉が現れ、イブリスたちに飛来する。
炎を操る魔法。主に赤属性に多く見られるものだ。
「ちぃ!またいきなり!」
「お任せ下さい」
すぐにフロワの盾がそれを防御した。重たい盾を持っているというのに、非常に素早い動きだ。
「ちょ、防ぐなよ!」
ペンドラゴンが悪態をついたと同時に盾の向こう側から数本の光線が弧を描いて迫る。サラの杖魔法である。
「おいおい、息つく暇もねぇなぁ!」
「無駄口叩いてる暇も無くしてやるよ」
「ひゅう」
ペンドラゴンが杖魔法を回避した先には、銃を構えたイブリスが待っていた。
銃声が響く。
「……っぶね」
……が、ペンドラゴンはそれも回避した。
武器を持たない故の身軽さか。細長い脚を生かした跳躍で回避とともに距離をとったのだ。
中々に機敏な動きだ。堂々と顔を出してきているし、こちらに気づかれた瞬間逃げようとした前回の襲撃者とはレベルが違う。
あの一連の動きをこなしたにもかかわらず、息切れしている様子もない。細身の体に似合わず体力も十分にあるようだ。
「なかなかやるねぇあんたら。黒の魔術師の実力は重々承知してたつもりだが、そこの盾持ちの咄嗟の動き、白髪の杖魔法による隙の作り方……悪くない連携だ」
ペンドラゴンはふざけた口調で一行を褒める。しかし褒められた気が全くしないのは決して受け取り方がひねくれているからではないだろう。敵の軽い態度が本気で言っている言葉ではないと証明している。
「だがよぉ黒魔さん、攻撃方法がなってねぇなあ?銃で撃つだけって!魔術師が魔法を使わないでどうする?」
「お前相手なら魔法使う必要もねぇよ」
「言ってくれんじゃん?」
ハッタリだ。使いたくない、というのが本音。
イブリスの魔法は危険な物。いくら敵とはいえ、人相手に放つわけにはいかない。前回の襲撃時にも言っていたことだ。
「でもなぁ、どうせあんたを相手にしてるんだから、全力のあんたを叩き潰したいよなぁ……」
「……イブリスさんは、人相手には魔法を使いませんよ」
「その通り、です。イブリス様の魔法は人にとって危険極まりないもの。その発言は……命が惜しくない、というものと同義ですよ。私からは、大人しく引くことを提案いたします」
サラの言葉に続いてフロワが撤退の提案をする。
これも事実だ。イブリスが使いたくないというだけであって、いざ黒属性魔法を人が受ければひとたまりもない。
その事実を盾にした提案……いや、脅迫か。
「……そうか、人相手には、か」
だがペンドラゴンは引く様子はない。
それどころか、口元をさらにニヤつかせ。
「じゃあ、これならどうだよ?」
そう、言い放った。
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