白黒コンビの初仕事 その3
「きゃっ……!?」
「ちぃ!」
二人とも突進はどうにかかわしたものの、回避した方向は正反対、離れ離れになってしまった。
その上、間を走り抜けたストーンピッグのせいで土煙が上がり、お互いの姿を視認できなくなってしまう。
これは非常にマズイ。早く合流しなければ。
「サラちゃん!大丈夫か!?」
「ひゃううううううう!?」
大丈夫じゃないらしい。
「なんで!?なんで私ぃぃぃ!?」
サラちゃんの叫び声に続いて獣の唸り声と足音が聞こえてくる。ストーンピッグが彼女をターゲットにしているということだろう。
追いかけっこを繰り広げているせいか土煙が全く晴れない。音を頼りに探すしかないか。
「すぐ助ける!待ってろ!」
俺は自分の得物であるリボルバー銃に銀で作られた弾丸を込め、音がする方向へ走る。
「うぁぁぁぁ!!”ショット”!!”ショット”ォォォ!!」
サラちゃんの努力の声が聞こえてくるが、先ほどと違って発射音すらしない。パニックになって魔力の操作が全くできていないのだろう。
「い、イブリスさん!助けてぇぇぇぇぇ!」
煙の向こうにシルエットが見えた。
そのシルエットへと向けて銃を構え、その銃口に手をあてがう。
「”blasT”」
そのまま自分の手を打ち抜く形で弾丸を発射した。
俺の魔法は少々曲者で、こうして自分の身体を介さなければ発動してくれない。傷が残るわけではないのだが銃弾に貫かれる痛みはあるため、正直この仕様は全くありがたくないものだ。
……だが、それゆえに威力は強力である。
弾丸はストーンピッグに直撃すると大きな爆発を起こし、ストーンピッグはその巨体を揺らして倒れた。
「危なかった……」
「イブリスさぁぁぁん!」
「うおっ」
おさまりつつある土煙の向こうから、目に涙を浮かべたサラちゃんが飛びついてきた。
幸い怪我はない様だが、折角真っ白だったローブは土で汚れ、台無しになってしまっている。
「ありがとうございますぅぅぅぅぅ……!!」
「全く……」
泣き止まないサラちゃんを抱き留めてやる。
よほど怖かったのだろう。無理もない。初めての本格的なクエストでこんな経験をしてしまったらトラウマにもなるだろう。
「こ、この魔物、死んじゃったんでしょうか……?」
しばらくして泣き止んだサラちゃんは俺の後ろに隠れつつ、横たわったまま動かないストーンピッグを見つめる。
「いや、死んじゃいねぇ。さっきの爆破じゃこの岩の体表にろくな傷もつけられん……手加減したからな。脳震盪で気絶しているだけだ」
どうせなので討伐までしてしまいたかったのだが、時間がなかったために、流石に倒すほど強力な魔法を撃つことはできなかったのだ。
「起き上がられても困る、さっさと……っ!」
「わ、わわわわ……」
少々のんびりし過ぎたか。ストーンピッグが意識を取り戻してしまった。
「ちぃ!」
相変わらずその眼には俺たちに対する凶暴な敵意が見え隠れしている。俺は次の弾丸を銃に込め……
「ひゃああああ!?」
「逃げるぞ!」
……る前に奴さんが動いた。もう一度俺たちへ向けての突進を繰り出してくる。それしか能がないらしいがその突進が強力なのだから困る。速さは逃げる俺たちよりも圧倒的だ。
その巨体のくせに中々小回りが利くこともあって振り切るのが非常に難しい。
「ちぃ……サラちゃん!杖使えるか!?」
「つ、つつつ杖!?ですか!?」
「杖に魔力を流し込め!」
サラちゃんが自分の杖を握りしめた。銀色をベースに、先端には青緑に輝く宝玉が取り付けられたものだ。
魔術師の大半が使用する杖だが、これにもちゃんとした役目がある。
魔力の媒介となるもの、持ち主の魔力を高めるもの、様々な種類があるのだが、見る限りサラちゃんの杖は……
「え……えいっ!」
魔力をトリガーにして、特別な魔法を発動させるものだ。
「わわっ……」
魔力が流された瞬間、サラちゃんの杖の宝玉が輝き、そこから5つの光球が発射される。
光球はそれぞれ光の尾を引いて、弧を描きながらストーンピッグへと向かっていった。
杖……正確に言えば杖に付属している宝玉は魔具の一種である。サラちゃんの杖の場合、魔法が封じ込められたものだ。宝玉が魔力を感知することによってその魔法を開放するのである。
こういった杖魔法は練習などを必要としない他、詠唱なし、魔力を流すだけで発動するため速効性が高いというメリットがあるのだが、その反面威力に関しては期待してはいけない。せいぜい魔法の準備が整うまでの時間稼ぎといったところだ。
だが今は時間稼ぎで十分。
「ナイスだサラちゃん」
光球が直撃してストーンピッグがひるむ。この隙を逃さずに弾丸を装填した。
「"penetratE"」
すぐさま手を介して発射。
咄嗟に撃ったために狙いが少々不安だったがその心配は杞憂だったらしい。ばっちり脳天に直撃してくれた。
放った弾丸は貫通弾。硬い岩だろうが金属製の鎧だろうが豆腐の様に貫く魔法をかけてある。特に巨体であるストーンピッグには効果絶大だ。
その体に一直線に風穴を開けられたストーンピッグは転倒、そのまま絶命した。急所を貫いてくれたらしい。
「どうにかなったな……」
「は、はい……」
ストーンピッグが確かに死んでいることを確認し、リボルバー銃をしまう。
……くそ、貴重な弾丸を2発も使っちまった。
銀の弾丸は高額だ。銀そのものの加工が難しいのだから当然である。
だが当然、金額に見合った性能は持っている。銀という金属は魔法の媒介としてこれ以上ないほどに最適であるからだ。込めた魔法をほぼ100%の力で運んでくれる。
……最も、金欠の俺がわざわざこんな高級品を使っている理由は性能云々以前に銀の弾丸じゃないと魔法が使えないからなのだが。
発動の度の自傷行為といい、俺の魔法は少々不便すぎるのだ。
「はぁ……」
サラちゃんは大きな疲れを見せてしりもちをつく。装備の汚れももうどうでもよくなってしまったらしい。
「豚さんって怖い……」
……ついでに豚に対する大きなトラウマを植え付けられているようだ。
「冒険者って大変なんですね……」
「まあな……でも」
常に命のやり取りをしているような職業だ。大変でないわけがない。
……だが正直言って今回は訳が違う。
「さっきのストーンピッグ……明らかに様子がおかしかった。本来あんなに執拗に人を襲うような魔物じゃねぇ」
外敵をやり過ごすために岩へ偽装していることからわかる通り、通常その性格は臆病である。偽装がばれたとなれば一目散に逃げていたはずだ。
「あんまりいい気分はしねぇな……サラちゃん、さっさと退散しよう。群れの仲間かなんかにまた襲われちゃかなわん」
「は、はいっ!」
「まだまだ金が足りないから次のクエストにも行かなきゃならんからな」
「は、はい……」
「……心配しなくても今回のは例外中の例外だよ。次はちゃんと確実に大人しいやつ選ぶから」
やれやれ、初めてのクエストから予想外の出来事だ。先が思いやられるな……
特にダメージを受けたわけでもないのに頭痛を感じる。俺は煙草をくわえ、頭を抱えた。
「イブリスさん?どうかしたんですか?」
「……なんでもねぇよ」
……ま、なるようになるだろう。多分。
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