少女、ギルドを選ぶ
「どうしようかなぁ……」
憧れた冒険者生活、その初日。
サラは早速ひとつの壁にぶち当たっていた。
「うーん……ギルドかぁ……」
サラが見つめる先には多種多様なギルドがメンバーを募集する旨を記載した掲示板。初心者歓迎、プリースト募集中……掲示板に貼り出された紙にはそんな文字もちらほら見られる。
ギルドはこの世界の冒険者にとって生活の要となる組織だ。
冒険者は依頼されたクエストをこなし、その報酬で生計を立てることになるのだが、そのクエストの大半はギルド宛に届く。
そういったギルドクエストは依頼されたギルドのメンバーでなければ受諾することができない。そのため、冒険者がギルドに属することはほぼ必須であるといえる。
ギルドに入ることには当然メリットもある。クエスト報酬の数割がギルドに入る代わりに、宿と食事が保障されるのだ。単純に食費や宿代が浮くために、冒険者にとって非常にありがたいシステムになっている。
また、ギルド内であればパーティーも組みやすい。冒険者になったばかりの初心者にとってパーティーは必須事項だ。強い冒険者と一緒になればおのずと成長も早くなる。
……と、いった旨を昨日の受付嬢から説明され、ギルドを探していたサラなのではあるが。
「うう……多すぎて決まらないよ……」
掲示板に貼り出された募集要項は非常に多く、それでいて似通ったものばかりのためにサラは所属するギルドを中々決められずにいた。
「こんなことならもっと勉強してから来れば良かったなぁ……」
サラは親から許しを得た瞬間に飛び出してきた身だ。冒険者への憧れだけを胸に抱いて焦りすぎたことに少し後悔を覚えた。
「お困りですか?」
「あ……セレナさん」
掲示板を前に頭を抱えていたサラに件の受付嬢(セレナという名前らしい)が話しかけた。
「ギルドが沢山ありすぎて中々決まらないんです……おすすめとかありますか?」
「んー……お勧めのギルドですか……そうですね」
セレナは掲示板を見渡す。
一つ一つをじっくり見ているわけではなく、どうやら目当てのギルドを探している様子だ。"お勧め"の目星はついているらしい。
「私がいつもお勧めしているギルドは……ステレオン、ヒュグロン、アトミスあたりでしょうか」
セレナは掲示板の張り紙を順に指差しながら答えた。
「この三つはアヴェントの中でも特に勢力の大きなギルドです。無難なところ、といった感じでしょうか」
「へぇ……」
確かに概要に記された大まかなメンバー数がほかに比べて比較的多い。どれも人気のあるギルドのようだ。
「所属している冒険者もいろいろなクラスが居ますから、パーティーを組むのにも困りません。魔術師クラスも多いので師になってくれる人も居るでしょう」
「師匠……ですか」
サラは魔術師になったといえど素人だ。当然、魔法を教えてくれる師匠が必要になってくる。
一応、武器を使えば一人でも戦えないことはないが……まあ、弱い魔物と一対一が関の山だろう。それにサラはまだ魔法を全く使えない。
セレナはそういう意味も込めて、サラにギルド加入を勧めているのだが。
「うーん、でもこの三つの中から選ぶにしてもどれにするべきなのかなぁ」
お勧めしてくれたはいいのだが、それでも迷ってしまうサラ。装備の件から思っていたのだが、冒険者になってから優柔不断になることが多くなっているかもしれない。
しかし他の冒険者はどうやってギルドを決めているのだろうか?もしかしたら尊敬する冒険者が居て、その人のギルドに……とか、あるのかもしれない。
反面サラには今のところそういったものはない。やはり勉強不足が響いてきたか。
「あ……そうだ!サラさん、ギルドを決めかねているならいいものがありますよ!」
と、どうにも迷いを振り切れない様子だったサラに、セレナが一枚の紙を見せてきた。見たところクエストの依頼のようだが、サラの知るそれとは少し違う様子だった。
「なんですかこれ……グランドクエスト?」
「ギルド関係なく受けられるうえに、非常に沢山の冒険者が参加する大規模なクエストです。複数のギルドが参戦するのでこれに参加して所属するギルドを決めてみてはいかがでしょう?」
「ほー、そんなものが」
サラはクエスト概要を受け取り、まじまじと眺める。
目的は街に近づいてきている魔物の群れの迎撃と排除。魔物一匹につき3000リトス……と、報酬金はまだ狩りができそうもないサラには関係のないところだろうが。
「そういったグランドクエストは大抵の場合ギルドのアピールの場になります。新人を引き込むのは勿論、報酬の高いクエストを依頼してもらうためのです。なのでここからギルドを決める新人さんも多いんですよ」
「そうなんですか?なら参加してみようかな……」
その話を聞く限り、初心者が参加しても問題はなさそうだ。依頼内容もそうそう難しいものでは無いし、ド素人の自分でもあまり足を引っ張らずにすむだろう。最悪後ろで各ギルドの観察だけしていればいいのだ。
「そう……ですね。じゃあせっかくなので参加してみます!」
「了解しました、では手続きを行っておきますね。開始は明日になるので、今日のうちに準備をしておいてください。細かい予定は追って連絡します」
そういうとセレナは窓口のほうへ戻っていった。
「私の初クエスト……」
どうせなら自分が活躍できるものが良かったが、それでも胸躍る初陣だ。
楽しみな感情を抱きつつ、サラは道具の購入のため街へ繰り出していった。
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