第3話 出撃

「また勝手に仲間を増やして!結局報告したり、予算を申請したりするのは全部私なのよ!!」

 『声を荒げる少女に詰め寄られ、気まずそうに頬を掻き視線を彷徨わせる勇者』と言う珍しい光景が、野に張られた天幕の中に広がっていた。

「あなたが前に連れて来た方は、剣だってろくに握ったことがなかったじゃない!」

「いやあ、でもほら!今回の彼強かったし?」

「そう言う問題じゃないでしょ!」

 三十に及ぶ遺体は全て埋葬され、怪我人は魔術で回復され、食事を配り終える頃には既に太陽は地平の先に姿を消していた。そのあとは、大きいローブ姿の小さい少女が何処からか天幕をいくつも取り出して、そのうちの一つに、私はこうして連れてこられたのだった。

 天幕の中には私の他に四つの影。そのうちの一つは勇者で、一つは彼に詰め寄る白銀の髪をもつ少女。

「ああ、もう。今更ダメとは言えないでしょ。まったく。」

 諦めをにじませた溜め息が少女からこぼれた。彼女は疲れたように椅子に腰を下ろし、しかし気持ちを切り替えたのか、真剣味を持って口を開いた。

「あなたは傭兵ですね?名前は?」

「ジョン。ただのジョンです。」

ずっと前に考えてあった偽名を口にする。

「登録証は持っていますか?」

「なくしてしまいました。」

 新雪の野のように白い肌の、ほどよく赤い頬に、机の上の蝋燭の炎の影が揺れる。

 彼女は机から取り出した、一枚の紙に何かを書き込んだ。

「戦い方はなんですか?」

少女の青い瞳が私を見つめる。

「主に剣を。ですが、槍、斧、戦鎚、弓も全て使えます。」

「なるほど・・・。」

 考え込むように、長く上を向いた睫毛を伏せた。

再び太り始めた月の明かりが、天幕の開け放たれた入り口から差し込んで、少女の白銀の髪が輝く。

「彼の戦いを見た人は?」

 天幕の中の影達に問い、

「俺は見たぜ!めっちゃ強かった!」

「あなたは黙ってて!」

 勇者は一蹴いっしゅうされた。

「わたしが、」三つ目の影の小さな少女。

 彼女は地面にこするほど大きいローブの、腕がすっぽり隠れてしまうほど長い袖から、ちょこりとてのひらを覗かせながら手をあげた。

「ジュナ殿、どうでしたか?」

「うーん。わたし、魔術しか良くわかんないけどぉ、見た感じはレオちゃんとおんなじくらい強かったよー。」

 間延びした喋り方が、少女の外見に違和感を与えた。

 青く澄んだ瞳は一人の少年を見つめ、

「どう思う?」

「実際戦って見ないと。でも確かに、このお兄さんは強そうだね。」

 丈はわたしと同じくらいだが、顔にはいくらかあどけなさが残る、大人と子供の境目の少年が言う。

「少なくとも、そこらの傭兵よりは強いはずだよ。」

彼の背には身の丈ほどの大剣たいけんが背負われていた。

「なるほど、レオさんがそういうのであれば、暫定で部隊に入れましょう。」

 彼女はまたペンを動かした。

「部隊?」

「ああそうでした。説明がまだでしたね。」

 私が使い物になるとわかったからか、一通りの手続きが済んだからか、ずっと張り詰めていた表情が少し緩み、彼女は微笑んだ。

 引き出しから取り出した二枚の、銀色の小さな板に手のひらを乗せ、呪文を紡ぐ。

「ここに人差し指を当ててください。」

 すると金属の板は静かに怪しげな赤い光を放った。

「こっちがあなたの新しい身分証になります。それからこっちが部隊の証みたいなものです。」

 前者には数字と小さな文字で『ジョン』と記されていて、後者には九の文字と剣と竜の紋章があしらわれていた。

 彼女はその二枚の板に鎖を通し、立ち上がって私の前に立って

「ようこそ、連合軍第九特務部隊、コードネーム勇者パーティーへ。」

 私の首に手を回し、鎖をかけて、

「今度は無くさないでくださいね。」

 そういって笑った。

 暖房の魔道具のせいか、顔が熱くなるのを感じる。

いや、おそらく、目前にある整った少女の笑顔に見入ってしまったのだろう・・・

私を見上げる彼女の瞳は、南国の海のように鮮やかな曇りのない青色をして・・・


「これから頼むぜ!」

 日中の戦闘で疲れが溜まっていたせいで迷走していた意識は、しかし、馴れ馴れしく肩に腕を回す勇者に引き戻された。

 そして火照った頬は、吹き込む夜風が冷ます。

「ロンダークさん!どうでしたか?」

 夜風とともに白い騎士が天幕の中に入ってきて、彼は無言のまま小さく頷き、

「魔王の居場所がわかりました。」

「それは本当に!?」

 寝耳に水!私は大きな驚きの声をあげ、そんな私を彼は見やって、

「彼は?」

「新しい仲間です。」

「なるほど、またアラン殿が連れてこられたのですね?」

 どうも勇者の誰でも彼でも連れて来ると言う悪癖には、パーティーの他の面々も頭を悩ませていたようで、彼は大きく顔をしかめた。

 いや今は勇者の困った行動などはどうでもいい!陛下の居場所、これが大事なことだった。

 二人の少女の緊張した表情に、少しの期待が見え隠れする。

少年も身を乗り出した。

「それは確かな情報ですか?」

「使役と自白の魔術を使ったのでおそらく。それから情報源も上級百卒長でした。」

 そして、私の肩に回されていた腕はいつの間になくなり、勇者の纏う雰囲氣も、視線をさまよわせ右往左往する情けないものから、戦場で見た威厳のあるものに変わった。

「魔王は半月ほど前から王城の自室にこもっているそうです。」

 私を含む一同は驚きをあらわにした!

 部屋に籠る?殲滅作戦はどうしたのか。そろそろ本土から増援が届いてもいい頃だ。

 『半月』その言葉に、頭をよぎる一つの光景があった。

 一人で歩けないほど弱った陛下が、兵士に連れられて執務室を後にする。

 彼の瞳だけは怒りの炎を燃やし、だがその身体は力をなくしていた。

 黒く艶やかな翼は床をこするように項垂れ、よろめく体を隣に立つ兵士が支えた。

 彼の不調が一時の物でなく、今も床に臥せっているのでは・・・

 そんな楽観的予想が心をかすめる。

「他に聞き出せたことは?」

「あとは敵の陣形、基地の場所なども。」

「それはまた後で教えてください。司令部に報告します。」

 陛下の居場所の真偽、それが各々の頭の中を私の頭の中と同じように、検討されているのだろう。

 肌を切り裂くような張り詰めた沈黙が天幕の中に広がった。

 青い瞳の少女は、肘を机につき、眉間にしわを寄せ、頭を抱える。

「私たちだけで決断できる状況ではないですね。」

 彼女は眉間にしわを残したまま、重い口を開き、

「明日の日の出とともに出立します。目的地は第五補給基地です。そこで司令部からの指示を受けましょう。」

 この一言が解散の合図となり、私は勇者に連れられて、依然として空気が張り詰めている天幕を後にした。 



 勇者によって案内された天幕の中には、四つのベッドと一つのソファーの置かれた豪華なものだった。

 そのうちの一つは既に先客がいて、そしてレオという少年が、おやすみとだけ口にして残りのベッドの一つに入っていった。白い騎士は、気づけばベッドの中で静かに寝息を立てていた。

「今日はソファーで寝てくれ。そのうちベッドも用意するさ。」

 一枚の毛布を手渡される。滑らかで厚みのある毛布だ。

「んじゃ、また明日な。」

 月明かりにもまた、髪と瞳を輝かせる彼は、ベッドに入ってすぐに静かな寝息を立て始めた。

 私はソファーに腰掛けるも睡魔は一向に気配を見せず、だから、そのままじっと天幕の外を見つめる・・・

 昨晩と同じように冷たい風が天幕の中を、入口から窓へと吹き抜けていったが、ソファーのすぐ横に置かれた魔道具が、絶えず暖かい風を送り続けていた。

 この天幕までの道、勇者は色々の事を教えてくれた。

 特務部隊とは、連合軍司令部直轄の部隊で、第九部隊を除けば他は公にされていない、とか。

 勇者は、将軍に対抗するために戦場を転々としている、とか。

 そして現在の任務が魔王の殺害である、とか。

 つまり勇者の『魔王を倒す』という言葉は、そのままのことを意味していた。

 次に陛下の前に立った時、今度こそ失敗は認められない。

 だからこそ八将軍に匹敵する、あるいは凌ぐ力を持つ彼の存在は利用するに値するものだ。

 だが・・・

 いくら勇者が強くとも、前線を超え、敵地を切り進み、敵の総大将の首を取ろうという行為は無謀にも思えた。しかし結局、勇者がいようといまいと、私が為すことは変わらないのだと。


 陛下は王城で何をして、何を思っているのだろうか。床に臥せっているのか、あるいは策を弄しているのか。後者だとすれば尚更、陛下を殺すことは不可能・・・


 そんな風に想いを止め処なく逡巡させる内に、やがて私の脳裏に青い瞳の少女の顔がちらついた時、ようやく瞼が重くなり始めた。

 

********************


 満月の光が街の灯りにかき消されるような賑やかな街に私はいた。そこは非常に栄えている街で、もうすぐ日付も変わる頃合いにも関わらず、まして戦時であるのに多くの街を行き交う人の姿が見受けられる。その大半が頬を赤らめ、足をもつれさせ歩く。

 酔っ払っているのだ。

 この街が賑やかなことも当然で、ここは国の中心、すなわち王都であり、さらに自軍の大勝利の吉報がもたらされたところだった。

 私の足は意図せずして一つの酒場へと向かって行った・・・


 この時にこれが夢であることに気づく。体が意識とは全く別に動くのだ。

 別に私はお酒が飲みたいわけでもない。だというのに、身体は酒場を求めた。第一、ここが王都であることも、大勝利の知らせも、聞いていないのに知っている矛盾がそこにはあった。


 入り口の左手、酒場の主人の前のカウンターに腰をおろし、薄められたビールを塩漬けの菜っ葉をさかなに煽った。隣には女が座っている。

ローブで顔まですっぽり覆われているのに判別できたのは、夢だからこそ。

 彼女も水のようで味のないビールを煽っていた。

 バーテンダーと言うのだろう、カウンターの向こう側に立つ主人を体が勝手に見やった。

 ツノも翼も、牙もない普通の小太りの男だった。いや、普通ではない!その男の目は赤色でないのだ!!彼だけではない、この酒場にいる人は誰一人の例外なく目は赤でなかった・・・


 この光景には馴染みの記憶があった。五年ほど前、勇者が脚光を浴び始めた頃、その情報を集めに潜入したときのもの。ツノも翼も牙もない私は潜入にうってつけの人材だった。

 そこに思い当たり、そして隣に座る少女の姿にも意識が向いた。


 こうして回想している間にも、夢はどんどん進み、意識から離れたところで体が動く。

器はカラになり、無口で無愛想なバーテンダーにまずいビールの追加を頼んだ。


 その姿についてはよく覚えている。白い陶磁器のような肌に白銀色の美しい髪を持つ少女。その瞳は澄み渡る空色。しかしそのときの彼女は、飲みすぎたお酒にその頬を赤らめ目元は怪しく垂れ下がっていた。

 物憂げな表情を浮かべながら彼女は言う。

「もっと強く・・・。」

「祝勝のお酒ではないのですか?」

 きっと独り言だったはずで、それに答えた私は今思えば無粋なやつで、

「実は僕もなんです。ちょっと悩み事があってね。」

 そういって苦笑いを浮かべるとは、なんて軟派な男だろう。

「私は、」

 彼女は再び木のジョッキを傾け、

「勇者様みたいになりたいんです。」

「勇者、ですか。彼は確かに強いですね。でもどうして?」

 少し考え込むように、ジョッキの中を見つめる彼女は、酒の助けもあってだろう、ポツリポツリと話出した。

「かっこいいじゃないですか。」

「ずっと負けばかりだった私たちにたった一人で希望を与えてくれた。」

「一人で立ち向かうって、すごい勇気のいることじゃないですか。だから勇者なんですよ。」

「私も必死にみんなのためにやってきたんです。でもダメでした。食べるものもない、薬も当然ない。昔だったら治せていた病気で死んでいく人もたくさんいます。悔しいんです。みんな絶望しています。明日に希望が持てないんですよ。彼らを助けたかった。」

 喋り続けたからか、塩が効きすぎている菜っ葉のせいか、乾いた喉を彼女はビールで潤した。

「だから、勇者様みたいに強く、みんなを助けられるようになりたい。だけど・・・。」

 カウンターの奥を向いていた私の視線がそのとき、言葉の尻を窄ませる彼女を真正面に捉えた。

 ローブの隙間に見える、赤らんだきめ細かい頬にはらりと一筋の涙が溢れていた・・・

 それもすぐにプラチナブロンドの髪が隠してしまう。

「どんなに不可能でも無謀でも、それは諦める理由にはならない。」

 剣術の師匠の受け売り。だが私はこの言葉が気に入っていて、加えてそのときの私は無力さと言うところに強い共感を覚えていたものだから、自分に言い聞かせるようにそう口にしたのだ。


 そこから先の夢は目まぐるしく場面が移り変わった。

 どんなに薄められていても量を飲めば酔ってしまうもので、眠りに落ちてしまった彼女をバーテンダーに言われるままに隣の宿に運び、ベッドに横たえ、少しばかり酔いが回った頭を振りながら自分の部屋に帰った。


 眠りについたのは藁が詰められただけのベッドだった。


********************


 私は、藁のベッドとは比べられないほど眠り心地のいいソファーの上で目を覚まし、太陽ははるか地平の先に隠れている暗闇の中、外に出て擬態の魔術を掛け直した。

 そして起き出してきた勇者と白い鎧の騎士に連れられて、天幕の合間を縫って進む。

「勇者様、」

「アランでいいよ。」

 草原はどうも霧に包まれているようで、向かう先にある光は曇って見えた。

 見えている光は焚き火のようで、炎は二つの影を作り出していた。

「では、アランは魔王を殺せますか?」

 急に黙り込む彼に、機嫌を損ねたのかと不安を覚える。

 しかしそれは杞憂で、

「俺は勇者だからな。できるできない、じゃなくて、必ずやらなきゃならない。だから殺せるさ。」

 振り向きもせずつぶやくように発せられた彼の言葉には、相変わらず自信が溢れていた。

 そして炎とは別の光が背後から現れ、世界は明るくなり始め、

「おはようございます。」

 二つの影のうち、一つは白銀の髪を炎と生まれたての太陽の光で赤く染めていた。

 5年の月日は彼女を十分に大人にさせたが、その面影は変わるところがない。あの綺麗な髪も澄みきった瞳もそのままだ。

 その瞳の色に良く映える青い服と髪に似た白色のローブを身にまとっていて、一見脆弱に見える装いだが、そのローブはおそらく私のものと同じように魔獣の素材を用いているのだろう。

 端的に言えば美しい少女である彼女は、目覚めたばかりの日の光に髪を輝かせながら、私たちを振り向いた。彼女の後ろには七頭の馬。

「他の二人は?」

「レオはカロンを起こしてから来るってさ。」

「また寝坊ですか・・・」

 彼女は白い陶磁器のような手でこめかみを押さえた。

 私の目標や卑人たちの希望を背負う勇者パーティーの現実に、私も思わずこめかみに他を伸ばしかける。見れば、隣に立つ勇者もどこか呆れを含ませた笑みを浮かべていて、しかし白い鎧の騎士は表情を兜の中に隠してしまっていた。

「改めて紹介を。クリスティーナです。」

 差し出される柔らかい小さな手を握り返す。

「そちらの騎士の方が、教会の聖騎士のロンダークさんです。」

「どうぞ、よろしくお願いします。」

 白い兜が外され、女性ほどに長い茶色い髪にまず目がいった。その瞳も髪と同じように褐色で、細長くつり上がっている。彼の背には長い槍が一つ。

「そしてこちらが、」

 焚き火の前で暖をとり続ける小さな影。大きな三角帽はその小さな体に不釣り合いに思える。

「ジュナだよ。よろしくねー。」

 三角帽を手で押し上げながら話す彼女の口調はやはり間延びしていて、

「ジュナはああ見えて俺たちより一回り以上年増だぜ。」

 耳元で囁くアランは少女、もとい女性に睨まれ、そそくさと馬の元に逃げていった。

 朝の冷たい風が、すでに大分小さくなった炎を揺らし、霧は少しずつうすらいでいった・・・


 日が地平から完全に姿を表す頃、残りの二人も姿を表した。

「カロンさん、早くしないと皆さん待ってますよ!」

「わぁってるってんだ。そう急かすな、坊主。」

 黒い影となって現れたふたり。一方は鎧をその身にまとい、背には身の丈ほどの大剣を担いでいた。そしてもう一方はとにかく大きな体をしている。

 影は近づくにつれその様相をはっきりとさせていった。

 鎧姿の方はレオと呼ばれていた少年。 

 もう一方は、私より頭二つは大きい男だった。丈だけでなく、厚みもあって山のような印象を与える。その頬には、目尻から口元にかけて大きな傷跡があって、わしのように鋭い瞳と巨体とあいまって、凶悪にすら思えた。

「男の子が剣聖のレオナルドくんで、隣の大きなかたがカロンさんです。」

 剣聖といえば、卑人の中で最強の剣士に与えられる称号のはずで、それをあんな少年が・・・

 彼の短すぎる髪はよけい、彼を幼く見せた。

「ほら、カロンさん。ちゃんと謝ってください!」

 幼い剣聖が大きな男をせつく。

「わりいな、寝坊しちまって。」

 下げられたカロンさんの寂しい頭に朝日が反射した。

「よし、行くか。」

 静かに、しかし力強いアランの声に促され、皆各々馬にまたがる。

 私も残された一頭、新都しんとからずっとともに旅をしてきた馬、に飛び乗った。

 先頭の馬、金色の彼がまたがった馬がいななく。

 朝ここへきた時には無かった人だかりが、いつの間にか周囲にできていた。

 彼らは皆、焼かれた村の住人だった。

「みなさんにはこの後に来る兵士の指示に従って、別の村に避難してもらいます。」

 クリスティーナさんがそう告げ、それに顔を曇らせる人はいても、不平を口にする人はいなかった。それどころか彼らはただ私たちを見上げるばかりで、口を開くことすらしない・・・

「あっさ!その、とっさは死んじまったけんど、だけど、ありがとだに。」

 その人だかりの中から唯一発せられた声。天涯孤独の身となった少女だけは、目をかがやかせていて、

「勇者様、とっさの仇、とってくんな。」

 勇者のまたがった馬に駆け寄って力強くいった。

 勇者は陽光をその身に受け、あたかも自身が光っているかのように、その鎧も、髪も、そしておそらく瞳すらも金色に輝かせていた。彼は頷くだけで無言のまま進み、最後に立ち止まって、


「俺は勇者アラン!俺が必ず魔王を倒し、この世界に平和を取り戻してみせる!!」


 簡潔で何のひねりもない言葉。

 しかしそれを聞いた群衆は、ついに沈黙を破り両手を力一杯空に振りかざし、大きな歓声をあげた。

 突き上げられた腕は細く頼りなく見えたが、彼らの瞳には確かな光を見た。


 勇者が人々に希望を与えた。それをいま目撃し、そして私は恐怖を覚えた。

 彼がいるならば、彼ら卑人は滅びたりなどしない。もしかしたら、滅ぼされるのは私たち魔人の方・・・。

 

 いや、今はそれを考えるべき時ではない。魔王を倒すことが先決だ。

 とにかく彼らに着いていき、私の使命を果たすのだ。

 そう自分に言い聞かせた。


********************


 その日の日暮れには第五補給基地にたどり着き、クリスティーナさんが一人、上官から指示を受け取って戻ってきた。

「司令部は今回の情報を認め、私たちに『王城に攻め込み魔王の首を打て』との命が改めて降りました。」

 彼女はどこか不安を感じているように思えが、他の誰もそのことを指摘しないのだから、私の思い過ごしだろう。


 そして私たち七人は、翌朝、王城を目指して出撃した。

 

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勇者パーティーの助っ人 〜勇者が魔王城に辿り着けたわけ〜 佐藤 一郎 @TomOH

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