第0話 プロローグ・2

 屋根なしの馬車は煌びやかに飾られていて、それに乗り込んだ私たちは、大地が揺らぐほどの歓声に包まれながら、帝都へ入城した。

 黒い車体は金と銀で縁取られ、手綱や車輪など至る所に水晶が散りばめられている。ついでに言えば、御者は金の甲冑を着た近衛騎士。近衛騎士を召使いのように扱えることから、私たちへの好待遇の度合いがわかる。

 ぐるりと街をか囲う城壁に口のように開かれた、今日のために赤、黄、青、緑、白に縁のインキを塗られて派手になった城門をくぐりその中へと入る。

 するとそこから伸びて、城へと続く大通りは人で埋め尽くされ、中央にようやく私たちが通れるように開けられた道に向かって、小さな子供から杖をつく老人までが笑顔で大きな色々いろいろの葉をふり、私たち勇者パーティーを出迎えてくれていた。


 ずっと戦争に苦しみ、食べるものもなく、死の恐怖に怯えていた彼らにとって、魔王の死は久々の心からの笑顔を浮かべるのに十分すぎる吉報に違いなのはった。

 



 私たちが住む大陸(新大陸と私たちは呼ぶ)は端から端まで馬でも半年はかかるほど広く、かつては六つの国と一つの教会に分かれていて、山も川も平原も時には砂漠もある自然豊かでとても住みやすい場所だった。


 けれど、西の海の向こう側には人が住むことができない、呪われた大陸があるって言い伝えがあった。教会の教典にも『悪魔呪いし大地の大海の先に広がり侍り』ってある。

 小さい頃は悪さをすると、海の向こうから悪魔がやってきて食べられちゃうぞ、なんてお母様に言われたりもした。ただ、誰も大陸を見た人はいなくて、そんな伝説のような大陸を私たちは魔大陸、もしくは旧大陸と呼んでいた。


 ところが13年前、西の海の先から一隻の船がやってきて、その船に乗ってきた人は何と旧大陸からやってきたといった。しかも彼らはツノやツバサ、キバや動物の耳を生やしていた。噂は瞬く間に広がり、彼らのことは魔大陸に住む悪魔の人、転じて魔人と呼ばれるようになった。


 そして彼らの来訪から一月後、突如として魔人の軍勢が西の国に攻め込み、国が一つ滅ぼされ、それがきっかけとなり残された新大陸の五国一教会の連合軍と魔人の戦争が始まった。その戦争の中、単身で前線に立ち、私たちを劣勢に追い込む強大な存在があった。



 それが彼ら魔人の王、私たちが魔王と呼ぶ存在だった。



 戦争は初め明らかな劣勢に始まった。個々の能力が違いすぎたのだ。魔力、身体能力のどちらも彼らは私たちより圧倒的に秀でていた。

 魔王と彼が率いる八将軍の力があまりにも強すぎた。彼らが現れた戦場は必ず敗北を喫するほどだった。

 

 そんな彼らに単身立ち向かい、勝利した青年がいた。彼を人々は勇者と称え、敗北しか先が見えない戦争に希望を見せてくれた。

 しかし勇者も結局は一人の人間、勇者の台頭から五年がたっても戦争は一向に終わりを見せず、それどころか戦火は広がる一方だった・・・


 そんな戦況を打破すべく、勇者パーティーに魔王討伐の任が託され、そしてついに私たちはそれを成し遂げたのだった。



 馬車は全部で6台。


 1台目、私たち一行の中で最年長、2メートルを超える巨漢で、その体こそが彼の武器。付いた二つ名は剛拳のカロン。元は熟練の家具職人だったのだが、戦争へ徴兵され、その実力に目をつけられたとか。大岩をも砕く拳で魔術を打ち返し、敵を壊滅させたところを、この目で目撃している。すでに齢40を超え、いいおじさんだが妻子はおらず。


 2台目に乗るのは、聖騎士ロンダーク。白銀の鎧にその身を包み、神に仕える聖職者でありながら、魔を滅するという使命のため剣を取るものたち、白騎士。その中から選ばれた凄腕、いわばエリートの聖騎士の一人。しかし価値観が教会と合わず、勇者パーティーへの配属は体のいい厄介払いであったと本人は語る。


 一見、子供かと思う外見をし、大きすぎるローブと三角帽をかぶり、そのローブの裾を引きずり、ずり落ちてくる帽子を必死に押さえている女性が3台目の馬車には乗っていた。大魔導士ジュナ、その外見は不死の魔術開発の失敗によるものらしいく、実年齢は不明(少なくとも私より一回りは上)。しかし彼女の使う魔術は、彼女の見かけによらず強力かつ危険。かつてその術により小山を一つ吹き飛ばしたことも。魔法陣の専門家でもあり、魔弓の開発者は彼女。


 4台目には剣聖レオナルド、一行最年少の剣士である。14歳の少年だが、し

かしすでに身長は大人と同じくらい高い。十年に一度、あらゆる国々から剣士が集い行われる競技会において優勝者に与えられる称号、剣聖を若干10才にして手にし、歴代最強の剣士との呼び声も強い。剣のみであれば勇者と十分以上に渡り合える。


 そして私は5台目にいる。一応白魔道士。私が生まれて3年も経たないうちに始まったこの戦争。数百の魔人に襲われていた村を救うため、一人立ち向かった勇者の姿に憧れたのが13才の時。それから3年、術を磨き魔力を鍛えてパーティーの一員となった。


 6台目、勇者アランが乗るその馬車はひときわ目立っていた、車輪、御者台、馬の鞍と車体、果ては手綱に到るまでが、黄金色。太陽の光を受け、まるでそれ自体が太陽であるかのように輝いていたのだ。14才の時数百の魔人をたった一人で返り討ちにしたことから勇者として見出された。その馬車には彼の他にもう一人、勇者の同郷の少女の姿がある。彼女はいわゆる幼馴染みで、なんでも勇者が旅立つ前に結婚の約束をしていたとか。



 しかし、私たち勇者パーティーは全部で7人、この凱旋に参加する6人の他にもう1人いる。そもそもその1人がいなければ私たちが魔王を倒すことなど不可能だったはず。

 彼は、歳はアランと同じ18、私の二つ上で、すらりとしたその身長は普通の大人たちより頭半分は高い。胴から伸びる手足も長く、しかし肩幅は意外と広くて筋肉質。鼻筋がすっと通っていて目の堀か深く、二重の意外と可愛らしい目をしている。白い肌が赤い頬や唇を際立たせ、艶のある、少し男にしては長い黒の髪とのコントラストが印象的で、そして何より魅力的なのがその燃えるように赤い瞳。


 勇者アランも短く切られた黄金色の髪に瞳をしていて、女性からの人気は高い。現にいまだって、彼が手を振るたびに参列者から女性のものらしい金切り声が上がっている。(横の幼馴染みさんは少し複雑そう)鼻筋も確かに整っているし、身長だって180はある。更に言えばみんなが憧れる勇者だ!

(でも、私が思うにもう1人の彼だって、控えめに言っても同じくらいかっこいい。それに王子様だ!)


 けれど問題はその素敵な赤い瞳。

 

 魔人はあるものは羽根やツノが生えていて、一目でそうだとわかる。

 しかし彼は私たちとほとんど変わらない姿をしているのだ。彼から聞いた話では、ごく少数だけど稀にそういったツノやキバやらを持たない魔人が生まれるらしい。

 ただ、その赤い瞳だけは全員に共通していて、なおかつ魔人以外に赤い瞳を持つものはいないのだ。


 そう、彼は魔人だった。名前はリヴァイアサン。親しい人はみんなレヴィって呼ぶ。私もそう。


 いよいよ魔王の支配領域へ踏み込もうという時に彼は現れた。

 レヴィは本当に強かった。人類最強と言われるアランと同じくらい強かった。それに頭も良かった。ついでに言えば料理も洗濯もできた。(残念ながら、アランは料理だけは下手だった。)


 そんなわけで無事魔王を倒して、凱旋することになったのだが、彼がパレードに参加する許可は降りなかった。レヴィも参加することをためらっていたからいいのだけど・・・(せっかくなら一緒にパレードに参加して、できることなら勇者とその幼馴染みたいに同じ馬車に乗りたかった。)


 だけど、明日の内輪でやる祝賀会には参加するみたいだから、それまでは我慢しよう。


私は早く彼に会いたい気持ちを抑えて、民衆に笑顔で手を振り続けるのだった・・・

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