幼馴染
「ど、どうしたの?」
自分の顔を真剣に見つめてくるレフティに、アリシアは
「ごめん、義姉さん。ちょっと、いい?」
呼び方が元に戻っていたが、そんな事を指摘する気になる
アリシアの顔が再び真っ赤になる。
レフティは彼女から、ゆっくりと
「やっぱり……熱があるじゃないか」
それは照れているから……というわけでは無く、アリシア自身にも自覚症状はあった。
「大丈夫よ。すこし身体が
ふわりとアリシアの身体が持ち上がる。
レフティは両手で軽々と彼女を抱き上げた。
「駄目だ。念の為に診療所へ連れて行く」
「ちょっ!? ちょっと、レフティ! それならそれで、自分で歩けるから降ろして!」
アリシアは、レフティの腕の中で彼の胸を押して離れようとしたが、ビクともしなかった。
レフティは、そのまま玄関の扉を開ける。
「ほ、ホントにやめて!? ご近所の目もあるんだから! 恥ずかしいから!」
涙目になって哀願するアリシアだったが、レフティは泣き出す所まではいっていない彼女の願いを無視すると、そのまま外へと出てしまった。
玄関から先の小道を歩くと、やがて村の中でも比較的に広い道に入る。
向かいから干し草を積んだ荷馬車が、ゆっくりと走って来た。
御者はアリシアも知っている男性だった。
男は二人を見ると微笑んでお辞儀をする。
レフティもアリシアを抱いたまま
アリシアは恥ずかしそうにレフティの胸へと顔を隠すように
そんな狭い村の様々な知り合い達とのやり取りも、アリシアは五人目辺りで
「やっ! 朝から見せつけてくれるねえ、お二人さん!」
しかし、行く手に待っていた六人目の声が聞こてきた時に、アリシアはびくりと身体を震わせる。
「エレナ」
レフティが声の主の名前を呼んだ。
アリシアは恥ずかしくて、まともにエレナの顔を見る事が出来ないでいた。
エレナと呼ばれた女性も片手剣と簡素な鎧を装備した剣士の格好をしていた。
白に近い薄い金髪を肩の少し上辺りまで伸ばし、それらは先端で不揃いに広がっていたが、明るい笑顔も相まって華やかで美しく見える。
彼女も自警団の一員であり、レフティと同じ今日の見回り当番だ。
エレナの祖母とアリシアの祖母は親友で、小さな頃にこの村に越してきた二人にとって、彼女は初めて出来た村の友人だった。
年齢は十八歳で、恐らくレフティとは同い年だろう。
アリシアにとっては妹のような存在で、お互いに大切な友人である。
そう。
嫌いな相手だったら、見られても何ともない。
むしろ親しいエレナだからこそ、アリシアは顔から火が出る程に今の状況が恥ずかしかった。
アリシアを抱いたままで、レフティがエレナに謝罪する。
「エレナ、済まない。少し寄り道をしてから見回りに行きたいんだけど……」
エレナは不思議そうに、レフティに顔を
「いいけど……どったの?」
「熱があるみたいなんだ。これから診療所に連れて行く」
「ふーん」
エレナが、にやりと笑う。
「それで、お姫様抱っこかあ。
その言葉を聞いた瞬間に、アリシアがガバッと振り向いた。
「ち、違うのよっ、エレナ! 私は大丈夫、歩けるって言ったのに、レフティが無理矢理……!」
アリシアはレフティの腕の中で、彼の
レフティの顔が少し歪んだが、ビクともしない。
焦って苦笑いをしているアリシアを指差しながら、エレナはレフティの少しだけ面白くなってしまった顔を見ると、表情で訴えながら質問をする。
「自分で歩けるってさ?」
レフティはアリシアを降ろす事を拒否する為に、無言で首を横に振った。
アリシアによる顎への妨害を物ともせずに……。
エレナは溜め息をついて
「ねえ? せめて、おんぶにしてあげれば?」
しかし、レフティは再び首を横に振った。
「駄目だよ。俺の背には両手剣がある」
レフティの背には、彼の首から
「私が持っててあげるからさ?」
エレナはレフティの背後に回ると、彼の両手剣を外した。
それならば……と、レフティは静かにアリシアを降ろすと、改めて彼女の方に背を向けて腰を落とした。
レフティの大きな背中を見つめながら……こ、これはこれで、とっても恥ずかしいわ……と思ったアリシアだったが、このまま逃げたい気持ちを抑えて、レフティの背中に自分の身体を預ける。
レフティの首に手を回して寄りかかると、照れながらも安心感を得てしまうアリシアだった。
レフティはアリシアを、しっかりと両手で支えながら立ち上がる。
そして数歩だけ進んだ時に、後ろから両手剣を持ってついてきたエレナに呼び止められた。
「ねえ、今なにか落ちたよ?」
エレナは左腕で両手剣を抱えながら、しゃがみ込む。
レフティとアリシアも彼女の右手の行き先を確認した。
エレナはアリシアが首に
小袋の紐は切れてしまっている。
エレナは素早く紐を結び直すと、アリシアに近づいて首に掛け直してやった。
「ありがとう」
「どういたしまして」
「帰ったら、新しい紐に付け替えようか?」
レフティの問いに、アリシアはコクリと頷いた。
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