望まぬ宿願

結ばれた日

 数羽の白い鳩達が、大きな木製の鳥籠とりかごから放たれた。

 次々と空へ飛び立ち、紺碧こんぺきに染まった舞台で、まるく純白の軌跡の舞を披露する。

 辺境にある、この村の結婚式での風習だった。

 白い鳩達に、男女が愛を誓った事を天にいる神に報告して貰い、末長い幸福をもたらしてくれる事を願う。

 そういう大切な意味が込められていた。


 上空で螺旋らせんを描く鳥達を見つめる男女がいた。

 新郎は、綺麗に整った剣士の礼装をしている。

 彼の名はレフティ。

 新婦は質素な感じの純白のウエディングドレスを着ていた。

 彼女の名はアリシア。


 二人は血の繋がらない義姉弟だった。

 その事は、この結婚式に参加している村人達のほとんどが知っている。

 そして二人の仲の良さも、知らない人はいなかったので、この婚姻こんいんが決まった時も誰もが、やっぱりね、と祝福していた。


 二人がまだ幼かった頃に、この辺境の村に引っ越して来てから、既に十年近くが経過している。


 レフティは、アリシアが祖父母と街に住んでいた頃に河原で拾われた。

 祖父母は捨て子であったレフティの両親を懸命にさがしてくれたが、結局は見つからず仕舞いだった。


 その後、アリシアの祖父が病気で亡くなってしまい、誰も仕事の跡を継げる者がいなかったので、義姉弟は祖母と共に街を出て、彼女の生まれ故郷へと戻って暮らす事になった。


 村は街に比べて生活費が少なくて済むので、三人は祖父の貯蓄や遺産で充分に食べていけた。

 また、村には祖母の昔の知り合いも多くいて、三人にとって人間関係的にも非常に心地良い場所になっている。


 レフティは細身ながらたくましく成長して、村の自警団の仲間入りをし、そこで剣の腕を磨いて、今では村を様々な外敵から守る事を生業なりわいとしている。


 アリシアは、村の地主の農作業や家事の手伝いで給金を貰っていた。


 二人が村で働けるようになると、それと入れ違うかのように、彼らの祖母が病に伏してしまい、昨年に息を引き取っていた。


 アリシアは祖母に二人の結婚式を見てもらえなかった事に、そっと後悔の涙を流し、レフティも心中しんちゅうは彼女と一緒だった。


 二人は幸せだと神様だけでなく祖母にも伝えて欲しい。


 天空を舞う白き鳩達を見ながら、彼らは切に願った。

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