シンネン
僕は走っていた。走るのは好きではなかったが、走らないという生き方はもっと嫌だった。今いる場所にとどまり続けるのは嫌だった。もっと遠くへ行きたかった。
年の暮れの最後の日、ランニングをしていたら、たまたま通りかかった大通りで、唄を歌う人たちを見た。どうやらお祭りのようだった。なぜか胸が苦しかった。みんな好き勝手自由に歌って、その溢れんばかりの情報量が苦しかった。理解も待たずに流れゆく音が、ただ苦痛だった。どうしてこんなにも分からないものに囲まれて、みんな楽しめるのか。僕は逃げるようにその場を立ち去った。
12月の寒い夜、その場を離れ、一人走る。このお祭りの最後には、みんなで大きなスタートラインを引いて、みんなで意気揚々と走り出すのだという。どうせ走るならみんなと走った方が楽だろうか。そう思い引き返そうとしたが、やっぱりやめた。
何がスタートラインだ。とうにスタートラインなど過ぎ去った。現に、振り返ってもスタートラインなど見えやしない。当然引き直すこともできない。別のレースなど始めることはできない。
そんなことを嘯いて、僕は一人走り続けた。何が変わろうと、どうしようもなく繋がってしまう時間というやつから逃げないと誓った。何故だかたまらなく辛かった。
せめて今は一歩先へ。一歩ごとにそう願いながら、僕は走った。
フラフラと右左に揺れる僕の背中を、月が悲しそうに、優しそうに見つめていた。
ペン先の向く方向 にゅーろんΩ @Pottomun
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。ペン先の向く方向の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます