窓枠の外

 流星を一つも見せなかったくせに、自分だけからりと澄み渡った青空を睨んだ。筋違いだとはわかっていた。


 眠れなかった夜、ふと、オリオン座流星群を見よう思った。ベランダへ続く窓を開けるとパジャマのままでは10月の夜は寒かった。けれど着替えて外出する気にもならなかった。僕は結局、締め切った窓に背中を預け、振り返るようにしてオリオン座を睨んだ。

 結局流星は見えなかった。

 思えばあの窓枠が異常だったのだ。南向きの窓は、確かに放射点のオリオン座を捉えていた。けれど僕は知っていたはずだ。流星群は空を大きく見なければ見つけられないことを。360度の丸い空を矩形に切り取った空は、考えてみれば異常に違いなかった。

 つまり、中心を捉えた物なら、何かを見せてくれるという信頼が、最も致命的だった。

 そんなおかしな信頼が、いつの間にか当たり前になっていた。


 昔――まだ僕がずっと強かった頃――一晩中芝生に寝転び空を見上げたことを思い出す。次はあの時のように外へ行けるだろうか。けれど窓越しに感じたあの冷たさを思い出すたびに、足がすくむ。


 あと何度、青空を睨めば良いのだろう。


 僕は寒空の下、人気のない道をどこまでも歩いていける自分を夢想した。思い浮かぶのは、僕がまるで映画のワンシーンように、ずんずんと闇夜を掻き分けて行く光景で――けれど、それは本当にどこかの映画に違いなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る