第16話

 ところで、この佐々木版閉鎖空間は、長門のマンションまで続いているのだろうか?もし途中で終わっているのなら、出口で待ち伏せされる危険がある。


「その心配は無用です。長門さんのマンションぐらいまでなら余裕でエリア内なのです」


 橘が携帯の通信基地局のようなたとえをした。そういえばさっきだんだん広がっていってるといっていたし、案外橘にとってはそういうものなのかもしれない。


「だが拡大することが必ずしもいいことというものでもない」


 歩きながら藤原がポツリと呟いた。何故だ。橘がいればこの空間の内側を何処からでも出入りできるんだろう。何か不都合でもあるのか。


「いや、何でもない。それより、もうすぐ着く。マンションに着いたら橘の力で現実世界に戻るんだ」


 505号室の長門達の目の前に、俺達は突然現れるということか。


「理想はまあそうだ。だが向こうもそう簡単には入らせてはくれないだろうが」


 藤原はマンションの玄関口で立ち止まった。入口の自動ドアは開けっ放しになっていた。どうやらここへ来ることは向こうにバレているようだ。



「あれ?」


 橘が玄関の入り口で立ち止まった。どうしたんだ?


「ここから先には進めないわ…」


「進めないっていうのはどういう意味だ」


「言葉通りよ。たぶん、長門さん達が作ったシールドのような、いいえ逆ね。佐々木さんの空間を、このアパートの周りだけ、削りとっているんだわ。そうか、この方法なら、私たち以外でもこの空間に干渉できるんだ」


 橘は驚きながら感心しているようだった。


「どうするんだ?」


「仕方がないのでここで戻ります。とはいえ、向こうもそれは分かっているでしょうから、何があるか分かりませんが」


「分かった」


「じゃあ…目を瞑って」


 俺が目を閉じると、すぐに様々な音が耳に飛び込んできた。そういえば今まで生活音が一つもなかったな。そう言って振り返ると、橘と藤原の姿が消えていた。

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