第15話

 朝倉の部屋…か。歓迎してもらえそうにないな。


「お茶でも飲みに行くつもりか?もう少し緊張感というものを持ったらどうだ」


 お前こそ戻ってくるなりその毒舌、何とかならないのか。ずいぶんと早かったがひょっとしてこの空間内は雪山の時みたいに場所によって時間の流れが違うのか?


「橘…お前こいつに何を説明したんだ。それともこいつの頭が悪すぎるのか?」


 頭が悪いとはなんだ頭が悪いとは。否定できないがお前には言われると腹がたつ。


「藤原の帰ってくるのが早すぎるのです。佐々木さんが食べ終わるまで戻ってきちゃだめよ」


 藤原は肩をすくめ、そこまで付き合いきれんとばかりに溜息をついた。


「いいか、この空間内において時間の流れは一定だ。だが時間の進む速さが圧倒的に異なる。ここで一時間過ごしても向こうでは数分しか経過していない」


 解説有難うよ。それはさっきもう聞いた。


「そりゃよかった。なら早速出かけてもらおうか」


 そうだな…。いくら時間がゆっくりだからといって長居していいものではないし。藤原が一度背を向けたあと、思い直したように振り返った。


「あとこれは忠告…いや、警告だ。今から会う三人を、いつもと同じ相手だと思うな」


 どういう意味だ。藤原は心底馬鹿にする目をした。


「あんたがこれから会うのは涼宮とやらが作った集団の三人じゃない。それぞれの属している組織の代表だ。あんたはずっと内側にいたから分からないだろうが、敵に回すとあれ以上面倒な奴らもそうは居ない」


「俺はあの三人は、今回の騒動には巻き込まれた側だと信じている。話をすれば必ず分かり合えるはずだ」


「…おめでたい奴だ」


 藤原はそれだけ言うと部屋から出ていった。藤原がどう思おうがあいつらとの付き合いは俺の方が長いんだ。


「キョンさん」


 振り返ると橘が少し怖い顔をしていた。どうした。


「長門さんたちに派閥があることはご存知ですか」


 長門と朝倉が違うって言うのは知っている。全部は知らんがそんなことを古泉が言っていたような気がする。


「なら喜緑江美里がどの派閥がご存じですか」


 何処だったかな。古泉は長門とも朝倉とも違って確か穏健…派とか言ってたか。


「そうです。穏健派は荒事を好みません。穏健派の彼女がここまで積極的に動いているということは、今回の行動は情報統合思念体の総意に基づいていると考えていいと思います」


 それはつまり…長門もだと言いたいのか?


「彼女だけではありません。古泉さんもあのかわいらしい先輩も同じです」


 確かにそうかもしれない。だけど!あいつらは好んでこんなことをする奴じゃないんだ。橘は黙っていたが、行きましょうと俺の手を引いて歩き出した。


「そう言えば佐々木はどうするんだ」


 さっきから見かけていないが何処にいるんだろう。


「今回は連れて行けません。さっきのことがあるし、この空間に居てもらいます」


 たしかにその方が安全だな。俺と橘は藤原の後を追って歩き出した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る