第4話

 結局あの後何もできずに俺は家に帰った。そもそも長門のいない状態で朝倉と会い生きていること自体奇跡みたいなものだ。唯一話の通じる佐々木に電話してみることも考えたが、やめた。そもそも佐々木まで巻き込むことになる。それに、これ以上話をややこしくしたくない。


 だが、俺はこの時の考えが甘すぎたということを嫌というほど思い知ることになる。



 翌日、俺が重い足取りで坂を登り切って教室に入った時、俺の後ろの席はなくなっていた。



「おはようキョン」


 おはよう、国木田。今から恐ろしくくだらないことを聞くが笑わずに答えてくれないか?


「ふうん?いいけど」


 お前、涼宮ハルヒという女を知ってるか?


「涼宮ハルヒ…あ、涼宮さんか。もちろん、覚えてるよ。涼宮さんについてなら、僕より谷口に聞いてみたほうがいいと思うけど」


 そうか、ありがとう。とりあえずハルヒが初めからいない、なんてわけではないようだ。だが今の反応は少し妙だ。


「あっちいな~。おいキョン、たまにはテストで満点でも取れって。ドカ雪くらい降るかもしれないぜ」


 カッターシャツを限界まで着崩した谷口がぶつくさ文句を言いながら教室に入ってきた。谷口、お前涼宮ハルヒを知ってるよな。谷口はだらしなく着崩した制服をさらに着崩してめんどくさそうに言った。


「ああ、覚えてる。同じ中学だったからな。顔はよかったんだが…あれ?お前も知ってるだろ。一年の途中まで同じクラスだったはずだ」


 途中だと?意味が分からん。今ハルヒは何処だ。


「怒鳴るな暑苦しい。休学中だろ?たしか家か病院かどっちかだ」


 は?休学?俺はあまりのことに言葉を失った。


「去年のゴールデンウィークくらいに倒れただろ。そういや、お前の後ろに座ってたんじゃなかったか?」


 なんだこれは。ハルヒが倒れた?しかも去年からだと?


「じゃあSOS団もないのか」


「SOS団だぁ?さっきから何わけわかんねえこと言ってやがる。この暑さをどうにかしちまったのかぁ」


「あ~、くそっ!」


 俺は急いで隣のクラスに駆け込み長門を探した。


「あ、長門有希さんは今日は来てる?」


「長門…さん?このクラスにそんな人いないと思うけど」


 血の気が一気にひいた。客観的に見ても俺は真っ青だったと思う。俺はふたたび教室を飛び出して古泉のクラスへ向かった。階段を駆け、軽く息を整えてから教室に入り、一番近くにいた生徒に古泉一樹が今日来ているか尋ねてみる。


「古泉一樹?このクラスにそんな名前の人はいないんだけど」


 みなまで聞かず三年の教室へ駆け出した。教室にたどり着く前に朝のホームルームのチャイムが鳴ってしまったが無視だ。それどころじゃない。朝比奈さん達のクラスのホームルームが終わるまで廊下の隅っこの方で待機していると、タイミング良く教師と同時に鶴屋さんが出てきた。


「鶴屋さん!!!」


 んん?と振り返った鶴屋さんを見た時、去年の冬にひねられたことを思い出して少しのけ反った。だが確認しなけらばならない。


「朝比奈みくるさんをご存じですか。それと、俺とあったことはありますか?」


 鶴屋さんはむむっと腕を組んで考えた後にゃははと笑いながら、ごめん誰のことと君は誰だっけ?と聞きなおしてきた。


「朝比奈さん…朝比奈みくるさんです。あなたの親友で、いなくなったSOS団の一員で…すみません、忘れてもらって結構です」


 俺はがっくりと肩を落としながら鶴屋さんに背を向けた。


「なんか分かんないけど大変そうだね!あたしにできることがあったら声をかけとくれよ!」


 背中越しに鶴屋さんの元気な声が聞こえてきたが、俺に応える気力は残っていなかった。

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