幕間・二


 壁に埋め込まれた檻の中から、四つ足の生き物がこちらを見ている。


何かの数値を示す表を見せながら、隣を歩く男が言う。

「昨晩死んだネズミから面白いサンプルが取れました。後ほどデータをまとめた物を提出します」

首を縦に振る。

男は眼鏡の奥で両の眼をきらきらと輝かせ、頭を下げて檻の前へ戻っていく。


すれ違う初老の男が会釈する。

片手を挙げると男は合わせた両手の指を組み、目を伏せる。

「神は確かに、我ら至高天の信徒を見守って下さる……」

深い敬服の声を背中で聞く。


大きな水槽の中から、よく分からない形の生き物がこちらを見ている。

手元の紙にペンを走らせていた女も、こちらを見る。

「貴方様とこうしてお話出来る事もまた、神のお導きなのでしょうか」


少し離れた場所の、小さな水槽の前にいた男が駆け寄って来る。

「研究は順調です。このまま安定が続けば、より多くのホスト化が見込めます」

二人は顔を見合わせて頷く。同じように頷いて見せると、嬉し気に笑う。


部屋の隅に見慣れた後ろ姿がある。


『  』


白衣のポケットに両手を収めたまま、振り返った彼は目を細めて言う。

その表情は嘲笑とも、憂い顔ともつかない。

「首のないネズミがこちらを見ている、か」



「なあ、これがお前の望む救いなのか?」

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