七夕Another

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愛の刃〜YAIBA〜

《舞台は星空》




第一幕



ハッシー

「ペーター!遅いぞ、何してたんだよ〜」


ピーター

「ごめん、ハァハァ...


って、俺の名前はピーターだ!

ペーターじゃなくてピーター!」


ハッシー

「いや、ペーターのおっさん羊飼いやってんだろ?

羊飼いの息子、つったらペーターだろ」


ピーター

「はぁ...おつるもなんとか言ってくれよ」


おつる

「まぁまぁ二人とも! いつものことじゃない」


ピーター

「はぁ。おつるがそう言うなら仕方ない」


ハッシー

「そういや、おつる。あの変な星はどうだった?

行ってみたんだろ?」


おつる

「うん!

なんだかすごく寒くて、凍えてたらお爺さんに助けてもらったの。


だけど……」



ピーター

「だけど……?」


おつる

「恩返しに織り物を織ってたら姿見られたから、慌てて空に帰ってきちゃった」


ピーター

「姿見られて平気なの?」


ハッシー

「平気なわけないだろ!

何やってんだよ〜おつる。


馬鹿だよ、馬鹿」


おつる

「なっ!!


馬鹿って言った方が馬鹿なんですー!」


ピーター

「二人とも……もう俺ら18だぞ。

子供じゃないんだから」


おつる

「ピーターは大人なの?」


ピーター

「それは……うーん、わからないな」


おつる

「じゃあピーターも子供ね!」


ハッシー

「言われてやんの」


ピーター

「はぁ……そんなことはどうでもいいんだよ。


で、話ってなに?こんな夜中に」


ハッシー

「おぅ。そうだった。なんだよ、おつる」


おつる

「あのね、私、明日お見合いに行くの。

たぶん、そのまま結婚する」


ピーター

「……へ?」


ハッシー

「おいおい、なんだよそれ」


おつる

「もう決まったことなの。


うちの家、貧乏なの知ってるでしょう?

お金持ちの家に嫁げば、丸く収まる」


ハッシー

「おつるの気持ちは!どうでもいいのかよ!

なぁピーター。


ピーター?

おい、どこ行くんだよ!」


おつる

「ピーター……」



* ⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒ *


翌朝




「おい、起きろ!起きろって!」




ピーター

「ハッシー!? なんだよ朝早くから」


ハッシー

「おつるがいないんだ!

村のみんなも探してる!お前も手伝え!」


ピーター

「はぁ?!どうなってんだよっ」



* ⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒ *


数ヶ月後


ハッシー

「……あのお見合いの前日、もっと話を聞いてやればこんなことには」


ピーター

「ハッシー……そうだな。

俺たちでおつるを守れたかもしれない」


ハッシー

「くそっ!どこにいるんだよ!!」


ピーター

「……」






☆。・:*:・゚'★,。・:*:・'。・:*:・゚'★,。・:*:・゚'☆






第二幕



織り姫

「おかえりなさい、お父様。

見て下さい!立派な織り物でしょう?」


お父様

「たしかによく出来ている。

まるで朝日に照らされた天の川の輝きのようだ」


織り姫

「そうでしょう?」


お父様

「だがな娘よ。

他にやることはないのかね。

毎日毎日、布きれを切っては織って、織っては繋げて、また織って」


織り姫

「私はこれをしてる時が一番楽しいのです。

わくわくするのです。

織り物以外のことはすべてくだらなく見えます」


お父様

「織り姫は変わらないな。

ならば、こやつもくだらなく見えるか」


織り姫

「こやつ……?」


お父様

「紹介しよう。

天の川の向こう側に住む彦星くんだ。

彦星よ、これが我が娘の織り姫だ」


彦星

「はじめまして。僕は天ノ橋親方の弟子……

つまり、貴女のお父様とお仕事を共にしている者です」


お父様

「彦星くんは好青年で仕事もできる。

そこに私が目をつけて連れてきた。


ぜひ、織り姫の婿にと」


彦星

「天ノ橋さん……いえ、織り姫さん」


織り姫

「はい……?」


彦星

「僕と結婚していただけませんか」




* ⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒ *


それからしばらくして...



お父様

「織り姫に彦星。


こんな事を言うのは心苦しいが、お前達はしばらく離れたところに置くことにした」


織り姫

「お父様どうして! 私たち愛し合ってるんです」


お父様

「娘よ……最近のお前の態度はなんだ。えぇ?

夫婦になってからというもの毎日遊んでばかり。

ろくに働かず、空中散歩したり、笹舟で銀河昇りをしたり」


彦星

「それは誤解です、お父様」


お父様

「えぇい、うるさい。

私はな、君たちが年相応の暮らしを送らせてやろうと、結びつけてやったのに」


彦星

「お父様。僕らは夫婦になるまで別々の時間を過ごしてきました」


織り姫

「その埋め合わせをして何が悪いのでしょう」


お父様

「ではせめてもの慈悲を与えよう。

年に一度、7月7日(七夕の日)に天の川の橋の上で会わせてやろう。

それまで二人とも己を見つめ直しなさい」





☆。・:*:・゚'★,。・:*:・'。・:*:・゚'★,。・:*:・゚'☆




第三幕



織り姫

「今日は7月6日、明日は七夕の日。


やっと……やっとあの人に会える!


この日をどれほど待ちわびたことか」


お父様

「織り姫」


織り姫

「お父様……!」


お父様

「いよいよ明日だな。

私も天の川の河川敷からお前達を見守るとしよう。

もしも二人で逃げようものなら……」


織り姫

「わかっています! そんなことしません。

お父様との約束ですもの……」


お父様

「見ているからな」


織り姫

(そうは言ったものの、こんなもの毎年続くの?? 私、耐えられる自信ない……


そういえば、流れ星がこんなこと噂してた。

村の先の森の奥の家に、魔法使いがいるとか。


お父様が狩りに出掛けてる間にこっそり行ってみましょう)



* ⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒ *



魔法使い

「どうぞ、お入りなさい」


織り姫

「夜分遅くにすみません。

魔法使い様にご相談したいことがあってきました」


魔法使い

「………………おつる?」


織り姫

「あの、聞いてます? 都合が悪かったなら出直し」


魔法使い

「問題ないよ。続けて」



〜織り姫は魔法使いに事情を説明した〜



織り姫

「ーーーというわけでして、お父様をなんとか説得したいのです。お力を貸してはいただけないでしょうか」


魔法使い

「いいでしょう。この弓矢を貴方に」


織り姫

「これは……? 」


魔法使い

「そいつは魔法のかかった弓矢です。

思い通りにならない人に向けて願いを込めて射ちますと、その願いの通りに、射った人を動かすことができます。


さて、お父様は今どちらに?」


織り姫

「ちょうど狩りに出掛けております」


魔法使い

「では早速行きましょう」



* ⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒ *



織り姫

「お父様は度々、平原に出ては夜鷹(よだか)を射るのです」


魔法使い

「そのようですね。準備はよろしいですか?」


織り姫

「はい……」


魔法使い

「いいですか。

願いを込めて一思いに射って下さい。

さすれば、貴女の願いは叶えられるでしょう」


織り姫

「わかりました。


『……愛しのお父様。

これからは勤勉に、慎ましく、謙虚に生きていきます。

ですので、どうか私たち夫婦の邪魔をしないで下さい』」




魔法使い

「……やりましたね。



あの狩人、お父様は貴女の願いのこもった矢を身をもって受けました」


織り姫

「お父様のところに行かなきゃ」


魔法使い

「そうですね」




織り姫

「お父様、お父様。目を開けて下さい。

そして私と彦星さんをお許し下さい」


お父様

「ぐわっ……うぅぅぅぅ、あぁぁ」


織り姫

「お父様? 安心してください。

これは魔法の矢で本物の矢ではないのですよ。


お父様?お父様??



なんてこと……



あぁ、なんとか仰ってお父様……」


魔法使い

「そんな、まさか……ありえない」


織り姫

「魔法使い様、この有様はどういうことですか!

この弓矢は魔法なんてかかっていない!



魔法使い様??

どこへ行ってしまわれたの??



あぁ、誰か……

お父様を助けて下さい……



あぁあぁ……」





☆。・:*:・゚'★,。・:*:・'。・:*:・゚'★,。・:*:・゚'☆





第四章



彦星

「ついにこの日がやってきた。


7月7日。どんなに待ちわびたことか。


早く織り姫をこの手で抱きしめたい……」



〜数時間後〜



彦星

「天ノ橋さんも織り姫もいない。

一体どうなってるんだ?


もうじき七夕の日を超えてしまう……


そうだ、織り姫の住む家へ向かってみるとしよう」



〜織り姫宅にて〜



彦星

「誰もいない……

織り姫のハタオリキもない。



織り姫はどこだ」



〜数時間後〜



彦星

「魔法使いに聞いてみるか



たしかこの奥の……あった


すみませんー、人を探しているのですがー」




「……」



彦星

「返事がない……留守だろうか?


窓から入れそうだな……」




ギィィ……カタン。パタ、パタ、ギィィ……




彦星

「この音はハタオリキ??



織り姫、いるのか?」



織り姫

「彦星さん……私、私」


彦星

「心配したよ!

約束の時間になっても君も、お父様も来ないから


こんなところで何してるの?」



織り姫

「織っているの」



彦星

「そりゃ見たらわかるよ。


なんでこんなところにいるの?」


織り姫

「……」


彦星

「もしかして今日が七夕の日だってこと、忘れてた?


お父様は?

お父様はどこへ行ったんだい?」



織り姫

「……」



彦星

「よし、わかった


一緒にお父様を探しに行こう。

ほら、立って」



織り姫

「いやっ」


彦星

「どうして!」


織り姫

「お父様はもう……死んでしまったの」



* ⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒ *



彦星

「……なんだって?」


織り姫

「死んでしまったの。


私が射った矢に体を貫かれて」


彦星

「どうしてそんなことを……」


織り姫

「私がいけないの。

私があの人に頼んだりしたから」


彦星

「あの人……あぁ、それでこの家にいるのか」



織り姫、震えた指で隅の部屋を指差す。




* ⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒ *


ドアの開く音。


魔法使い

「……織り姫か」


魔法使いはイスに揺られながら窓の外の三日月を眺めている。



魔法使い

「今夜は月が綺麗だな、織り姫よ。


お前もそう思うだろう? なぁ、


今度こそ2人の結婚式を挙げよう。


そろそろお父様のことは忘れて、


私と新しい生活を築こう」



(何も聞こえない。)



魔法使い

「……どうして黙っている?

まだ哀しんでいるのか。


織り姫、お前の父親である天ノ橋……ハッシーは、

お前の母さんを誘拐したんだ。


どうしようもないやつさ。

まさかハッシーに裏切られるなんてね。


はじめお前を見たとき驚いたよ。

おつるそっくりだ。


お前を見て、おつるの娘だと直感でわかった。

誘拐犯に復讐してやろうと、お前に本物の矢を射たせた。


だが、どうだ。

かつての親友が矢に射たれて死んでた。



なぁ、織り姫よ。返事をしておくれ」




☆。・:*:・゚'★,。・:*:・'。・:*:・゚'★,。・:*:・゚'☆




第五章



村人A

「天ノ橋さん亡くなったってホント?」


村人B

「ホントもなにも、殺されたらしいわよぉ、矢に射たれて。

狩りの途中だったんですって」


村人A

「そりゃあ、ひどい……」


村人C

「しっかしあれだろ?

天ノ橋さん、誘拐犯だったんだろ?

数年前にいなくなった、名前は……えーっと」


村人B

「おつるちゃん?」


村人C

「そう。おつるちゃん。


誘拐した後、病気で死ぬまでずっと家に閉じこめていたんだろ?


悪いことするから殺されんだよ」


村人A

「織り姫ちゃんはどこ行ったんだろうね」


村人C

「さぁね。そこら辺で死んでたりして」


村人B

「忘れてたけど、織り姫ちゃん結婚してなかった?


旦那さんと逃げたんじゃないかしら」


村人C

「ということは、なんだ?

織り姫ちゃんとその旦那さんが天ノ橋さんを殺して逃げた?」


村人A

「そういえば魔法使い様も死体で見つかったのってホント?」


村人B

「ますますわからないわぁ」




☆。・:*:・゚'★,。・:*:・'。・:*:・゚'★,。・:*:・゚'☆



エピローグ



「やっと二人きりになれたね。


これで邪魔者は一人もいないよ。




君が悪いんだからね、僕から逃げようとしたから。



あの魔法使いは死んで当然だよ。

君にあんな酷いことをさせるなんて。



織り姫、君は永遠に僕のものだ」





織り姫から滴る赤の液が天の川に溶けていく。


冷たく鋭い刃が、彦星の吊りあがった口角を鮮明に映し出していた。








おしまい。

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