荒野

 色が無い荒野を走行するバイクは一筋の線を残して進む。その間、幾度となく太陽が昇り、降りた。しかし、バイクは止まることなく進み続けた。


「――」


 スピードを出して風を浴びながら走るが、決して爽快感はない。進めば進むほど絶望的が湧き上がる。


 でこぼこだ、と俺は思った。

 果てしない地平線。

 果てしない荒野。

 果てしなく澄んだ空。

 いつまで走っても変わらない。変わってくれない。

 

 人が見たい。

 もし叶わないなら、せめて緑が見たい。


「――ぁ」


 願う事はこれ程に虚しい事だったのかと。

 やがて、俺は荒野の果てに辿り着いた。


 バイクを降りると、膝を折る。

 サラサラとした地面と陥没する地面。これはきっと、海だった場所だ。生物の母とまで呼ばれた雄大な青は、無惨にも消えていた。


 もっと遠くまで行ってみれば、ひょっとしたら水が見られるかもしれない。しかし、そんなちっぽけな希望を頼りに、これ以上歩むのは無理だった。

 

 確信した。

 地上の全てが死んだのだと。


「ア"ア"ア"ア"ア"アアアアアッ!」


 まるで言葉を忘れたみたいに絶叫した。


 何故生き残ってしまったのか。肉片も塵も残らず消し飛んだ筈だ。それなのに、粒子レベルで復元したというのか。


 理由は単純である。

 魔女の呪縛はあまりにも頑丈だったのだ。


 レティシアが死んだ。クレアが死んだ。エルフィが死んだ。クレイグが死んだ。誰にも、人にも会うことは出来ない。傷を癒すことは出来ない。


 涙は枯れてしまった。

 憤怒を抱くのは疲れてしまった。

 憎悪を押し付ける相手もいない。

 

 未来を考えると寒気がした。

 俺の将来に待つのは、虚無の永遠だ。この星が塵になったとき、俺はやっと終われる。いや、それでも死ねないか。


 クツクツと笑う。

 あの女まさか、ここまで考えて死んでいったのだろうか。


 気付けば声を出して笑っていた。

 ならば目論み通り、俺は苦渋に苛まれている。

 魔女が不老不死の秘宝を、宝玉から適量生命力を引き出すという仕組みにしていたのは、死に際の事も考えていたからか。不老不死も案外悪くないと考えつつあった己が滑稽で仕方ない。


――死にたい


 切実にそう思った。

 絶対的とも言える死に身を委ねたい。

 何もなくなった世界に一人残されるなど、苦痛以外の何でもない。


 ゆるゆると立ち上がると、バイクを走らせた。

 色のない荒野を、只ひたすら走る。

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