第21話「歩道橋のルール」

季節は冬というべきか。

12月になった。


昨日の彼女の言葉が、頭をよぎる。

「嫌だったでしょう?」とは

何のことだったのか。


聞けなかった。

聞けそうになかった。


彼女があまりにも、悲しい顔をしたから。


冬の雨が降る。

傘から手を出してみる。

冷たい。


触れないでおこう。


今日も雨の歩道橋に、

何事もなかったようにのぼる。


「こんにちは。雨が冷たいですね。」

どういう挨拶だよコレ。


ちょっと自分にツッコミを入れたくなったが、

彼女がほほ笑んで

「そうね。でも私、冬の雨も好き。」と返してくれた。


なんだ、黒髪の彼女と私、

ちゃんとこういうふうに話せるじゃんか。


他人から見たら、普通に友達みたいだ。

だけど、きっと不思議がるだろう。


私と黒髪の彼女の「雨の日」も、

私と春樹の「晴れの日」も、

お互いに歩道橋の両側の階段をのぼったすぐ、

隅と隅にいて、

それ以上は近づかない。


それは、昔からの、春樹と私の

独特な歩道橋のルールだった。


そう。

まるで、野球のピッチャーとキャッチャーみたい。


歩道橋の上で距離を保ちながら、

言葉のキャッチボールを交わしている。


このルールを、黒髪の彼女も、

なぜか守っていた。


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