第15話「おはよう」

今日はどんよりとした曇りだった。


春樹とは、晴れた日にしか会えない。


それでも、春樹に再会したあの日から、

私は毎朝、歩道橋にのぼっている。


会う、といっても、大したことはない。


昔、母とこの歩道橋から景色を見ていた時、

いつも少し遅れて春樹は来る。


歩道橋の真ん中に、私と母がいて、

階段をのぼってすぐのところに春樹がいて、

それ以上近い距離で話したことはなかった。


だから、この間ローファーを直してもらったときは

初めて春樹と、近距離で話した。


ドキドキしないわけがない。


決まっていつも

母と私から「おはよう」で会話が始まっていた。


そして、春樹もそれに「おはよう」と返す。

昔からずっと変わらない、あの笑顔で。


その後に、一言二言、世間話をするだけで、

三人は基本的に、歩道橋からの景色を無言で眺める。


それも、ほんの数分の短い時間。


そういう朝の数分間が、

私にとっては宝物だったように思う。

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