第12話「また、この歩道橋で」

振り返った私に気づいて、

春樹がか弱い声で、ポツリと一言。

「ア、アユミ...」


春樹が、私の名前を呼んでくれた。


「ごめんって、謝ることなんて何もな...」

嬉しさの滲む自分の言葉の途中で、ハッとした。


私が最後まで言葉を言い切る前に、

春樹が悲しそうに

うなだれてしまったことに気づいたからだ。


しばらくの間、

歩道橋の上は、冷たい北風の音だけがした。


そして春樹が、思い出したように急に口を開く。


「アユミ、もしかして、

 あの日から毎日ここに、来てたのか?」


「...そうだよ。」

私は照れながら答えた。


顔が熱い。

きっと恥ずかしさから、自分の顔が赤くなっているに違いない。


春樹の次の言葉を待たずに、私は言葉を続けた。

「この間は、ありがとう。ローファー、なおしてくれて。」


「あぁ...うん。そのローファー、大切なんだろ?」

昔から変わらない、春樹の無邪気な笑顔が戻った。


「うん。」

私もとびっきりの笑顔で、春樹に返事をした。


そして、次に再会した時に、必ず言おうと思っていたこと。

ずっとこの歩道橋の上で、一人で練習していた一言。


これだけは、今、言わねば。


「あのさ、春樹...」

「んっ?」

「また、この歩道橋で会わない?」

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