第11話「待って」

黒髪の彼女が帰った後、私はしばらくそこを動けずにいた。


そして、いつの間にか、傘に当たる雨音も小さくなり、

小雨になっていたことに気づく。


あたりがだんだんと暗くなってきたし、

今日も、もう春樹には会えないだろう。

そろそろ帰ろうかな。


私は、しょんぼりとして、歩道橋の階段を降り始めた時だった。

「待って。こないだは、ごめん!」


私の背中に向かって、声がした。


顔を見なくても分かった。

それは紛れもなく、春樹の声だった。


私が待ち焦がれていた、彼が来てくれたのだ。

私は、高ぶる喜びを抑えられずに、

振り返りながらこう言ってしまった。


「春樹、また来てくれたんだ!」

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