第10話「普通なら来ない」

「人を、待ってるん…ですか?」


黒髪の彼女は、その声とともに、

いったんはうつむいていた顔を上げた。


ますます不思議そうにこちらを見つめている。


その質問にも、なぜか、うまく言葉が出てこなくて

「そうなんです。」


そこで彼女との会話は終了してしまった。


男の人を待ってるなんて、

初対面の人には恥ずかしくて言えなかった。


ただ、どうしてもこれだけは彼女に聞いてみたかった。


「あの…ここ、絶好の雨宿りスポットだって、

 知ってましたか?」


すると、その言葉を聞いて、彼女が一瞬驚いた顔をしたが、

やがて真顔になって、こう言ったのだ。


「へぇ。こんなところに雨宿りになんて、普通なら来ないですよ。」

「そ、そうですよね。変なこと聞いてすみません…」


気まずい空気が流れて、

彼女はむしろこちら以上に気を遣ったのか、

「なんか、ごめんなさい。」と、少し苦笑いすると、

歩道橋の階段をかけ降りていった。

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