第9話「待っている」


黒髪の、肩甲骨まであるくらいだろうか。

彼女の髪のサラサラとした美しい髪が、声と共に揺れていた。


彼女のおびえるような顔を見たら、

声も視線も、敵意を感じるものではなかったことに気づく。


というより、何か怖いものに声をかけるかのような、

彼女の声は、か細く震えていた。


それに対して、

「え…」

私は、この一言を発するのが精一杯だった。


でも、おそらく雨音に消されて、

私の声は彼女に届いていないようだった。


彼女の顔を見て、言葉が出なかった。


春樹以外の誰かがここに来るなんて、

まったく予想していなかったのだ。


色白で、気品のある顔立ち。

鼻の上にホクロがあって、顔がとても小さい。


やがて彼女が、傘で顔を隠すように、うつむいたように見えた。


私は、勇気を振り絞って、彼女にこう言った。


「人を、待っているんです。」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る