第7話「接着剤が乾くまで」

春樹が、私のローファーを拾い上げてすぐに、

「あっ…」と小さく声をあげたようだった。


でも、それは私に聞こえるか聞こえないかくらいの

小さな声だったように思う。


つま先が少しめくれてはがれたローファーを

丁寧にくっつけている春樹が、

恐る恐る声をかけてきた。

「なぁ、接着剤が乾くまで、ちょっと話さない?」


「いいよ。」

私はOKした。


春樹「このローファー、作ったときのこと、覚えてる?」

私「そんなわけないでしょ。

  というか、今朝言われるまで小学校の卒業記念だってこと自体、

  すっかり忘れていたしね。」


そうだ、忘れていた。


春樹「でも、大切に履いているんだよね。」

私 「まあね。」


「ふーん、そっか。」

春樹がそう言ったきり、会話は途切れてしまった。


「よし、そろそろ大丈夫じゃね?履いてみ?」

そう春樹が言うと、

今度は、ポイっとではなく、

私の足元に丁寧にローファーを置いてくれた。


ばっちりくっついている。


「ありがとう。」


私がそうお礼を言うと、

春樹は照れ臭そうに笑って、

「じゃな。」と手を振って、

歩道橋からかけ降りていった。

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