第5話「接着剤」

春樹に言われて、ローファーのつま先に目が行った。


「ゲッ」

思わず声が出てしまった。


つま先が少しめくれている。


そうか、さっき歩道橋をのぼりきった時に、

少しつまづいた、あの時だ。


あの時に、ベリっといってしまったのだろう。


「ちょっと待ってろよ?」

春樹はそう言って、自分の通学カバンの中をガサガサとあさる。


「あー、ないわ。

 昨日接着剤を授業で使ったんだけど、置いてきちゃった。」


春樹が、申し訳なさそうな顔をした。


「あー、もういいよ、自分でやるから。」


私が半ば投げやりに言いながら、ふと空を見上げると、

いつの間にか、もう雨もあがっていた。


「学校間に合わないからもう行くね。」


そう言い残して、足早に立ち去ろうとしたら、

慌てて春樹がこう言った。


「なぁ、今日の放課後、またこの歩道橋来いよ。

 接着剤でつけてやるから。」


「あぁうん、わかったわかった。」


私は面倒くさそうに手を振り、足早にその場を走り去った。

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