第7話 アンドレアの解説と共に
「それもいいですネ!僕達でしたら機材の扱いもお手の物だシ、“何かあっても”対応できますしね!」
フィリパの提案に対し、アンドレアが同調した。
末若さんはきっと、フィリパさんと仕事するのは嫌かもしれませんが…。そうも言っていられないかもしれませんね…
わたしは、不服そうな
「わかりました。では、アンドレアさんは末若さんの補助を。フィリパさんには、わたしの補助をお願いしてもいいですか?」
「オッケーよ!」
わたしがそう告げると、彼らは快諾してくれるのであった。
「そっか。彼、今日お休みなんですね!」
その後、櫻間さんが納得したような素振りを見せる。
あれから数時間が経過し、櫻間さんが出勤した頃に、わたしが彼女に事情を説明した。
「そのため、櫻間さん。今日のライブビューイング中は、貴女に受付業務をお願いしたい」
「わかりました!あと、若干気になっていたんですけど…」
「はい…?」
櫻間さんが少し気まずそうな表情をしながら、わたしの耳元に寄ってこう告げる。
「末若さんの様子がおかしい気がするんですけど、大丈夫ですかね?」
「…あぁ。そこはお気になさらず」
彼女の
すると、今度はフィリパさんに肩を指でつつかれる。
「優喜。せっかくだし、彼女に私達を紹介してほしいんだけど?」
「あぁ…!すみません、うっかりしていました!」
わたしは、フィリパに促されて、紹介するのを忘れていたのである。
そして、末若さんと話していたアンドレアさんを呼び出して、櫻間さんに紹介する。
「櫻間さん。こちらは、イギリスの“タルタロス”従業員のフィリパ・ヘザー・カルティさんと、アンドレア・K・スローンさんです。今宵は、彼らにわたしや末若さんの補助をしてもらうことになりました」
「櫻間 風花です」
わたしが二人の紹介をすると、櫻間さんも堂々と自身の名を名乗りだす。
「よろしくね、風花。あ、私の事は、フィリパで大丈夫よ!」
「宜しくお願いします、風花さン。僕も、アンドレアで大丈夫デス」
彼らは、握手をしながらそう告げた。
「さて、自己紹介が終わったところで…。
わたしはそう述べた後、手を二回ほど叩く。
それを機に、わたし達はそれぞれの持ち場へとつくのであった。
「あれ!今日は外国人のスタッフがいる…!」
わたしとフィリパさんがAスタジオに入ると、一人の青年の声が聞こえる。
第一声を発した人物は、今日の
「はい、本日はわたしの補助として参加していますので、気にせず演奏をしてくださいね」
「了解しました!」
わたしがフィリパさんの事を説明すると、相手はすぐに了承してくれた。
今回ライブビューイングで演奏を披露してくれる彼らは、大学生によるアマチュアバンド。ボーカルの鳥羽様をはじめ、結構気さくで話しやすいタイプの人間である。また、彼らが通う大学は留学生も多いらしく、このバンドのギターとドラム担当をしているのも、白人なのだ。
「お姉さん、お綺麗ですね!どちらの方なんですか?」
「あら!嬉しい事言ってくれるのね♪私は一応、イギリス国籍よ」
すると、ギターを担当しているオム・デー・サクセナ様が、フィリパさんに話しかけていた。
フィリパさん…一応、アンドレアさんというパートナーがいるのにね…
わたしは、ちやほやされている彼女に呆れつつも、機材の準備を進めていた。一方、他の面子も彼らの会話を聴きながら、それぞれ準備を進めていたのである。
「さて、次は
わたしは、独り言を呟きながら、手を動かす。
最も、今は
「末若さん!カメラを起動しましたが、映像は映っていますか?」
わたしは、
『えぇ。ちゃんと映っているわよ!』
すると、末若さんの声が、はっきりと返って来た。
因みに、今現在――――――――――――ライブビューイングが開始される19時より前の時間は、
わたしの作業には、フィリパさんが。末若さんの作業にはアンドレアさんが補助として隣にいる中、今宵のライブビューイングが幕を開ける。
※
「へぇ…。ヤードバーズに、ザ・フーか。懐かしイですね」
そしてライブビューイングが始まり、2曲目に突入したあたりで、アンドレアが不意に呟く。
「それってもしや、一度ロンドンのスタジオにも来た事があるって事かしら?」
アンドレアの呟きに対し、私は彼に問いかける。
「そうですね…。ヤードバーズは流石に来てないですが、ザ・フーだったら一度だけありますよ」
彼は、機材を操作しながら、私からの問いに答える。
「前者は、あのエリック・クラプトンが在籍していたバンドって
「彼らは1965年初頭にデビューしたバンドで、その攻撃的な姿勢とパフォーマンスが、70年代後期のパンク・ニューウェイヴ世代に熱く支持されるくらい人気のバンドでしたよ」
「へぇ…」
「そこでギターをやっていたピート・タウンゼンドは…演奏もだけど、彼は凄い。何せ、“ロック・オペラ”と呼ばれる表現形態を確立させたギタリストですカラネ!」
「成程…」
アンドレアが熱く語るのに対し、私は淡々と同調していた。
フィリパと仕事せずに済んだのはいいけど…。アンドレアはアンドレアで、ロック好きだからなぁ…。
私は、手を動かしながら少し疲れた表情を浮かべていた。
「それにしても…今日の
私は、スクリーンに映し出される青年を横目でみながら、不意に呟く。
「それもあるかもしれませんが…。おそらく、メンバー二人がイギリス出身とかかもしれませんネ?」
「そっか、ギターとドラム…!」
私の問いかけに対してアンドレアが答えてくれたが、彼の返答によって洋楽が多い理由を悟る。
「あとは、もしかしたら…あのボーカルの青年。留学経験があるかもしれませんね!」
「…解るの?」
一方で、仮説ではあるが、アンドレアの指摘に対して私は感心を覚えていた。
彼は首を縦に頷いた後、話を続ける。
「発音が、
「へぇー…。あんたも、よく聴いているのね?それと、
「まぁ、個人情報なので、本人には確認できませんが…。想像するくらいは、自由ですよね?」
そんなアンドレアの返答に対し、私はクスッと笑う。
『では、次にお送りする曲は…日本だと、“ウィ・ウィル・ロック・ユー”や、“ボーン・トゥ・ラヴ・ユー”で有名なQueenの曲を一つ…』
気が付くと、ボーカルの鳥羽 義輝が次の曲のMCに入っていた。
洋楽だとどうしても曲を知っている人と知らない人の差が激しいが、Queenの名前が出ると反応を示す
『俺達のバンドはご存知の通り、日本人とイギリス人のメンバーで構成されたバンドっす。そんな俺達の中でもギターのオムは、Queenのギタリストであるブライアン・メイの大ファンで、彼の演奏をリスペクトしているみたいっすね』
そんな彼のMCを、私やアンドレアは操作をしながら聴いていた。
『流石にブライアンのように、ピックの代わりにコインを用いての演奏はやらないですが…そんなQueenが歌っていた初期頃の曲を聴いてください。また、これを今は亡きフレディ・マーキュリーに捧げます』
そうMCが締めくくられた後、前奏もなしに曲が鳴り始める。
「ビックリした…。前奏がない
あまりに突然の出来事だったため、私は心臓の鼓動が少し早くなっているのを感じていた。
「あはは…。末若サンはあまりロックを聴かないでしょうから、イントロなしの曲は聴き慣れないのでしょうかね」
私の隣では、アンドレアが苦笑いを浮かべながら彼らの曲を聴いていた。
出だしが突然で驚いたのもあるけど…これだけアップテンポの曲であれば、私でなくても驚くような…?
わたしは、アンドレアの方を見ながらそんな事を考えていた。
「そういえば、末若サン。この曲…“シアー・ハート・アタック”っていうんですが、曲が完成してすぐに発売されなかったという話を知っていますか?」
「いや、知らないけど…それって、どういう事??」
引き続き作業をしていると、アンドレアが再び話しかけてくる。
私は、彼が口にした
「“シアー・ハート・アタック”自体は1974年に発表されたらしいんデスガ…詳しくは僕もわからないですが、当時発売されたレコードにて、この曲は収録されなかったみたいなんですよ」
「収録されなかったとすると…その場合、他のアルバムとかに収録されていたという事?」
「エクセレント!!はい、おっしゃる通りデス」
私が当てずっぽうで口にすると、アンドレアは嬉しそうな笑みを浮かべていた。
「実際は1977年にリリースされた6thアルバム“世界に捧ぐ”にて、“シアー・ハート・アタック”は収録されていたようでス。確かムラートの話だと…本国イギリスより、アメリカで最も売れたアルバムだったそうですね!」
「ふーん…」
私は、横目でアンドレアを見ながら話に同調していた。
ロックバンドにも、色々な
私は、そんな事を考えながら、自分の作業も同時進行で行っていく。
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