護衛

 ガタガタと、トラックに揺られるダンザとラルフェ。2人とも妙に不満げな表情を浮かべているのは、決して気の所為では無いだろう。


「……ハメられた」


 視線を下ろした先には、以前工房の主人から話のあった機体……即ち第2世代型ポーターの"ヴァルツヘイム2.5世代改修機"が横たわっていた。この機体は第2世代型であるヴァルツヘイムと呼ばれるポーターを、第3世代型に改修したモデルである。とはいえ、本物の第3世代型には2段程劣るのだが、扱い次第では3世代型と渡り合えるとされている。そういう意味では良い機体ではあるだろう。

 ヴァルツヘイムの外見は、丸みを帯びた可愛らしい外見の重装甲を纏っている。ずんぐりむっくりの短足であるが、第三世代型ポーターの特徴である推進剤を利用した高速移動は可能であり、推進剤が無くとも第二世代型の通常高速移動も、やや速度が劣るものの健在だ。

 第二世代型の中でも特にタフネスと射撃戦に優れ、第二世代型の3VFと言っても良いだろう。だが、3VFと比べて重厚な装甲を纏っている為に、全体的な機体重量が重めであり、移動速度において劣るフシがある。

 

 とはいえ、ダンザとしては機体に文句は無いし、機体のデザインが可愛らしく個人的にも気に入っている。では、何が不満であるのか?その答えは後方に広がる光景にあった。


「トラックの護衛とは確かに聞いていたけど、明らかに……数が多い」


 最初は車両一両だけの護衛であった筈なのだが、その後二両三両と合流し、護衛の数も増えて合計一五両からなるキャラバンになった。ちなみに、初期の依頼であったダンゴムシ(ジャイアントクローラー)の討伐は、他のポーターが連携してなんやかんやで終わらせてしまったので、ダンザは手持ち無沙汰である。


 輸送車両の運転手はハゲ頭が雇ったようであり、一応は良好な関係を築けて居ると言って良いだろう。

 とはいえ、彼も依頼内容とまったく異なる行動を取っている事に関しては困惑しているようだが。


「これさ」


「うん」


「絶対あの虫以外の厄介事の為に此処に居ると思うんだが」


「……うん」


 横をチラリと見やると、並んでいる車両の中で物凄く浮いた車両があるのだ。明らかに権力者のそれなのだろうが、自らがその車両の隣に配属されている事もあり露骨が過ぎる。


「この件であの坊主頭の人に連絡入れた?」


「答えられないと返答いただきました!」


「この依頼が終わったら関係終わるかもしれないって脅した?」


「こっちも被害者だと返答いただきました!」


「なるほどね……来るとしたらそろそろだろうし、ポーターで待機しようか」


「了解」


 そう言いながら、一応の納得を見せてポーターに乗り込むダンザ。機体が立ち上がると同時に、機体に通信が入った。


『こちらHQ、何か発見したか?』


「詳細な情報を受け取っていない為、念の為に供えているだけだが?」


『……何か発見したら報告を行うように』


「了解」


 ダンザは通信を切ると、そのまま機体を立ち上げてトラックから下ろして120mm狙撃ライフルを構える。


「FCSカット、狙撃するぞ」


『えっ?何処を?』


「そこらへん適当に、APFSDSだと炙り出しに向かないか。マガジン変更、焼夷榴弾装填。……っと、運転手に通達、少し揺れるぞ」


 そう言うと、大雑把な位置に焼夷榴弾を叩き込むダンザ。発砲音に驚いた動きを見せる周囲のポーター達は、何が起きたのか理解できずに周囲をキョロキョロと見回し通信が飛び交った。


『そう言えばダンザ、ここの所元気だね?口数も増えたし』


「最近良く寝てるからな、前は喋るのも億劫なぐらい眠かった」


 ゴウと巻き上がる炎の裏で、何かが動いたのを目ざとく捕らえたダンザ。再びマガジンを取外し、APFSDSのマガジンをライフルに装填。狙撃を行う。


「やっぱり居たか、まずは1機」


『どうしてわかったの?』


「直感」


 ガオン!と空に轟く発砲音と共に、炎によってその偽装が剥がれ立ち上がったポーターに風穴が開く。

 炎が作った上昇気流と熱の着弾誤差を頭の中で修正していると、通信に連絡が入った。


『何があった!』


「敵だ、ステルス系塗装か同効果のある布で潜んでいたと思われる」


『どうして撃つ前に此方に報告しない!?』


「ただの勘で大体の位置に発砲すると言って、そちらは許可を下すか?」


『それは……』


「とにかく、敵発見。今小突いたので動き出す筈だ……数が少なければ此方で落とす、周囲のポーターは上手く肉壁に徹するように言ってくれ」


『待て、勝手な行動は……!』


「いいや、勝手にする。お前達の指揮下に入った覚えも無ければ、この隣の馬鹿目立つトレーラーを守る依頼を受けている訳でも無い。大体、此方は虫と戦う想定での調整だ。ポーターとの戦闘はそもそも契約外で、それに関する支払いもまだ詳細が纏まっていない。依頼に関してはあの黒いスキンヘッドの男……」


「クロムさんね」


「クロム氏との契約が満了するまで他の依頼を受ける必要は無い、何かさせたいならクロム氏を通せ」


『クソッ、把握した。だがせめて直感でもなんでもいいから撃つ場所と報告ぐらいしてくれ』


「了解、エリアG13に2機確認交戦開始……撃破完了」


 その言葉と共に、銃を横薙ぎに振るいながら2発の弾丸を放つダンザ。その弾丸は的確に敵機のコックピットを抉った。


「……ん?」


「どうしたの?」


「無人機みたいだな、さっきから生物を撃った感触がしない」


「感触って……」


「陽動、となれば本命――――ッ!?マジか!?」


 奇襲に気づき、ダンザがポーターに回避行動を取らせバックブーストでトレーラーから跳躍するも、敵の放った弾丸の一撃が狙撃ライフルに直撃し、破損させてしまうダンザ。


「クソッ!?しくじった!」


 砂の中に潜んでいた敵機の不意打ちで、ライフルが破損した為に投棄しながら舌打ちするダンザ。相手はダンザを無視して中央のトレーラーに突っ込む動きを見せた為、やはりあのトラックがなにやら厄介事であるとダンザは心の中で確信を強めた。


「地中から!?落ち着いてダンザ!」


「このライフル気に入ってたのに!」


「そっち!?」


こっち奇襲は問題無い!」


 そう言って、シールドを投擲して地面に突き刺すと、240mm迫撃弾頭を2発立て続けに発射。一撃目を奇襲してきた敵機に当てて、バランスを崩した所に吸い込まれるように二撃目がコックピットに突き刺さり、見事機能停止に追い込んだ。

 事前に突き刺したシールドにより、自分の護衛対象であるトラックは爆風から守られたが、それ以外は爆風で煽られてガラスが割れる等の被害が出たようだ。とはいえ、そこはダンザの管轄外である。


「クソ、さっきのライフルじゃないとポーター相手じゃ一撃での破壊は厳しいかも、少し困ったな。ラルフェ、無事だとは思うけどそっちは?」


『大丈夫、盾の位置完璧だったからびっくりしたぐらい』


『……ロボットってビックリするのか?』


『いや、普通にするからね!?』


「その事実に俺がビックリしている」


 そんなボケたような、真面目なような受け答えをしていると


『此方HQ!状況を説明しろ!護衛対象車両にも被害が出ている!』


護衛対象車両だろう?さっき撃った遠方のヤツは無人機だったらしく、待ち伏せがバレたと思って地面の下から敵機が奇襲を仕掛けてきたようだ。多分無人機を正面からけしかけて、前方にポーターを集めた所を後方から挟み撃ちの形で豪華なトラックを奇襲しようとしたんじゃないか?だとしても、数がこのキャラバンを襲うには明らかに足りてないし、ましてや第2世代型で突っ込んで来たのは自殺行為に近い」


 冷静に一息ついて、相手が喋りだす前に改めてダンザが口を開く。


「情報が足りないから憶測でしか物を言えないが、相手の動きを見るにかなり決死で仕掛けて来た。成功率はともかく生存率は限りなく低い筈だ。その上で仕掛けてくるとなると、何らかの政治的な意図があるんだろうが……繰り返すが情報が来ていない為、此方は自己判断で自身と乗るトラックを守る事で手一杯だ。さらに繰り返すが、対ポーター用の装備など無い為に先程の迫撃弾頭で仕留めきれていなかった場合、後方のトラックにより甚大な被害が出ていた可能性は非常に高い。以上を踏まえた上で何か文句があるなら、此方はクロム氏の依頼を離脱させてもらう。少なくとも対ポーター装備もなしに4機撃破したんだ。報酬以上とは言わないが、平均的な働きはした筈だ」


『ええい!正当性の通った主張を……此方も上から口止めされていて情報を流せない!だが、そちらの判断と働きが正しいのも理解している……ああもう!クソ!少し待て、ダメ元で上に掛け合う!』


 そう言うと、相手から一方的に通信が切断された。どうやらHQ側も板挟みという事なのだろう。


「あっ、切れた。装備の補給を頼みたかったんだけど……」


「クロムさんに連絡しとくね」


「最低限対ポーター装備は持ってると信じたい所だな」


 そう言うと、キャラバン全体が緩やかに速度を落として停止し始める。どうやら、先の爆発で車両の窓ガラスが割れて怪我をした人が数人出たらしく、ドライバーの交代と他所のポーター同士の連携の見直しがあるらしい。


 複数のポーターが先程撃破した敵機の状態を確認しているが、コックピットに直撃を取った為に他のパーツは問題なさそうなので、後で換金しようと思うダンザであった。


「……しかし、情報が回ってこない」


 タッチモニターを指で叩きながら、状況を見るダンザ。しかし、此方に情報は相変わらず流れて来ないようで周囲だけがせわしなく動いていた。

 しばらく待つと、後方からポーター補給用のトラックが回って来たようで、通信が入る。


『2番補給連隊のジョンだ。依頼を受けて装備の補填に来たぞ』


「おっと助かる。あーっと、そちらに聞いても仕方ないとは思うんだが、今回の依頼の詳細を俺は聞かされて居ない。そっちは何か知ってたりするか?」


 そう言うとジョンも困ったような声色で少し考えた後、言葉を選びながらと言った様子で口を開いた。


『俺達も実はロクな情報を知らされてないんだ。確定情報じゃないんだが、とあるやんごとなき身分の人がアンタの隣の輸送車に乗っているとかなんとかで、その護衛ついでにクローラーを潰して安全な航路を作りたい……みたいな噂も流れてたりする』


「他所の連中から此方に連絡が来ないんだが、ハブられてたりするのか?」


『ああ、それなら分かる。他所のヤツ等は寄せ集めの独立傭兵で、腕はアンタ程じゃないがバーに居た連中の中でもかなり上澄みだ。んでまぁ、そういう奴等は結構情報通な奴が多い。俺も伝え聞いた話だから気を悪くしないで欲しいんだが……アンタ、バーでポーター乗りを半殺しにしたり、銃で同業者を撃ち殺そうとしたんだろ?ヤバイって噂が伝わってるせいで、あんまり絡みたく無いんだと思うぜ』


「…………両方ともウチのサイフ係がやった事だな」


『ダンザさん!?』


「事実しか言ってないんだけどなぁ」


『あー、まぁ、実情はどうあれ腕が立つ上に気性が荒いみたいな扱いを受けると、大体こうなりがちだな。よし、"AGATA"は使えるか?』


「ああ、数日前に20mmを使ったが悪くはなかった。精密射撃には向かないけど」


『ま、ポピュラーなポーター装備だからな。貫通力高めの"AGATA-30"を渡しておく。弾頭は30mm口径の通常徹甲弾、射撃調整はFCSとリンクさせれば出来る筈だ』


「………そうか」


 FCSという言葉にわずかに眉をしかめるダンザ。現在の物は以前より格段に良くはなっているものの、やはり性能は自らの欲する所に大きく劣る為にピンポイントでの使用にとどめているのだ。


「対ポーター用の狙撃ライフルがあると嬉しいんだが、流石に無いか?」


『残念ながら基本的装備だけだな、マガジンは5個程で良いか?』


「それだけあれば十分だ」


 トラックから銃とマガジンがせり上がり、ダンザはそれらを引き抜くと改めて装備の確認を行った。


「AGATAオートライフルか、俺みたいに精密性を求めるタイプだとあまり好まなさそうだ」


 弾薬は30mm徹甲弾。ポーター同士の打ち合いにおいてはポピュラーな口径と言って良いだろう。相当硬いポーターでなければ、ある程度有効打を与える事が可能だ。


 第3世代型と第2世代を分ける一つの指標に、大口径武装及び積載量が挙げられる。より大口径にした武装を積載しつつ獲得した機動力こそが、第3世代型の強みだ。

 "ヴァルツヘイム2.5世代改修機"が第3世代型と比べ明確に劣っているのは、自由自在な機動力である。自由自在というのは三次元的な機動力であり、空への飛翔や飛翔中にも左右上下への方向転換及び瞬間的な加速が可能である事を示す。


 平地でブースターを吹かせるだけなら速度及び装甲的に、VH2.5世代改修機はギリギリ第3世代型の内部に含めても良いだろう。だが、其処に飛翔が加わると第3世代型と呼ぶ事は出来ない。

 火力面に関してはある程度大型装備でカバー出来る為に、おそらくそちらの面では第三世代型に匹敵する。


 だが、それでも2.5世代型。3世代であればVH2.5の装甲を保ったままにその2倍の機動性を有するだろう事から察するに、超えられない壁がやはりあるのだ。。

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