開封式1

 あの後、結局ベテラン3名の説得を受けて渋々と言った様子でガレアもようやく納得したらしく、最終的にはリリィをしっかり守れだの無茶はするなだのと小言を言いたいだけ言って何処かに歩いていった。


「ガレア……多分、訓練に行ったんですよね?」


「リリィ、分かってても言わない優しさもある」


 自らの姿をガレアと重ねて少し憐れむダンザ。そんな事を話しながら街の中を歩く2人だったが、街は回収されたコンテナの開封で軽くお祭り騒ぎになっており、普段よりも活気がある。


「今回は機械類が多いみたいだな…」


 遠くに見えるコンテナを眺めてそう呟いたダンザ。ドロップコンテナは箱の色によって概ねの中身が外部から分かるようになっており、例えば黒ならば機械類。緑ならば生物(家畜)類。赤ならば兵器類といった風に分かれている。


 ちなみに一番当たり外れが大きいのが緑のコンテナであり、今地球に存在するミュータントの8~9割程が緑コンテナの生物が野生化した物と推察されている。と、いうのも、緑のコンテナはとりあえず食べれる生物を押し込まれており、その危険性は度外視されているのだ。しっかりとした準備が足りず緑のコンテナを開けると、食べるつもりが逆に食べられた……などと言う事が砂漠以外では時々あるらしい。


 もっとも、開封時にポーターがあれば流石に大きな問題も無いのだが、素人やアバドン以下の野党が偶然拾ったコンテナを興味本位で開けてしまい大惨事となった事例も多々ある。


 さらに言うと、本来詰め込まれたであろう時は安全な生物であっても宇宙を漂っている内に危険生物に突然変異してしまったと言う事案もある。中身に関しては結構適当な扱いなのだろう。


「ポーター関連の物が入っていると良いですね?」


「第6世代型金剛のSフローラコラボモデル設計図はかなり欲しい」


「そんなのあるんですか!?」


「いや、適当言った。」


「もー!」


 頬っぺたを膨らませながらプンプンと怒るリリィを見ながら、その純粋さが少し心配になるダンザ。


「あんまり人の言う事を真に受けてると疲れないか?」


「むー、ダンザ嘘はつきませんし」


「冗談は言うけど」


「冗談と言うかノリで喋ってるだけと言うか…」


「直感型とは良く言われる」


 実際には違うのだが別段否定もしないので世間ではそう言う認識なのだろう。だが、実際の所、ダンザは物事をとにかく色々考え込むクセがある。もっとも、最終的な結論以外口に出さないので割と直感型であると勘違いされがちなのだ。


 もっとも、リリィ相手には割と適当な事を言って反応を楽しむ節もある為、あながち天然というのは間違ってはいないかもしれない。コロコロと表情を変える彼女を見ていると、不思議と幸せな気分になると言う本音はきっと絶対に口にはしないのだろう。


「ようお二人さん!」


 そんな仲睦まじい2人に不意に声が掛かる。声の主は小さな影。


「ウェヌス、サボり?」


 ウェヌスと呼ばれた小柄な少年はポーターの整備員である。煤汚れた手と顔に人懐っこい笑顔が似合う少年であり、13歳と若いながらもアロウンの専属整備主任に任命される程である。


「ちげーよ、ダンザ用にアロウンさんの機体を組み直すから要望聞きに来たんだよ」


 そう言うと紙一枚程の薄さしか無い電子端末をポケットから取り出し、機体情報を確認するウェヌス。どうやらこの場である程度出来る設定か確認しておくらしい。


「アロウンさんが使ってたスタンダード装備に追加で110mmスナイパーキャノンって乗る?」


「乗るには乗るけど…装弾数が全体的に少なくなっちまうぜ?それにパーツあたりの負荷が上がるから全体寿命が縮んじまうよ」


「メインを40mmキャノンに変えて装備と弾薬の軽量化を図る。マガジンを対ポーター用のHEAT形成炸薬弾頭を3マガジン、残りをAP徹甲弾にすれば打撃力の低下は最低限ですむ筈だ」


 ダンザの要望をメモしながら、真剣な面持ちで重量計算を行って行くウェヌス。計算上では乗るようだが…。


「どうやっても脚部の平均寿命がかなり短くなるなぁ、スナイパーキャノンじゃなくて65mmのスナイパーライフルじゃダメなのか?それなら脚部負荷も少ないし弾薬も不足なく積めそうな感じなんだけどよ…」


「現状で許せる範囲の最大口径は?」


「75…なんだが、まぁ理論値的には80の大口径スナイパーがギリいける筈だ、希望メーカーは?」


 少し考え込むダンザ、5秒程の間を開けて考えがまとまったのか、その問いかけに答えた。


「……鳴神社の櫓崩しを狙撃仕様にカスタムしてくれ」


「脈絡なくレールガンに要望飛ぶなよ!?つーかなんであるの知ってんだよ!?」


 レールガンは非常に強力な武器であり、スナイパーキャノンと比べれば全体重量も軽く威力があるのだが、電力チャージが発生する為に発射にタイムラグがあり、直感的に使いづらいという欠点がある。その為ベテラン3人衆は使いたがらなかったので、倉庫で埃を被っていたのだ。


 ちょうど砲台代わりに利用しようかという案もあったのだが、それを知っていたダンザは少し運用してみようと思ったのである。


「前にウェヌスん所の整備士が嘆いてた、アレ使わないのは勿体ないって」


 ボリボリと頭をかきながら再び計算式を見直したウェヌス。彼自身も砲台にするのは勿体無いと思っていたので渡りに船であった、とはいえレールガンのような特殊な兵器を運用するのは初めての事である為に、慎重に機体負荷計算を繰り返す。


「メイン40mmに櫓崩しならある程度安全マージンを取った上で使える、が……レールガンの整備なんてやった事ねぇから唐突に壊れても文句言うなよ」


「そんなヘマをしないのは知ってる。後、重量の安全マージンギリギリまでハンドガンでもなんでもいいから追加装備を入れておいてくれ」


「……ったく、プレッシャーかけんなよなぁ……んで、次はリリィさんのだが」


 ダンザのように少し考える素振りを見せた後、チラリとダンザを見ると小さく頷くリリィ。


「ダンザが決めてください」


「オイオイオイ、自分の意見はどうしたんだよ…」


「エヘヘ、天才ですから?なんでも動かせますとも!」


 エッヘンと無い胸を張るリリィ。実際の所、リリィはどのような機体であってもカタログスペック通りの性能を発揮する事が出来る。つまりバディであるダンザ側に合わせた僚機を作った方が良いと彼女は考えたのだ。


「ウェヌス、アバドン機のカタログスペックを見せてくれ」


「ホント仲いいのな……ほらよ」


 電子端末を受け取るとカチカチとすばやく機体の組み換えを行っていくダンザ、どうやら既に頭の中に草案があったらしく、その手に迷いは無い。


「これだな」


「増槽を2つにして推進剤を蒼と紅で分けるのか、通常使用には蒼を使って交戦時や緊急時は紅と、悪く無いんじゃないか?武装に関しては……高価なHEAT形成炸薬弾と軽めの近接武装2本にもともとついてたショットガンと」


 それ意外にもブースターの細やかな変更や、ジェネレーターを瞬発力重視にした物に変更されている所を装備と見比べある事に気づくウェヌス。


「もしかしてポーターとの戦闘意外あんま考慮してねぇカスタムかこれ?」


「そうだ、基本はミュータント等には俺側で対応して、必要に応じてこっちの機体の予備武装でリリィには対応してもら……っぷ……」


 突如強い風で砂が舞い上がり3人がソレに襲われた。リリィはスカートを押さえ、ダンザは口に入った砂を吐き出し、ウェヌスがゴーグルを取り出し装着する。


「どこでもいい!コンテナに入ろう!一嵐来そうだ!」


「いんや、オイラはこのまま仕事に戻る!ダンザがレールガンを使う事上に伝えとかないといけねぇ!」


 そう言うと、焦った様子でウェヌスが宇宙船に向かって走って行く。幸い街はスクラップで覆われているので、視界が遮断されても砂嵐が止めば街から出て遭難していた……なんて事は無いハズだ。


「すまんな!リリィ、こっちだ!」


 徐々に視界が狭まっていく、完全に視界が消える前にと急ぎ足で、街のあちこちに落ちている空コンテナの内一つを見つけると中に避難する2人。どうやら先客は居ないらしい。


「うう、髪に砂が…」


 身体についた砂を叩き落としながら、髪を気にするリリィ。


「リリィ、後で風呂入る?」


「え?ええ…多分」


「そう」


 そっとリリィを引き寄せ、そのままリリィに唇を触れさせるダンザ。僅かに身動ぐリリィだったが、徐々に身体から力を抜いてダンザに身体と唇を委ねる。


「こ……ここでするんですか?」


「駄目?」


「駄目じゃないですけど……その」


「なら、良いって事じゃ?」


「雰囲気とか……んっ……」


 再び唇を重ねる2人、今度は小鳥が啄むように、何度も何度も唇を重ねる。


「雰囲気出た?」


「全然足りません」


 今度は甘えるようにリリィがダンザにキスをする。ゆっくりと甘く長いソレは、互いの思考をじんわり蝕んで行く毒のようにも感じられた。


「……雰囲気出たかもしれないです」


「……まだ足りないかも」


 今度はダンザから唇を触れさせる、焦らすような、それでいて互いに求め合う矛盾したキス。


 繰り返す事の十か、あるいは百か。何度触れ合ったか分からなくなった後、やがてリリィはダンザを押し倒し……そして2人の影は重なり合った。



「砂嵐、止んだな」


「はい」


 砂嵐が止んだにも関わらずコンテナの中に居座り、肩を寄せ合う2人。白く透き通る肌にいくつもの紅い印を残したリリィは、そっとダンザの腕時計に触れてタイマーを2分減らした。


「夜迄に0になっちゃうかと思いました」


「……ごめん」


 そっと、ふたたびキスをするダンザと少し嬉しそうなリリィ。2人の行為の後を砂でそっと隠すと再び活気を取り戻しつつある外に向かうのだった。

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