DEM:ELS

@SAYU_RYOKUTYA

プロローグ

本物と偽物の二つを一緒に並べて、どちらが良いかと問えば、誰しも皆、本物を選ぶだろう。


しかし、どうやって本物と判断するのか、明確に物差しを持っている人間は少ないのではないだろうか。

本人の中で真実なのであれば、それはそれで真実なのだろう。ちょうど、蝋で作られた花の方が、実際のそれよりも、綺麗なように。


富裕層の人間は、自分たちの存在そのものをデータに変換し、新しく築いた“揺り籠“に閉じこもった。

現実の世界を過去の遺物と割り切り、ネットワーク上の仮装都市に塞ぎこむのも、彼らにとっては、真実の世界に入っただけのこと。

現実よりもリアルな空間で、苦しみもなく、問題もなく過ごしていく彼らにしてみれば、やり切れず、解決の糸口すら見つからないような課題しか抱え込んでいない、この現実世界こそが“偽物“なのだ。


目の前に広がる、荒廃した都市の群れ。

錆び、風化し、朽ちた高層建築物。本来の役目を果たせなくなったライフライン。沈黙する都市は既に形骸化している。


頭上高くを覆うように造られたドームによって、太陽も月も、空すら見る事は叶わない。

かつて支配者であった人間の代わりに、現実世界を跋扈するのは、揺り籠を守るインセプターだけ。機械である奴らは、存在してはいけない筈の、現実世界に居住する人間を狩る。


揺り籠に逃げた連中は、怯えているのだ。捨てた世界の人間に、自分たちの楽園を破壊されることを。


それでも、私たちは此処にいる。

確かにここで、生きている。

形骸都市の片隅で、必死に、容赦なく襲ってくる絶望に怯えながら、現実を生きている。



◾️□<」|DEM:ELS |□%◾️





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

DEM:ELS @SAYU_RYOKUTYA

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ