第17話 危機から

「がっ!?」

 セイバは右脇腹に突き刺った槍を掴み、体を後ろに引くことで槍を抜く。


「くっ!……」

 槍を抜く時の強烈な痛みで、思わず体がよろけながらも更に後ろに下がる。散らばった8本の黒い槍がまた空中に浮かび上がり、セイバ目掛けて発射する。


「【バスターク】!」

 センはセイバを抱え込んで、横にダイブして倒れ、黒い槍は地面に突き刺さる。

「【リボーンス】!」


苦痛で顔が歪むセイバに、傷口が黒いオーラで覆われる。そしてすぐさまセイバを抱え上げ、走り出す。

「まずいっ! こんなことになるなんて!……」


計画が甘かったか!? いや、反省は後だ、今は一刻もこいつから逃げないと……


 走り抜けるセンの前に【エニウェイドア】が現れ、その中からライアンが出てくる。

「あぁくそっ! そういやそうだった!」


 黒い槍の8本の内、5本が発射される。センそれを後ろに飛んで回避する。しかし、その飛んでいる間に今度は残りの3本が発射される。


「【ダークウェア】!」

 センの全身が薄く、黒い膜に覆われる。そして黒い槍をギリギリまで引きつけ、セイバを後ろに放り投げて、身をよじる。1本は避けれたものの、2本は右肩と左の太ももにかすめるよう当たる。


「あれ? 意外と君戦え、いや、動けるんだね、見くびってたよ」

 8本の黒い槍はまた空中に浮かび、一斉に飛んでくる。


「【閃斬】!」

光の三日月状の斬撃が後ろから放たれ、黒い槍を薙ぎ払った。

「すまない! 助かった!」

 セイバは剣を構え、センの横に立つ。

「いいえこちらこそ!【リボーンス】」


 立ち上がった後、負傷した右肩と左太ももを治す。咄嗟に【ダークウェア】を発動したおかげで、軽傷で済んだようだ。


「……これはちょっと予想外かな〜」

少し残念そうに言うライアン。辺りに散らばった黒い槍を自身の近くに引き寄せる。


なんとか危機は脱した……ただ2人で勝てるのか? それに、あの黒い槍が厄介すぎる。怒り狂っていたとはいえ、あのセイバに軽々とダメージを与えた。くそっ! ここにエマさえ来てくれれば!


「ふぅ、すっかり態勢を整えられちゃったね〜。そういえばメガネの連れ子ちゃんはいないの?」

「こっちが聞きたいんだが?」


「僕は何もしていない。ただ、僕の姿をした部下が相手をしてるかもね〜」


【ダークウェア】による変身か! まずいな、偽者だと知らずに監視を続けてるとしたら、こっちに来てくれる望みは薄い。2人でなんとかするしかない。何か策を考えないといけないが、あいつがそんな悠長に待ってはくれない。


「セイバ、俺に作戦がある」

「……聞こう」

流石のセイバもあの槍を警戒してか、不用意には近づいていない。

「まず俺は右、セイバは左から全力で斬り込む」


「うむ」

「そしたら……をやって……る。だから……をしてくれ」

「な、何!?」

「よし! それじゃあアイツをぶっ飛ばすぞ!!」

「あ、あぁ!」


 センとセイバは作戦通り右と左に分かれ、攻め込む。ライアンは黒い槍をそれぞれの方に4本ずつ発射する。セイバは剣で捌き、センは横に避ける。そしてライアンはセンに向かう。


 まぁ弱い奴を狙うのは定石だよな……でも問題ない。


「【閃斬】!」

 ライアンの後ろから斬撃が放たれるが、振り返って盾で防がれる。そしてセンはライアンに向け、2つ【黒弾】を撃つ。だが、直前で下方向に逸れて地面に当たり、土煙が舞う。ライアン騎士団長の視界が奪われる。


「今だ! 畳み掛けるぞ! 黒弾!」

「承知した! 閃斬!」


 ライアンは盾を正面に構える。そして8本の黒い槍は自身を円状に囲み、全方位からの攻撃に対応できるよう迎撃態勢をとる。


しかし、何もしてこない。土煙が晴れると2人の姿はいなかった。


「……え? それで逃げる普通?」

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