第8話 せめてもの誠意を

セイバは収めようとした剣を引き抜いて、俺に剣先を向ける。

「…ササガミ、闇の力を使うのか……」

目を見開き驚愕している。


「あっ! いや! これは…あの鳥達を倒そうと……」

すぐさま【黒弾】を消す。


いや、これもうダメなやつだ。


「貴様は……私を光の騎士団と知りながら、私の過去を知って……平気で欺いていたのか」

うつむいて声を震わせる。


「違っ、そんなつもりじゃ」

「弁明など聞きたくないっ!! 貴様が闇を……魔王に与する者ならば!! この場で斬り捨てる!!」

ものすごい形相で睨み、両手で剣を構え、殺気を放つ。


あぁ、こうやって言い分を聞いてもらえず、エマも苦労していたんだな……昨日の夜、さらっと言っていたが、仲間もたくさん亡くなって相当悲しんだだろう。


そんな歴戦の騎士様が、俺のことも対等とか言っててくれたしな……怒るよなぁそりゃあ……なら、せめてでも。


 俺は剣を床に落とし、金属音が鳴り響く。その音と光景を目にし、セイバは静止する。


「あんたの怒りはもっともだ。正直に言うのが怖かったんだ。でもあんた良い人だったから、つい一緒にいたくてさ……気が済むようにして構わない。ただ、その前に謝らせてくれ」

 センはゆっくりと膝を床につき、土下座する。

「すまなかった」


 センの行動にセイバの心が揺らぐ。信じたいという気持ちが。そしてそれを魔族、闇の力を行使する者によって、幾たびの死を目に焼き付けた光景が、想いを曇らせる。


セイバは苦虫を噛み潰したような表情で詰め寄る。


「……お前を光の騎士団本部に連行する。」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


俺が連れてかれたのは古い教会だった。ここが光の騎士団のアジトらしい。その扉を開ける前にセイバが口を開く。

「お前はどうして……そんな力を使ってるんだ?」


「……俺はすこぶる弱くてね。これからどう生きていこうと路頭に迷ってた。そんな中、俺を導いてくれた人がいた。胡散臭かったが、正しい使い方を教えてくれてね。おかげで多少マシになったんだ」


何も嘘は言っていない。セイバの生き様からして、信じられないだろうが、俺はこう言うしかない。エマにも失礼だ。


「……エセ・マルエツか」

神妙な顔で、暗く言う。


違います。それと、その名前を真剣に呼ぶのはやめてくれ。俺だってシリアスな空気は弁えたい。


 セイバは扉を開ける。中には数人いた。白い甲冑に兜を付けてて、顔は見えないが、その中に1人だけ兜をつけてない者がいる。


「団長…闇の力を持つ者を捉えてきました」

「ほいほい、精が出るね〜。ってあれ!? これセイバの友達じゃなかったけ!?」


肩くらいまである唸ったロン毛。ほうれい線が顔にしっかりと出ていて、目は閉じてんのかって程細い。騎士団団長という割には威厳がなく、飄々としている顔だ。


「……後は団長にお任せします」

そう言うとセイバは教会から出て行った。あれ、セイバは俺に何も聞かないのか。随分とこの男を信用しているのか?

「ま、じゃあ奥で話そっか〜」


 小さな別室に案内される。椅子2つが向かい合い、間にテーブルがある。

「まま、座って座って〜」

まるで家に客人をもてなすよう振舞う。セイバ同様、気さくな人かもしれん。


「あ、暴れられたら困るから拘束だけするね〜」


前言撤回だこんちくしょう。

背もたれの後ろに両手を縛られる。


「ほいっ紅茶」

「どう飲めと?」

「ごめんごめん〜。まっ話を聞くまでお預けってことで」

くそぅ、何か調子を崩されるというか、やりにくい人だ。そして絶対Sだよこの人。


「で、何でセイバに近づいたんだい?」

「お隣さんだから、ご近所付き合いで」


「ぷっ、すると何かい? 闇の力を持ってて、それが狙われると知っていながらも、ご近所付き合いしてたってこと?」

「……まぁそういうことになるな」


「あっはっはっ! いや、失敬。稽古も鬼だったでしょう? よく付き合ってたね〜」

「まぁいい奴でしたから」


「え? 何々? 惚れてたの? 恋・バ・ナ〜? いや〜参ったな〜、おっさんにはきついって!」


その口調の方がきついぞおっさん。


「それでどこまでいったの?」

「女子かあんたは!」

「でで?実際はどうなの?」

「別に、いい奴だから一緒に居たかっただけさ。アドバイスもくれるし」


「ふ〜ん……」

 意外と驚いて真にうける。もっと茶化すかと思ったがあっさり引くんだな。

「まっ、前置きはこれくらいにして本題に入ろうか〜。君は誰と何をやってる?」


 少しだけ目つきが変わる。探ろうとしてるのか。既に知ってそうなエセマルのこと言って、後は適当にでっち上げよう。


「…あんたも知ってるんじゃないか?エセ・マルエツって人。あの美人でナイスバディな」


「嘘だね」


「っ!?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る