第7話 しかし日常は続かない
セイバの壮絶な過去と意志を聴いて、思わず真顔で拍手する。
「む、拍手されることを言ったつもりはないのだが」
少し困惑するセイバ。
「いやいや!空っぽの俺からしたら拍手喝采もんよ。普通そんなことあったら心折れるし、何よりあんたは言葉通り強くなって、更に上を目指してる。これは敬うしかない」
「む、照れるな」
少し笑い、頭を掻く。
「ところでさ、闇の力を使う人間も悪いやつなのかな?」
「言い伝えでは、闇の力というのは魔王が扱い、魔王の意志に賛同する人間に分け与えたとされている。実際に魔王軍の手引きをする者、私利私欲を満たす者しか見たことない。そのせいで仲間も何人か散っていった」
拳を強く握りしめ、鋭い眼光を放つ。
なるほどなぁ、悲惨な過去に、実体現がいっぱいなら、誤解を紐解くのも大変だな…もう少し信頼を重ねてから打ち明けたほうがいいだろう。
それにしても、魔王に賛同した人間に与えられた力ねぇ……エマは師のマリアさんから与えられたけど、そのマリアさんも誰かからってことになるが……まさかね。
「そうなんか……あ、でもさ! 俺の友達の話なんだけど、余命されてた心臓病の子が、闇の力で治ったらしいんだ。以降その子は元気に社会貢献してるみたいなんだ。もしそんなエピソードを話す子と会ったら耳を傾けてほしい。とてもいい子なんだ」
エマのことを少し話しておく。もしバレた時に、少しでも躊躇してくれたら幸いだ。
「にわかには信じられない話だ。だが、頭の隅に置いておこう。…それと、今のようにかしこまらず話してくれて構わん。私達は対等だ」
あ、思わず素で喋ってた。
「えっ、あぁ……よろしく頼むよ、セイバ」
「あぁ、こちらこそだ、ササガミ。今日はもうお開きにしよう。明日も日中はエセ殿と鍛錬があるのだろう?」
「あぁ、助かるよ。じゃあ明日も稽古を頼めるかな?」
信念があり、いい人だ。何より女性で格好いいと思う人に初めて出会えた。闇の力がバレるとまずい、と思いながらも一緒にいたいくらいだ
「承知した」
2人はゆっくりと宿屋へと戻っていった。
〜〜〜〜〜
あくびをしながら起床する。いつも通り、ギルド集会所に向かう準備をする。
「キャアアアア!!」
「うわぁぁぁ!?」
外から悲鳴が聞こえた。廊下を出て、窓から外を見ると、人々が一方向から逃げてくる。
なんだ!? 何が起きている!?
急いでセイバの部屋をノックし、声をかける。
「おい、セイバ! どうも外がおかしいんだ! 一緒に来てくれないか!」
何かあったときにセイバがいれば頼もしいが、返事がない。仕方なく1人で外を出て、人々が逃げてくる方向へ向かう。
「ヒィ!?」
逃げてきた1人の男性が転ぶ。怪我はないみたいなので、声をかけてみる。
「おいあんた! この先で一体何が起きてる?」
「ヒトクイドリの群れが外壁を超えてきて、この先で襲ってるんだ!」
モンスターかとは思っていたが、どうやらそうみたいだ。センはその方向へ走る。
角を曲がると、体長1m程の鳥の化け物がいた。羽と毛は黄色く、丸くてでかい目で、その周辺だけ赤い。足には鋭い爪、クチバシの中には牙が連なっている。それが建物を壊したり、人を追いかけ回している。パッと見て十数匹ぐらいだ。
黙って見てるほど、俺は畜生ではない。助けねぇと。
「……ごめんエマ、約束破るわ」
両手で【黒弾】を作り、ヒトクイドリの方へ身構える。
センは【黒弾】を2発放ち、ヒトクイドリを2匹沈める。どうやらこいつも1発で倒せるようだ。このまま遠距離で片ぱっしから倒していきたい。
しかし、その思いとは裏腹に、ヒトクイドリ5匹がこちらに向かってくる。
「ですよね……【バスターク】!」
身体を強化させ、逃げ出しながら【黒弾】を準備する。周囲を見渡し、建物と建物の間の狭い通路に逃げ込む。
四方から同時に襲われたらひとたまりもないので、攻撃してくるのを一方方向に絞らせるためだ。
そして先攻する2匹を【黒弾】で撃墜。そして落ちた1匹を回収。続けて3匹がやってくる。
「そぉい!!」
先頭の奴に、回収したヒトクイドリを思いっきり投げつける。【黒弾】は今の俺だと、まだ作るのに時間を要する。手軽に遠距離攻撃するなら、何かを投げるのが得策だ。それがモンスターであれ。
「グエッ!?」
当てられた衝撃でヒトクイドリが地に落ちる。センは前へ走り出し、地に落ちた奴を勢いよく踏みつけ、飛んでいる1匹に向かって飛ぶ。そして首元を片手で掴み、胸に剣を突き刺す。
「グアッ!? ガァ!」
しかし仕留め切れず、脇腹を爪で引っ掻かれる。
「いってぇなこの野郎!!」
掴んだヒトクイドリの頭を、横の壁に力強く叩きつけ、ダウンさせる。そして、最後の1匹がこちらに嚙みつこうと近づいてくる。
「ハッ! そんなに食いたきゃ共喰いしてなっ!」
ダウンさせたヒトクイドリを盾にして防ぎ、剣を引き抜いてその盾を離す。後ろに少し下がり、腰を十分に落としてから上にジャンプし、ヒトクイドリの頭上を越える。
「上からは初体験かい?」
こちらを見上げるヒクイドリの頭に一太刀を浴びせ、絶命させる。いつも上から襲う奴にとって、上から襲われるなんて少ないだろう。
着地した時にヒトクイドリの足を踏んでバランスを崩し、転ぶ。
「決まらねぇな、おいっ!」
思わず自分でツッコミを入れて呆れる。だがおかげで少し冷静になれた。暴走しないよう、深呼吸して気を落ち着かせる。
地面に倒れて生きているヒトクイドリを確実に仕留めた後、その通路から顔だけ出して様子を伺う。まだ何匹かいるがこちらには気づいてないようだ。
一旦隠れ、【黒弾】を準備する。出来るだけ、ここから撃ち落とし、来たら奥に逃げて応戦しよう。
「……よしっ!」
覚悟を決めて前に出る。しかし、出た瞬間にヒトクイドリがバタバタと倒れる、目の前には1人の女性が剣を鞘に収めようしていた。
「む、ササガミ、お前もき……て……」
振り返るセイバは、両手に黒い球を浮かせた俺を見て言葉を失った。
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