第6話 闇の修行……?

「【ダークウェア】!」

俺の全身に黒い膜が纏う。ただ、非常に薄い。黒くて透明なビニールを被ってるみたいだ。当然疑問は……


「なぁ、こんなんでさ、防御力あんの?」

「うーん……ここまでの薄さは初めて見ますから、何とも言えないですね。ちょっと失礼しますね」


そう言ってエマは俺の腕をとり、しっぺをする。

「ちょっ!?そうやって試すの!?」

思ってたよりも、試し方が直接的だなおい。


「どうですか?」

「いや、何ともないな……」

一応効果はあるみたいだ。


「ならお次は!」

エマはスーパーボール程度の【黒弾】を作り出す。え……まさか……

「おい!? 流石にそれは!? 待って! 心の準備が!?」

「待ってても準備は出来ないと思うので、放っちゃいますね」


【黒弾】がセンに向かって飛ぶ。センは咄嗟に腕でガードし、直撃する。衝撃で後ろに仰け反り、倒れそうになる。


「前に受けた時は吹き飛んでましたから、多少は衝撃を和らげていますね。痛みはありました?」

「前ほどではないものの、結構痛かったよ!」

ドッジボールで、男子が全力で投げたボールが当たった感じ。でも、青あざはできてない。


「よしじゃあ次は刃物で!」

 そう言うと、エマの手から黒いオーラが現れ、棒状に集まっていき、大きな鎌ができた。柄は槍ぐらいあり、刃物は草を刈るどころか、大木を両断できそうな大きさだ。


「じゃ、腕を出してください」

「俺の腕を持っていく気?」

「大丈夫ですよ。浅く切りますから。怪我をしたら回復魔法の練習ができるので、問題ないです!」

「その過程が問題だわ!?」


エマは鎌を上から下に振り下ろす。

そしてセンの腕にスパッと切り込みが入る。「痛ぁ!熱っ!」

「やっぱダメでしたか。刃物相手は【ダークウェア】にあまり頼らず、避けるようにした方がいいですね。致命傷は避けらても、重症は避けられないでしょう。じゃあ次は治しますか」


「やっぱわかっててやったのか」

ちょっとエマの闇を見た。


「怪我がなきゃできませんからね……再生魔法は【リボーンス】です。傷口に闇のエネルギーを集めて、元に戻るイメージでやってみましょう」

「全く……【リボーンス】!」

傷が黒いオーラに覆われて見えなくなる。


元に戻る元に戻る、そうだ、傷なんてない、ないんだ。それに俺はインドア派だった。傷なんてもの、俺には無縁だ!


 そんなことを思っていると、いつの間にか痛みが消えてる。傷口の方に目を向ける。黒いをオーラが晴れると、傷もなくなっていた。


「おおおお!やった!!初めてまともに一発成功できた!!」

 今まで何かしら不具合があったため、無事成功したことを盛大に喜び、ガッツポーズを取る。


少なくとも、怪我を負っても治せるから、いざって時に重宝するはずだ。超嬉しい。


「おめでとうございます! やりましたね!」

エマも自分のことのように喜んだ。


初めての一発成功でテンションが上がったまま、今度は【ダークウェア】を応用した変身にチャレンジする。


 目を閉じ、エマやセイバ、父や母の顔を思い浮かべる。だか、どうしても変身できなかった。

「成功は長続きせんか……」

 少し落胆する。


「私ですら、マリアさんくらいにしか変身できませんから…意外と難しいんですよね、他人の顔を正確に思い浮かべるのって」


親の顔より見た顔は流石にないしな、それが厳しいとなると……


考え込みながらエマの顔をじっと見つめる。よく見ると、いや見なくてもそうだが、エマはかなり可愛い方だろう。ぱっちりとした優しい目に、肌は美白で顔も小さい。それに注視すると、普段何気なく見てた顔がよくわかるもんだな。


「……」

これ、アイドルとか女優やったら売れるな、この世界にそういうのあったら、俺は自信を持って売り出す。


「……あのー、そうやってマジマジと見られると恥ずかしいんですが」

エマは顔を赤らめ、背ける。


「動くなッ!!!」

「は、はい!」

背けた顔が反射的に正面へ戻る。そして鼻先が当たるぐらいまで、顔を近づける。


「あ、あの、今度は、近すぎです……」

 見つめ合う2人。耳から聞こえる風邪の音と、体の内側から聞こえてくる鼓動の音が、やけに大きく聞こえる。思わずエマは目をつむった。


「おいエマ、開けてくれないと顔がよくわからないだろう」

「そ、そう言われても……うわ!?」


目を開けると自分の顔が目の前にあり、エマは仰け反る。


「お、できた?」

顔をペタペタと触る。エマの姿になれたみたいだ。肌がツルツルだなぁ、てか感触も再現されてるのか。


「実物見ながらなら、できるなこれ」

「やられるほうは色々と心臓に悪いですよ!

それに、私に変身したら追われるだけですよ……」

「要課題かぁ、使えたら便利そうなんだがなぁ」

逃げるのに。後、楽しむのに。

「とりあえず、今は光の騎士団方達にバレないのが1番ですから、街からいなくなるまで大人しくしてましょう」

「あぁ、なるべく俺も接触は控えるよ」

 そして2人は街へと帰っていった。


 〜〜〜〜〜

「と言ったものの……」

 街へ帰り、宿屋の廊下でセイバと会って、結局空き地で稽古をすることになった。しかし今回は打ち合うことはせず、素振りを一緒に行っていた。


「無駄のない攻撃をするには、正しい型を体に覚え込ませるのが1番だ」

凛とした表情で軽く汗が流れるセイバ。


「ぜぇ、そうなんですか、ハァ」

息絶えそうな顔で水をぶっかけられたぐらい汗が吹き出る俺。


「む、一旦休憩しよう。ちゃんと水分はとったほうがいい」

そう言ってセイバはセンに水筒を渡す。それを一気に飲み干した。


よかった、死ぬかと思った。


「辛くはないだろうか?」

「えっ、いやまぁ俺は全然体力ないもんで……」


「そうか。どうも私はやりすぎてしまい、他の人はついていけないことが多いのだ」


あ、よかった。俺だけじゃないのか。


「そりゃあセイバさん半端ないから……どうやったらそんな強くなったんです?」

「目的がある……魔王や魔族、闇の力を持つ者の根絶だ。そのために剣を振るう」


やべ、対象に入ってる。


「その理由を聞いても?」

「私が住んでた村は、生まれつき光の力を持つ一族だった。それを目につけられ、魔王の大軍に襲われたのだ。当時、その村で1番幼かった私は優先的に逃がされ、なんとか生き延びた。しかし、私以外は助からなかったのだ」


セイバは悲しげな目をして話を続ける。

「その話を聞ききつけた先代の騎士団長が、私の身を引き取り、鍛えあげてくれた。騎士団の中には友もできた……だが今はもういない。


先代騎士団長も1年前、魔王の四天王の1人と相討ち、命を落とした。大切な人達の命を奪われ、私怨もある。そして何より友と師が目指した平和を叶えたい。だから私は、生ある限り強くなり、魔を討たねばならない」


凛々しく、力強く、夜風に髪を揺らさながらセイバは語った。

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