第5話 闇の力の美談

もうダメだ、このまま話を変えるのはあまりにも不自然だ。ごめんな、エマ。師匠不孝な俺を許してくれ……


「いえ、時間稼ぎありがとうございます」

 後ろを振り返ると、エマはフードを深く被り、影で顔は見えない。だが、違和感を覚える。まず、背が伸び、胸がでかくなっていて、ボディラインが強調されている。それに髪の色が変わっていた。


 エマはセイバの前に立ち、フードを取る。露わになったのは、エマの顔ではなかった。淡い栗色のロングヘアーに、色っぽい目をし、唇の左下にホクロがある、超絶美女。


あ、いい! 例えるなら理想の保健室の先生!


「お話は聞いているわ、エセ・マルエツです。よろしくね」

にっこりと笑いかける。口調は違うが、声自体はエマだ。見た目だけを変える魔法みたいだ。


「私の名はセイバ・エンリヒトだ。そなたがあのタイラントウルフキングを倒した者か。是非、手合わせを願いたいものだ。今日、時間があるなら頼みたい」


正体がバレなくても、バトりたいようです。


「あら、嬉しいわ。でも、残念。最近は忙しいの。それに、この子は右も左もわからないくらいだから、立派に育てるのが最優先なの」

そう言うと俺の頭にポンッと手を置き、思わずドキッとする。こう……グッとくる。


「む、それは残念だ。機会があれば是非」

「えぇ。それじゃまたね」

握手を交わし、エマとセンはギルド集会所から離れる。



「おっ何だ友達〜?セイバが団員以外と喋ってるなんて珍しいな〜」

セイバの元に声がかかる。


「いえ、違います団長。あのタイラントウルフキングを倒した者達です。1人は宿の隣人で、一度稽古を」


「…隣人の子は、それって友達っていうんじゃない〜? ま、あまり無理はさせないようにね〜。君結構鬼だし」

「……友、ですか。気をつけます。今度は、倒れられないように」

「遅かったか〜」


 〜〜〜〜〜

「こ、ここまでくれば安全ですね」

 草原地帯まで離れ、元の姿に戻るエマ。


「ふぃ〜焦ったー。しっかし、変身までできるとは。それも何かの技なのか?」

「【ダークウェア】の応用です。全身に纏う闇の膜を変化させ、見た目を変えるんです。……ああいう時に便利です」


「ほ〜。いや〜にしても変身したあの姿、色気ムンッムンッなお姉さん!隣にいるだけでドキドキしてしまったよ」


「……ふーん、私はそうじゃないと言うんですか?」

少し拗ねた風に言う。

「いや、エマは可愛い系で、あのお姉さんはセクシー系、いわばエロスだ!」

「私の師であり、命の恩人である姿に向かって、変なことを言わないでくださいっ!」

目を細め、頰を赤らめて怒鳴る。


えっあの人実在すんの? 会いてぇ! いや、その前に……


「……その命の恩人とやらの姿を、隠れ蓑にするエマもどうかと思うぞ?」

「き、緊急事態でしたから!それに、よく見たことがある姿じゃないとできないんです。より精巧なイメージで作らないといけないので」


「じゃあ今日はそれも教えてほしいな。俺もセイバにバレたら使いたいし」


これって女になっても、スタイル変わるからひょっとして……いや、今は考えないでおこう。


「うーん、時間があればですね」

「オーケー、エセマル!今日の目的地は?」

 検索をかけるみたいに言ったら、エマに極小サイズの【黒弾】をぶち当てられ、吹っ飛んだ。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「ふぅ、それじゃお昼休憩にしましょう」

 森林地帯にて、午前中の訓練を終え、ドサッと座り込む。昨日の疲れもあり、なかなか応える。全身筋肉痛だ。


ただ、訓練の成果もあり、手のひらで同時に1ずつ【黒弾】を出せるようになった。【バスターク】も適切にだが、使えば使うほど平常時の筋力や体力も上がっていくとのこと。いつの日か、俺もセイバぐらい動ける日がくるのかもしれん。


 バックから軽食を取り出し、食べ始める。ギルド集会所に戻って食べないのは、さっきみたいに鉢合わせるのを避けるためだ。


にしても、エマが変身した師匠の姿、綺麗だったなぁ。どんな人なんだろうか……命の恩人って言ってたし、ちょっと聞いてみよう。


「そういや、エマの師匠のことなんだけどさ」

「……また見た目のことですか?」

セクハラ発言する上司に、釘を刺す目をしている。


「違うって、エマと1番最初に会ったときに、闇の力で命を救われたって言ってたじゃん?で、それで助けてくれたってのが、変身したあのお姉さんの姿なんだろ? エピソードが気になってな……悪い奴らに襲われていたのを颯爽と助けたとか?」


「いえ、でも命を救われたというのは言葉通りです。私は心臓の病気だったんですよ。ベッドの上でしか生活できなくて、身体はどんどん衰弱し、10歳も生きられないと医者に宣告されていたんです」


エマにそんな過去が……


「そんな私を助けてくれたのが、お見せした姿…マリアさんなんです。闇の力で、創造と再生の魔法を駆使し、私に新しい心臓を与えてくれました。それからは毎日楽しくて、普通に生きられることが幸せで仕方なかった…だから私はこの力で、多くの人を助けたい」


 思ってたよりもいい話で、涙腺が緩む。マリアさん……お宅の子はスクスクと育ってますよ。


「グスッ……でもそうなると、なんでエマは命を救うというより、初心者冒険者のサポートすることにしたんだ?」


多くの命を助けられ、闇の力を貢献するなら、そういう医者的なポジションの方がウケもいいと思うのだが。


「それは、闇の力を使う者、治された者は、定期的に闇の力を使わないと心身に不調をきたします。そのため、無理矢理に闇の力を使わせることになってしまうんです。私は構わなかったんですが、考えは人それぞれです。だから、どうしてもっ! という時以外は闇の力で治したくないんです」


 永続的に闇の力を使うのを強制させるってことか。なるほどねぇ、ちゃんと考えて……ちょっと待てよ?


「なぁ、それって俺も使ってないと体調崩すのか?」

「えぇ。あ、あれ?最初に説明していませんでした?……」


いや、聞いてないっす。


「最初の勧誘に漏れがありますよ、エセさん。訴えられますよ」

まぁ【エニウェイドア】とか老後に便利そうだからいいけどさ。


「そんで結局、そのマリアさんってのは今どこにいるんだ?」


ごめん、これが1番の目的。頼む! 生きていてくれ!


「連絡してるわけじゃないですが……今もきっとどこかで旅をしていると思いますよ。私も出会えたのは偶然なので」


いよっし! 望みはある!


「そんじゃ、いつか会ったときに、あなたが救った子のおかげで、人生助かりましたと言えるよう、修行に励みますか!」


「ふふっ期待していますね!」

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