第4話 エセ・マルエツ

セイバは木剣を下ろし、センに手を差し伸べる。

「なかなか面白い戦いだった」

「いえいえ、完敗です」

その手を掴み、ゆっくり立ち上がる。


ちゃんと考えて上手くいったが、これは完敗だな。まぁ触れらただけマシと思う。


「特に最後のは見事だ。本来なら、自ら武器を手離すのは愚かだが、あえて顔に投げることで、しゃがませて上段からの攻撃を封じる。後は攻撃に合わせて身を低くく滑り込み、足を狙う。相手の行動を制限して、確実に次の攻撃を当てるいい妙技だ」


いや、転ばせたかったから、ジャンプさせないようにしただけなんだけど。それに剣で弾かれたら、引き返す気満々だったし……だから、一か八かの勝負だった。

でも、評判いいし、これからも使ってこ。


「ただ、鍛練がまだまだ足りないな。もう少し力があれば、私は倒れていただろうに。」


 強化した身体に、スピード乗った蹴りを受けて、微動だにしないのは最早ずるい。


「1つ質問だ。手洗いに行くと嘘をつき、一体何をしたのだ?」


あ、やっぱバレてたか。でもちゃんと嘘は用意しといた。そしてトイレは嘘じゃない。


「実は最初、重りをつけてたんです。連れの……エセさんに鍛えてもらってるので。普段着けるよう言われてたんです。ですけど、本気でどこまで通用するか、試したくて」


これなら、動きが変わった言い訳としても通用するだろう。それにまさか重りを見せてくれなんて言わないだろうし……言わないよね?


「なるほど、焚き付けてしまったか」

セイバはクスッと笑う。


あぁよかった……


「にしても、圧巻の強さでした……光の騎士団というのは皆、セイバさんくらい強いんですか?」

「うーん、一応私は副騎士団長を務めているのだが」

顎に手をつけ考え込むセイバ。


この人No.2!?


「剣の腕だけなら、騎士団長は打ち負かせる。まぁ団長は多彩な技や魔法を使い、君みたいに知恵を使うのが得意だしな」


実質のトップじゃねぇか。まぁ負けた言い訳にならないが、片足蹴っても動かないのは納得。にしても、少し……いや、かなり疲れたなぁ。


「ササガミ殿も鍛えれば、かなりいい線いくと思うぞ。……そうだな、片手で扱う剣なら半身に構えた方がいい。当てやすく、避けやすくなる。後はチャンスに、最速で最短に当てられるよう、稽古を積み重ねることだ」


「アドバイス……ありが……」

あ……あれ?全身が重い……尋常じゃない眠気が……

センはそこで意識を失う。

「大丈夫かササガミ殿!?」

倒れるセンの身体を咄嗟に抱える。


スースーと寝息を立てていた。

「むぅ、無茶をさせたみたいだ」

困ったように笑い、センを抱え上げ、宿屋へと戻っていった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


ギルド集会所の受付にて。

「ーーということが昨日の夜あったんだよ。厳しいけどいい人だったよ。誤解さえ解ければ、仲良くなれるかもよ、エセさん」


「そう言われても…私の時には、弁明も何も聞いてくれませんでした。どうも、闇の力を使う人に対し、すごい恨みがある感じで。

あと、その偽名は咄嗟に考えたものなので、やめてください」


「うーん、隠し通すしかないのかなぁ。あ!そういや、突然眠気とだる重くなったのて、やっぱ使い過ぎのせい?エセ・シュヴァルツさん」


「当然ですっ!今日に影響が残らないよう、昨日は早めに切り上げたのもあるんです。私がいない間は、闇の力を使わないと約束してください!

あと、後悔してるんで、やめてください」


「いやぁ面目無い!……そんで今日は何をするんだい?エセ・マルエツさん」


「今日は午前中に、【黒弾】と【バスターク】の反復練習、午後からは【ダークウェア】とまだお見せできてない、再生させる魔法の習得を目指します!

あと、いい加減、やめなさい」


段々と声に殺気がこもってきたので、偽名をいじるのはここが潮時か。しかし、面白い偽名だ、また後でイジろう。


そして【ダークウェア】はタイラントウルフに噛まれても、ピンピンな防御力を誇る鎧みたいなもの。ちなみに、再生させる魔法っていうのは、俺が見てなかっただけで使ってはいる。俺が初めて【黒弾】を作り、自爆した時に治してくれたのがその魔法らしい。


「それじゃ、適当なモンスター討伐依頼でも受けて、行くとしましょう!」

 エマがギルドの係員とやりとりする


「む、ササガミ殿、おはよう」

「おっあ!?おはよ!?」

あまりの突然な出来事に声が裏返るも、慌ててエマが隠れるように立ち位置を変える。エマも気づいたのか、片手でサッとフードを被る。


「どうした?様子がおかしいぞ?昨晩に倒れたのと何か関係あるのでは?」

心配そうな表情で見つめてくる。

「い、いや、まだ本調子じゃないだけで……あ!昨日は運んでくれてありがとうございます!」


な、なんとか会話を引き延ばし、エマを逃がさなくては……


「いや、知らずに無理をさせてしまった、こちらの不手際だ。申し訳ない。」

「とんでもない! またお願いします! セイバさんも何か受けるんですかい?」


とにかく話題を振ろう! もう騎士団の自慢とか全然聞きますんで! 完璧な合いの手を入れるのでっ!


「あぁ、個人的に。今は他の騎士団員がとある件を調べていてな。その間に、増えているモンスターを退治にでもと」


「いや〜偉いっ! ほんっとセイバさんは真面目で崇高な精神をお持ちだ! 尊敬します!」


褒めちぎってやる、ペラペラと喋りたくなるほど気持ちよくさせてみるっ!


「そう言われる程ではない。私は当然の義務だと思っている。ところで、さっき誰かと喋っていたように見えたが、もしや奥にいるのはエセ・マルエツ殿ではないか?それなら是非挨拶をしたいのだが……」


「えー、あーちょっと待ってください」


 終わった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る