第3話 ご近所突き合い

「どうした!悪党やモンスターは情けをかけんぞ!」

 宿屋から少し離れた空き地で稽古を行っている。木剣を持ち、剣道のように構え、喝を飛ばすセイバに、横たわる俺。


思ってたよりもスパルタだった。そして何よりめちゃめちゃ強い。一撃一撃が重く、木剣で受けても手が痺れる。こっちの攻撃は簡単にいなされるし。


くっ、今のままじゃ全く歯が立たない。こうなったら……


「ちょっすんません!お手洗い、行ってきていいですか!」

「む、わかった。終えたら再開といこう」

俺はそう言って、トイレで用を済ませ、【バスターク】を使う。


ヘヘッ、これでもうでかい口を叩せなくしてやる。


 今日暴走しかけたことを忘れ、セイバの元へ戻る。

「いや〜スッキリスッキリ! お待たせしました!」

「ならば、再開するとしよう。…む?」

「どうかしました?」

「いや……何でもない」

 一瞬勘付かれたか?と疑うが、流されたので、流すことにした。


「ハッ!」

セイバはセンの胴体に向け、鋭い突きを放つ。


「うおっ!?」

その突きを、身をよじり、かろうじて躱す。

身体能力を強化していてもギリギリだ。だがおかげで攻撃のチャンスに。


木剣を横になぎ払うが、即座に木剣で防がれる。

「なっ!?」

「驚いたな、さっきとはまるで別人だ」

セイバはニヤリと笑う。


別人になっても、攻撃が届かなきゃ意味がない。めちゃくちゃ強いんじゃないか、この人……


「……我慢してたもんで!」

その後、何度か剣を交わすが、一向に剣は当たらない。

「だが、まだまだ動きに無駄多いぞ!」

 セイバのスピードが上がっていき、防戦一方になる。


さっきまでは手を抜いていたのか!?


一旦距離を取り、体勢を整えて策を練る。

「どうした!もう終わりか!」


その通りです、終わりにしましょう。と、言いたいが、このまま終わるのも釈然としない。なんとか一撃でいいから入れたい。


ただ、正攻法では攻撃は当てられない。身体能力も、剣の技術も相手が格上だ。とは言っても、【黒弾】は使ったら捕まる。使えるのは己の身体とこの木剣だけ……


考えるしかない。俺はゴブリン達と戦った時も、頭を使って分断したからスムーズに倒せたんだ。


考えろ……この木剣を使って有効な手立てを……普通に斬りかかっても通用しない。他の使い方をしなければ……


そして攻撃は、さっきみたいに相手の攻撃を空振らせてのカウンターしか、チャンスはない。だが、攻撃をしっかり避けてからカウンターしても、さっきみたいに間に合わない。攻撃を避けながら、仕掛けなければならない。


横に避けてもダメだ、上からなら……いや、わざわざジャンプして避けても、その後攻撃に繋げる技術も自信もない。残るは下から……か。


おっけ、考えはまとまった。後は……一か八かで勝負するしかあるまい。


 一気にセイバの元へ駆けると同時に、木剣を顔に目掛けて投げる。


それをしゃがんで躱され、向かってくるセンにカウンターする。


しかし、センの身体が急に沈み、空振る。狙いは始めから、足へのスライディングだった。別に野球部でもなんでもねぇが、知識として知ってる。それに身体を強化した今、経験がなくとも、多少強引に出来る!


もらった!


 スライディングした蹴りが、狙い通りセイバの足にヒットする。が、体勢を崩すどころか、ビクともしなかった。


え?


セイバの木剣の剣先が、額にツンと当たる。

「これでチェックだ」

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