第1話 リベンジの果てに

 センとエマは森林地帯、あのタイラントウルフキングと戦った川辺に来ていた。エマは周囲を隈なく見渡す。


「ここなら誰もいないみたいですね」

光の騎士団と出会ってからか、エマは辺りを警戒するようになった。


「あの……隠していたことは謝ります!魔王が使う力に、一部の人達から目の敵にされていると……でも! 本当に闇の力は正しく使えばっ!」

エマは焦るように言う。


でもあの力を見て、自由に使いこなせれば、とんでもなく強力だと思う。それに、エマ自体に多大な恩がある。あれだけ逃げようと思っていたが、もう今はそんな気持ちはない。


「あ〜ストップストップ。魔王と同じ力ってのは気にしちゃいないよ。バリバリ使ってそうだし、それに何かちょっと唆る」

満更でもない顔をする。


魔王をも扱う力、世間的には印象悪いが、マスターできればエマ並みに、魔王にすら近づけるということではないか! これは男心をくすぐられる。


「ただ、バレたら捕まるってのは厄介だなぁ。まぁだからこそ、こうやってお忍びで鍛えてくれようとしてるんだろう?」


「えぇ、でも……いいんですか?」

「ここまで至れり尽くせりだし、投げ出す気は毛頭ないよ。」


「あっ、ありがとうございます!!」

エマは心底救われたような顔をし、センの手を取ってぶんぶんと振る。


照れ臭くて言えないけど、純粋でいい子だしねぇ。裏切れんよ。


「んで、今度は何を教えてくれるんだ?」

「身体能力を強化させる、【バスターク】です!」

エマはテンション高く受け答える。


【バスターク】、タイラントウルフキングの猛攻をひらりと躱し、あの大型トラック級の巨体を一本背負いした、脅威的な身体能力。今では夢のような出来事にも思える。


「【バスターク】と唱え、闇のエネルギーを全身に出して、内側に取り入れるような感覚でやってみてください」

「こういうのってやっぱ口に出した方がいいのか?」

慣れてないこともそうだが、ちょっと恥ずかしい。元の世界だと、はたから見たら痛い人だ……


「言葉にするのは、イメージの補助に繋がるんです。何個も技を覚えていく内に、頭の中だけでは切り替えにくいですから。それに言葉には力があります。まだやれる、と口に出すだけでその気になれる。だからとても重要なんですよ」

確かに、暑い暑いと言うとより暑く感じる、みたいなもんか。


「よし、【バスターク】!」

センの体が、赤黒く薄い光に覆われ、次第に消えていく。

「おぉ……なんかすげぇ」

目に見える変化はなくなったが、体が軽く、力が湧き出る。


「ギィギィ!」

茂みの奥から声が聞こえる。ゴブリンの群れだ。あちらも気付いてるようで、石を投げてきた。


石の動きがよく見え、左手でキャッチする。

さりげなく出来たが、自分の行動に驚く。本来なら、俺にここまでの運動神経はないのに……

「いいタイミングですね、早速実戦といきましょう」


「えっ!? いきなり!?」

「大丈夫ですよ。センさんも思うとこがあるでしょう」

 確かに、今なら闘えそうだ。しかし、そうやって過信した状態で、ボコボコにされたことがあるのがゴブリンだった。内心ビビりまくりだ。


ま、やってみるとするか。やっとまともに戦えるチャンスだ。今回はちゃんと考えて動こう。


俺は剣を引き抜く。ここに来る前に実戦と聞いて、安物だが、刃渡り50cm程度の剣を購入しておいた。まさかすぐに使うはめになるとは…


「万が一に備え、いつでも迎撃できるで安心してください!」

 エマの周囲に無数の【黒弾】が空中で静止している。危なくなったら一瞬で倒してくれるのだろう。


「頼もしいね……」

 ゴブリンの数は全部で4匹。距離は約15m。最前列に2匹横並び、その後ろに2匹控えてる。投げた石を簡単に取られたからか、警戒しながらジリジリと距離を詰めている。


 多勢に無勢、無闇に突っ込んだら囲まれていい的だ。遠距離から攻撃できる【黒弾】も、今の俺じゃ時間がかかって、隙だらけだ。そういうわけで……


「ピッチャー第1球、投げました!」

 俺は先程キャッチした石を前方にいる1匹に向け、全力で投げる。

「ギギャ!?」

 見事、ゴブリンの頭にクリーンヒットし、倒れる。コントロール力も向上してるようだ。


「よしっ!」

 当たったのを確認すると、瞬時に前方のもう1匹に近づき、思いっきり蹴り飛ばす。

「ゴブっ!?」「ガギャ!?」

 吹っ飛んだゴブリンの先に、後ろに控えていた1匹がいて、巻き添えをくらう。


すげぇ、俺にこんなパワーがつくとは……さてと、これで一旦は一対一だ。楽しくなってきた。


「ゴア!!」

 無事なゴブリンが棍棒を振り上げ、殴りかかってくる。だが、まるでスローモーションに見える。戦闘技術、経験がない俺でも簡単に避けれるぞ、これ。


横に躱し、ゴブリンの首元に剣を刺し込むと、崩れ落ちていった。初めての殺生だが、不思議と抵抗や不快感はない。むしろ……


「お次は……」

センの目が赤黒く光る。


 吹き飛ばされた2匹が立ち上がろうとするが、1匹は背後から切られ、地に伏せる。

「ゴッ!?」

 それを見たもう1匹は、慌てて這いずりながら逃げようとする。しかし、背中を踏まれ動けなくなる。

「おっと、逃がさねぇよ。人に石投げといて、それはないだろ。連帯責任として、たっぷり……」


簡単に殺しはしない、まずは四肢を切り取るか。いや、あえて同じ所に攻撃し続けた方が苦しく、楽しくーー


 その瞬間、エマが【黒弾】を放ち、最後のゴブリンは動かなくなる。

「チッ、いいとこで横槍入れんじゃっ」


「センッさん!!!!!」


エマの声が森に、俺の頭に響き渡る。

「あっ……あぁ」


あれ、俺は今……なにをっ……


「……これが闇の力のリスクです」

エマはうつむき、どこか悲しげに言う。

「でもっ! 力任せに戦わず、ちゃんと戦力を分断し、確実に仕留める! 戦略はお見事でした!」

いつもの明るい口調に戻る。


「ハハ、ありがと……エマ」

ああやって闇の力を使っていく内に、惨虐になり、行き過ぎた行為をしていくのだろう。


…それを嫌うエマには、申し訳ないことをしてしまった。

「落ち込んで、間違っていると気付いてくれるだけで嬉しいです。さぁ、もう帰りましょう」

 日が暮れ始め、2人は街へと戻っていった。……これからは気をつけないとな。

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