第3話 闇の力を味わう

「ギャオォォォォ!!」

 灰色の毛並みをし、大型トラックぐらいの狼が2人に向け、咆哮する。


「間違いないです。タイラントウルフ・キングです」

「よし、じゃあ帰ろっか」

「いやいや!?目標を目前にして何を言ってるんですか!?」


「だって今日は見学だろ?ならもう充分堪能したって。早く【どこでも扉】出して」

「落ち着いてください!それと【エニウェイドア】ですから!!」


そうこうしているうちに、タイラントウルフは距離を詰める。

「センさんは私の後ろへ!…絶対に大丈夫ですから」

メガネを外し、微笑みかける。あぁ、ちゃんと心配かけないよう、気配りがしっかりしている。でもごめん、超帰りてぇ!


「【バスターク】!」

そう叫ぶとエマの身体が赤黒く光る。


「身体能力を上げるものです!」

 タイラントウルフがエマに噛みつこうとするが、寸前のところで躱す。何度も噛みつくものの当たらず、ガチッと歯が重なり合う音だけが響く。そしてその音が聞こえる度にヒヤヒヤする。


うわっ!ひっ!……あーこれ心臓に悪いわ。


「【ダークウェア】」

エマの身体が分厚い黒いオーラに覆われる。

 その後、横から噛みつかれ、首から下はタイラントウルフに咥えられる。


「なっ…!エマァァ!」


マジか、ヤバイヤバイヤバイ。ついにやられた……もうダメだ、おしまいだぁ……


「あ、大丈夫ですよ。これ全身を覆うアーマーみたいなものですから、痛くもなんともありません。…ただこの距離だと流石に臭いがきついですね」

顔をしかめ、鼻をつまむエマ。


全然余裕そうだった。


「ウウウウゥゥ」

 タイラントウルフは、力を加え続けるも噛み切れず、唸り出す。そしてエマを咥えたまま大きく首を横に振り、エマを勢いよく放り投げる。エマのことは食べられないと判断したからか、今度はセンの方に顔を向ける。


おいおい、死んだわこれ。


 そう思った瞬間、タイラントウルフの顔に黒い球が弾け、よろめいて体勢を崩す。ゴブリン達に使った【黒弾】であった。


「あなたの相手はずっと私ですよ」

 タイラントウルフは離れたエマを睨み、地を強く蹴り出してエマの元へ飛ぶ。


 エマの後ろに【エニウェイドア】が現れ、エマは後ろに軽く飛んで中に入り姿を消した。

「ヴォウ!?」

 獲物がいなくなったことでタイラントウルフは立ち止まり、左右を見渡すが見つけられない。

「ーーこのように【エニウェイドア】は戦闘中の回避に、簡単に裏を取ることができるんです。」

 タイラントウルフの後ろから声が聞こえる。そこには尻尾を掴んだエマがいた。

「せいっ!」

尻尾を背負い投げ、あの巨体が宙を舞い、地面に叩きつけられる。


化け物が化け物を投げる。もうそうにしか見れない。


 横になったタイラントウルフは足を震わせながら、何とか立ち上がろうとする。今まで投げられたことなんてないだろうに、凄い精神力と生命力だ。

「はぁ、仕方がないですね」

すると、タイラントウルフと同等サイズの黒い手が地面から生え、タイラントウルフを掴む。

「うわっ!?」

「ギャウ!?」


なんじゃありゃあ!?


「お座りっ!です!」

 タイラントウルフはまたしても地面に叩きつけられ、ぐったりと力尽きる。


「どうですか?センさん、これが闇の力ですよ」

エマはニヤッと笑い、得意気に言った。

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